だいしん‐ほう〔‐ハフ〕【大震法】
読み方:だいしんほう
大規模地震対策特別措置法
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大規模地震対策特別措置法 | |
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日本の法令 | |
通称・略称 | 大震法 |
法令番号 | 昭和53年法律第73号 |
種類 | 行政手続法 |
効力 | 現行法 |
成立 | 1978年6月7日 |
公布 | 1978年6月15日 |
施行 | 1978年12月14日 |
ウィキソース原文 |
大規模地震対策特別措置法(だいきぼじしんたいさくとくべつそちほう)は、1978年6月に制定された日本の法律[1]。大規模な地震による災害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、地震防災対策強化地域の指定、地震観測体制の整備その他地震防災体制の整備に関する事項及び地震防災応急対策その他地震防災に関する事項について特別の措置を定めることにより、地震防災対策の強化を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする[2][3]。略称は大震法。全40条および附則よりなる[4]。
法律の概要と沿革
この法律は、近い将来発生すると想定されている東海地震について、観測体制を整えればその直前予知が可能であるという前提に基づいて制定されたものである[5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][注 1]。
東海地震とは、駿河トラフで発生するマグニチュード8クラスの海溝型地震のことであるが[18][19][注 2]、この駿河トラフは南海トラフの一部にあたり、南海トラフ沿いでは過去から繰り返し巨大地震が発生してきた[21]。1707年の宝永地震では南海トラフのほぼ全域が破壊され、1854年の安政地震では東西の領域で時間的に近接して破壊された(安政東海地震・安政南海地震)[21]。しかし、1944年の昭和東南海地震および1946年の昭和南海地震では(宝永地震および安政地震では破壊された)駿河トラフの領域だけが破壊されず、いわゆる「割れ残り」として大地震が起こらないまま長期間が経過していた[6][21][22][23][24][25][26][27][28][29][30]。しかし、測量などによると駿河湾の周辺では地盤の沈降などの地殻変動が継続していることから、次の地震に向けてひずみは蓄積され続けていると考えられている[30][31][32]。
このような背景から、1969年に地震学者の茂木清夫が駿河湾での大地震の可能性を指摘し[33][34]、1970年代になると「近いうちに静岡県を中心とした東海地方を巨大地震が襲うのではないか」と懸念されるようになってきた。地震予知連絡会(予知連)は、東海地域を1970年2月20日に特定観測地域に指定したのち、4年後の1974年2月28日には観測強化地域に格上げした[35][36][37][38][39][40][41]。同年の11月7日には科学技術庁に地震予知研究推進連絡会議が設置され、2年後の1976年に地震予知推進本部に改組されている[6][21][42][43][注 3]。
このころ、すなわち1970年代は、1974年5月9日の伊豆半島沖地震[44][45]や1976年8月18日の河津地震[46]など、静岡県(特に伊豆半島の周辺)では大きな地震が頻発していた[7]。さらに海外においても、1975年に中国で海城地震の予知が成功したというニュースが報じられたことによって、日本でも地震予知に対する期待・機運が高まりつつあった[6][7][21][47]。
1976年8月23日(河津地震の直後)の地震予知連絡会で、地震学者の石橋克彦が「東海地方・駿河湾で巨大地震がいつ発生してもおかしくない」という東海地震説(駿河湾地震説)を提唱[7][22][48][49][50][51][52][53][注 4]。翌年の1977年に地震予知推進本部が「東海地域の地震予知体制の整備について」を決定し[7]、同年の4月18日には地震予知連絡会の内部組織として東海地域判定会が発足した[37][54]。
こうして、地震対策の法律の制定に向けた準備が急ピッチで進められていた矢先に1978年1月14日の伊豆大島近海の地震が発生し[6][7][55]、その5ヶ月後(1978年6月15日)にはついに大規模地震対策特別措置法(大震法)が公布され[1][注 5][注 6]、半年後(1978年12月14日)に施行されるに至った[43][注 7]。
1979年8月7日、前年に制定された大震法に基づき、東海地震によって甚大な被害を受ける可能性がある東海地域など(主に静岡県とその周辺)が内閣総理大臣によって地震防災対策強化地域(強化地域)に指定されるとともに[注 8]、東海地域判定会の後継として気象庁に地震防災対策強化地域判定会(判定会)が設置され[60][61]、地震予知連絡会の東海地域判定会は廃止された[37][39][43][62][63]。
この判定会は、6人の地震学者からなる気象庁長官の私的諮問機関であり[29][64][65][66]、地殻変動観測(主に前兆すべりを捉えるための観測[67][注 9])のために東海地域(強化地域)に設置されたひずみ計などのデータに異常が見つかった場合[注 10]、その異常な現象が想定される東海地震に結びつくかどうかを判定する役割を担う。判定会により東海地震発生のおそれがあると判断された場合[注 11]、気象庁長官は地震予知情報を発表[注 12]、閣議を経て内閣総理大臣により警戒宣言が発令されるという仕組みになっている[32][65][64][69][72][73][74][75][76]。
この警戒宣言はいわば一種の戒厳令のようなものであり[77]、発令された場合には、地震災害警戒本部が設置されるとともに[67]、東海地域(強化地域)において厳しい防災応急対策が実施され[67][78]、新幹線などの交通機関を運行停止にしたり、銀行の窓口業務を停止にしたり、学校や百貨店などを休みにしたり、強制的に住民を避難させたりすることになる[53][79][80][81][82][83][84]。気象庁により大地震が発生するおそれがなくなったと判断された場合には警戒解除宣言が発令されることになっている[65]。
