天然記念物指定の経緯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 22:44 UTC 版)
「蒼島暖地性植物群落」の記事における「天然記念物指定の経緯」の解説
蒼島は小浜市中心部の西方に位置する加斗(かと)地区にある小島で、加斗地区の海岸線から約1キロメートル沖合にある面積8250平方メートル、標高39メートルの、砂岩と粘板岩の地層を基盤とする小規模な島嶼であるが、日本海側の北陸地方における一般的な植生とは趣を異にした暖地性の常緑広葉樹林で覆われている。蒼島に繁茂する植物は確認されているだけで55科122種におよぶが、その中でも特筆されるものがモクセイ科の常緑高木のナタオレノキ(鉈折木、学名 Osmanthus insularis Koidz.)と、ムサシアブミ(武蔵鐙、学名 Arisaema ringens)である。特にナタオレノキの自生地は従来、屋久島・種子島を経て九州の西岸を回り込むように分布 (生物)する「九州西廻り分布植物」と呼ばれる亜熱帯性(南方系)植物のひとつで、天然記念物の指定に先立ち植生調査が行わた当時には、福岡県の遠賀川流域が最北の自生地として認識されていた。 この島の植物群落が国の天然記念物に指定さたのは、植物学者の本田正次によって行われた現地調査によるものである。本田は1948年(昭和23年)5月6日に小浜港より小舟に乗って約30分をかけ蒼島へ渡り、島内の植物相を詳細に調査し、その結果を報告書にまとめ、当時の保存要目第十六により、翌々年の1951年(昭和26年)6月9日に国の天然記念物に指定された。蒼島の植物相を目にした本田は、至近距離にある本土側との植生の違いに驚き、報告書内で次のように記している。 この小さな島に92種類の草木が自生繁茂し、そのうち暖地系のもの40科、77種に及んで、一大暖地性植物園の奇観を呈し、植物学上驚異の島であると驚嘆した。 — 本田正次。 暖地系の植物群で占められる特異な植物相を持つ蒼島は、小規模ながら急峻な地形であることもあって有史以来無人島であったと考えられ、島内には弁財天を祀る蒼島明神と呼ばれる小さな祠があり、島自体がこの明神の社叢林として古くから保護されていたため、島内の植生は伐採されることなく原生林の状態を保っているものと考えられている。特に本田の調査により自生が明らかになったナタオレノキが、従来知られていた分布域から遠く離れた北陸地方の小島に多数自生していることは、植物分布上の貴重な隔離分布であると言え、孤立して自生している理由については、暖流に乗って運ばれた種子が発芽したものと考えられている。また、別の説では南国のお姫様が小浜に嫁いで来たときに、持っていたナタオレノキの種、あるいは苗を蒼島に植えたという言い伝えがあるというが、いずれも確証はない。
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