徐脈、ブロック
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 01:53 UTC 版)
房室ブロック(AVブロック) 房室伝導系の障害でありI~III度に分類される。心筋梗塞に随伴する場合や加齢による刺激伝導系の障害が原因となる。若年者でもサルコイドーシス以外は明確な原因が特定できない場合が多い。房室ブロックはヒス束を中心に考えてヒス束より上位のAHブロック、ヒス束より下位のHVブロックに分類することもある。HVブロックでは補充収縮が十分に期待できないため、突然死のリスクとなる。徐脈の治療にアトロピンが使われることが多いが、ヒス束より上位のブロックには有効であるがヒス束より下位のブロックには無効な場合が多い。特にMobizII型房室ブロックやIII度房室ブロックではブロックが悪化することも稀にある。また補充収縮や除神経された心臓には効果がない。0.5~1.0mgを3~5分かけて静注する場合が多く最大量は0.04mg/kg(通常2mg)である。低用量のアトロピンの使用は中枢性迷走神経刺激作用にて一過性に心拍数を減少させることがある。虚血性心疾患に伴うブロックの場合アトロピンの使用は心筋虚血を悪化させるリスクや心室細動を誘発するリスクもある。イソプロテレノールは殆どの徐脈において心拍数をあげることができるが虚血の悪化、催不整脈のリスクから適応は限られる。 分類内容I度房室ブロック 房室伝導時間(PQ時間が0.20秒以上)のみの延長 II度房室ブロック 間欠的な房室伝導時間の延長、MobizII型、Wenckebach型に分かれる III度房室ブロック 房室伝導が完全に途絶 分類ブロック部位ペースメーカーの適応I度房室ブロック ヒス束上、内、下 適応なし Wenckebach型II度房室ブロック ヒス束上 適応なし MobizII型II度房室ブロック ヒス束内かヒス束下 しばしば適応あり III度房室ブロック ヒス束上、内、下 しばしば適応あり I度房室ブロック 房室伝導時間(PQ時間が0.20秒以上)のみの延長し、正常なP-QRS関係は保たれる。 mobitzII型II度房室ブロック 正常なP波は規則的に出現するが、それに続くQRSが間欠的に欠落する。ブロックが生じる前後のPQ時間は一定である。このような心電図異常をしめす場合はHVブロック(HIS束~心室間のブロック)であることが多く、完全房室ブロックに移行しやすい。この時に出現する補充収縮はQRS幅が0,12秒以上で心拍数が極端に遅い。突然死のリスクがあり無症候性であってもペースメーカーの適応となる。 wenckebach型II度房室ブロック 正常なP波が規則的に出現するがそれに引き続くQRSが間欠的に欠落し、ブロックの直前のPQ時間は直後のPQ時間より長いことで診断される。ヒス束より上位のブロックであるAHブロックであることが多く高度なブロックに進展しても補充調律は0.12秒より小さく、極端な徐脈になりにくい。そのため、無症候性ならば突然死のリスクは低くペースメーカーの適応とならないことが多い。 2対1房室ブロック P波は一定の間隔で出現するがP波の一つおきにQRSが脱落する。伝導されているPR時間は一定であり通常は正常範囲の長さである。この場合はブロックの部位を推定できない。 高度房室ブロック P波は一定の間隔で出現するが心室に伝導されないP波が二個以上連続する。 III度房室ブロック P波とQRSのつながりが全くなく、お互いに無関係に出現するものである。P波もQRSも一定の間隔で出現(PP間隔、RR間隔一定)であろPP間隔よりRR間隔の方が長いことが多い。このQRSは補充収縮によるものであり、QRS幅が短く形が正常に近い場合はブロック部位が房室結節かヒス束内であり心拍数は比較的保たれる場合が多い。QRS幅が広く変形が強い場合は心室由来の補充収縮であり徐脈の傾向が強い。PP間隔がRR間隔より長い場合は洞徐脈に対して補充調律が認められている場合や心室頻拍を疑う。突然死のリスクからペースメーカーの適応となる。 心筋梗塞に伴うブロック 心筋梗塞に伴うブロックの所見は責任血管によって意味が異なる。下壁梗塞、右室梗塞では房室ブロックの頻度が高い。この場合はI度房室ブロック、Wenckebach型房室ブロック、完全房室ブロックという順に進行する場合が多い。Wenckebach型房室ブロックが認められたら、一時ペーシングを行う。下壁梗塞、右室梗塞ではブロックは数日以内で改善する場合が多く、完全房室ブロック、Wenckebach型房室ブロック、I度房室ブロック、正常化という順に改善する。永久ペースメーカーが必要となることは稀である。前壁中隔梗塞で房室ブロックが生じる場合はヒス束から左右の脚が分枝する付近まで広範な梗塞がなければ起こり得ない。この場合は極めて重篤な状態である。原則としてHVブロックでありアトロピンが無効である。そのためイソプロテレノールの静注や一時ペーシングが必要である。改善は期待できず永久ペースメーカーが必要である。同様に前壁中隔梗塞に脚ブロックが生じた場合も今後ブロックが進行する可能性があり、一時ペーシングの準備が必要である。
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