太陽の旅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 13:57 UTC 版)
天空とドゥアトを通るラーの移動はエジプトの原資料では十分に語られていないが、『アムドゥアト』『門の書』『洞窟の書』といった葬礼文書が一連の寸描で旅の半分にあたる夜間について物語っている。この旅は、ラーの性質と全ての生命維持にとって重要である。 天空を横切って移動する際、ラーは大地に光をもたらし、そこに生きる全てのものを維持している。彼は正午に力のピークに達し、その後は日没に向かって動くにつれて年を取って弱くなる。夕方にラーは世界で最も古い創造神であるアトゥムの形状になる。エジプト初期の文書によると、彼は日の出で平らげた他の全ての神々を一日の終わりに吐き出す。ここでその神々は星として現れ、同物語はなぜ星が夜に見えるのに日中は見えなくなるのかを説明している。 日没でラーは、西のアケト(akhet)という地平線を通過する。この地平線はドゥアトに通じる門または扉として説明されることもある。他の文書で、天空の女神ヌトは太陽の神を飲み込むと言われているので、ドゥアトを通るラーの旅は彼女の体内を通る旅に例えられる。祭礼文書では、ドゥアトとその中にいる神々は緻密かつ詳細に、そして広範囲に変化するイメージで描かれている。これらのイメージはドゥアトの素晴らしくも謎めいた性質を象徴しており、そこでは神と死者の両方が創造の原初の力と接触することで新たに生を受ける。実際のところ、エジプトのテキストはそれを明示的に語らないようにしているが、ラーがドゥアトの中に入ることは彼の死と見られている。 旅の描写には特定のテーマが繰り返し描かれる。ラーはマアトを維持するのに必要な努力を行う代表者として、彼の道中で多くの障害を克服する。最大の試練は、無秩序な破壊の側面を司る蛇神で、太陽神を滅ぼして創造を混沌に陥れると脅すアペプとの対決である。多くのテキストで、ラーは一緒に旅をする他の神々の助けを借りてこれらの障害を克服しており、彼らはラーの権威を支持するのに必要な様々な力を備えている。ラーはまた自身の航路でドゥアトに光をもたらし、そこに住んでいる祝福を受けた死者に活力を与える。対照的に、マアトを傷つけた人々は彼の敵として苦痛を与えられ、暗い穴や火の湖に投げ込まれる。 旅の鍵となる出来事は、ラーとオシリスの出会いである。 新王国期には、この出来事がエジプトの生命と時間の概念の複雑な象徴へと発展した。 ドゥアトに追いやられたオシリスは、墓の中にいるミイラ化した体のようである。休むことなく動いているラーは、死んだ人間のバーあるいは魂のようなもので、日中に旅をするとしても毎晩その体に戻る必要がある。ラーとオシリスが出会うと、彼らは一つの存在になる。彼ら2人組は継続的な繰り返しパターンとなるエジプトの時間の見方を反映しており、一人(オシリス)は常に静的で、もう一方(ラー)は一定の周期で生活している。 ラーはオシリスの再生力と一緒になるや、新たな活力を備えて旅を続ける。この再生が夜明けのラー出現を可能にしている。これは太陽が生まれ変わったと見られ、ヌトがラーを飲み込んだ後にラーを産むという比喩で表現されており、創造の瞬間における初日の出を繰り返していると見られる。この瞬間、昇っていく太陽神は再び星々を飲み込み、それらの力を吸収する。この活性化状態について、ラーは子供であったりスカラベの神ケプリとして描かれており、いずれもエジプトの図像において再生を表すものである。
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