失敗したことで有名な実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/26 01:30 UTC 版)
「マイケルソン・モーリーの実験」の記事における「失敗したことで有名な実験」の解説
これらの緻密な考察と工夫にも関わらず失敗したことで、彼らの実験は有名になった。エーテルの性質を明らかにすることが目的であったが、The American Journal of Science に掲載されたマイケルソンとモーリーの1887年の論文では、検出された干渉縞のずれは期待されたものの40分の1程度であったこと、およびずれは速度の二乗に比例することから、測定された風速は地球の公転速度の約6分の1であり、「大きくとも4分の1」であると結論された。このような「風速」が測定されたとはいえ、この値はエーテルの存在の証拠としては小さすぎ、後には実験誤差の範囲であり実際の「風速」は0であると考えられるようになった。 マイケルソンとモーリーの1887年の論文の後も、さらに工夫を凝らした実験が続けられた。ケネディとイリングワースは、鏡に半波長の「段差」を設けることで装置内で発生する干渉を軽減した。イリングワースは300分の1、ケネディは1500分の1の干渉縞のずれを、それぞれ検出した。ミラーはビラリ現象を防ぐために磁性体を用いない装置を作成し、マイケルソンは不変鋼を用いて熱の影響をさらに小さくした。その他にも、外乱を防ぐ様々な工夫がなされた。 モーリーは自らの実験結果に納得せず、デイトン・ミラーと共に、さらなる実験を行った。ミラーは、光線が 7001320000000000000♠32 m もの距離を移動する巨大な装置をウィルソン山天文台 で建設した。エーテルの風が建物の厚い壁に乱される可能性を懸念し、彼は、布で作られた小屋を建てた。彼は装置の角度や恒星時によって生じる様々な、小さなばらつきを一年ごとに測定した。彼の測定では、エーテルの風速は最大でも 7004100000000000000♠10 km/s であると結論された。ミラーは、この風速が地球の公転よりも遅いのは、エーテルが地球の公転に「引きずられる」からであると考えた。 後年、ケネディもウィルソン山において実験を行った。その結果、干渉縞のずれはミラーによって測定されたものに比べて10分の1しか確認されず、また、季節ごとの変動も見られなかった。これに基づくマイケルソンやローレンツらによる議論が1928年に報告され、そこではミラーの実験結果を確認するための追試が必要であると結論された。ローレンツは、原因が何であれ、実験結果が彼とアインシュタインの特殊相対性理論と矛盾すると考えていた。この議論にアインシュタインは参加していなかったが、彼は、干渉縞のずれは実験誤差であると考えた。現在にいたるまで、ミラーの実験結果の再現には成功していない。 報告者年光線の移動距離 (メートル)期待された干渉縞のずれ測定された干渉縞のずれ実験の分解能エーテルの風速の上限マイケルソン 1881 1.2 0.04 0.02 マイケルソンとモーリー 1887 11.0 0.4 < 0.01 8 km/s モーリーとミラー 1902–1904 32.2 1.13 0.015 ミラー 1921 32.0 1.12 0.08 ミラー 1923–1924 32.0 1.12 0.03 ミラー (太陽光) 1924 32.0 1.12 0.014 トマシェック (恒星光) 1924 8.6 0.3 0.02 ミラー 1925–1926 32.0 1.12 0.088 ケネディ (ウィルソン山) 1926 2.0 0.07 0.002 イリングワース 1927 2.0 0.07 0.0002 0.0006 1 km/s ピカードとスタヘル (リギ山) 1927 2.8 0.13 0.006 マイケルソンら 1929 25.9 0.9 0.01 ヨース 1930 21.0 0.75 0.002 今日では、レーザーやメーザーを用いることにより、光線の移動距離をキロメートルの規模にした実験が行われている。この種の実験を初めて行ったのは、メーザーの開発者の一人であるチャールズ・タウンズらである。彼らの1958年の実験では、考えられるあらゆる実験誤差を含めても、エーテルの風速が 7001300000000000000♠30 m/s 以下であることが結論され、1974年にはこれが 6998250000000000000♠0.025 m/s にまで狭められた。1979年のブリエとホールの実験では、風速は全ての方向について 7001300000000000000♠30 m/s 以下であり、かつ、二次元に限れば 6994100000000000000♠0.000001 m/s 以下であると結論された。
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