1980年5月28日には、大震法に対応して財政措置するため、地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地震財特法・昭和55年法律第63号)が公布された[6][13][85][86]。
1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を契機として、同年6月16日に地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)という別の地震関連の法律が公布され[87][88]、それが同年7月18日に施行されると、総理府(現・文部科学省)に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(地震本部)が設置され[43][89]、従来の地震予知推進本部は廃止された[6][90]。兵庫県南部地震では地震予知も成功せずに甚大な被害が生じたことなどから[21]、それまでの地震予知推進体制を見直し、防災に重点を置く必要が出てきたためである[18][21][91]。
兵庫県南部地震以降、地震予知そのものは一般的に難しいと考えられるようになったが[18]、東海地震だけは例外で、日本で唯一直前予知が可能な地震であるという考え方は変わらないままであった[18][19][92][93][94][95][96][97]。
2000年代に入ると、昭和東南海地震および昭和南海地震からも60年近くが経過し、東海地震に限らず次の東南海地震や南海地震の発生確率も高まっているのではないかと懸念されるようになってきた[6]。
2001年3月14日には中央防災会議に東海地震に関する専門調査会が設置され[98][99]、東海地震の想定震源域が見直されて(想定震源域が西の方に拡大)[32]、翌2002年4月24日には強化地域も追加された[6][100][101]。
想定される震源域が海底下にある東南海地震・南海地震については、東海地震のような前兆すべりの観測が難しく、大震法では対応できないとして、2002年7月26日に東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)が公布された[6][102]。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、マグニチュード9.0と[103][104]、それまでの想定をはるかに超える超巨大地震であった[105][106]。しかもこの時、巨大地震の予知につながるとされる前兆すべりは観測されなかった[107]。
こうした事案を踏まえ、2年後の2013年11月29日には、東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が改正されて、法律の題名が南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に改名された[102][108][109]。
昭和東南海地震・昭和南海地震から70年以上が経過した現在、次の東海地震は単独で発生するのではなく、東南海地震・南海地震と連動して発生し[32]、東北地方太平洋沖地震と同様にマグニチュード9クラスの超巨大地震になるのではないかと懸念されるようになってきている(南海トラフ巨大地震)[39][110][111][112]。
また、大震法が制定されてから40年近くが経過するも、警戒宣言は一回たりとも発令された事例がないことや[113][114]、その間に発生した兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震を誰も予知できなかったことなどから[97][115]、地震学者の間でも「地震予知は困難」という認識が大勢となり[注 13]、政府は2016年6月28日に大震法の大幅な見直しを行い、法律の適応範囲を東海地震だけでなく南海トラフ巨大地震の想定範囲にまで拡大するとした[10][116][117][118][119][120][121]。中央防災会議も、2017年9月26日に「大震法に基づく警戒宣言後に実施される地震防災応急対策が前提とする確度の高い地震の予知・予測は現時点では困難である」と指摘している[122][123][124]。
これを受け、気象庁はそれまで予知を前提として運用していた東海地震に関連する情報の発表を取りやめて、2017年11月1日に南海トラフ地震に関連する情報(臨時情報)の運用を開始し[15][61][125]、この日から東海地震の判定会は南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会と一体となって検討を行うようになった[123][126][127][128]。
大震法については、その存廃について専門家の間でも賛否両論となっている(廃止を求める声も多い)が[97][129][130][131][132][133][134][135][136][137]、結局のところ法律自体は廃止されることなく今日に至っている[53][84][138][139]。しかし、前述のように地震予知を前提とした体制の見直し自体は行われてることから、東海地震の警戒宣言は事実上運用停止となっている[39][140]。
脚注
注釈
- ^ 大震法のように、大地震の予知を前提とした法律は、日本で唯一のものであり[16]、なおかつ世界的に見ても前例がない(世界初の)ものである[17]。
- ^ 本来、地震というのは「十勝沖地震」や「宮城県沖地震」などのように発生した地域の名を冠して(発生後に)命名されるのが普通だが、東海地震の場合はまだ発生してもいない段階で命名された初めての地震である[20]。
- ^ 1976年10月29日に内閣に「地震予知推進本部」が設置され、同年の11月11日には「地震予知推進連絡会議」が廃止された[43]。
- ^ 1976年に安政の地震についての新たな古文書が静岡県清水市で発見され、安政東海地震の震源域が駿河湾内にまで及んでいた可能性が指摘され、それ以降この地域は地震の空白域になっているとされたことが、同年の「東海地震説」の背景にある[29]。
- ^ 大震法は3ヶ月以上かけて策定され、1978年4月4日に法案が閣議決定された[56]。
- ^ 東海地方ではないが、大震法が公布される3日前(1978年6月12日)には、東北地方で宮城県沖地震が発生している[7]。
- ^ 大震法が制定された1978年ごろから、伊豆半島東方沖(川奈崎沖)では群発地震活動が繰り返し発生した[43][57][58][59]。
- ^ 東海地震の「地震防災基本計画」も策定されている[13]。
- ^ 東海地震は、昭和東南海地震などの際に検出されたとされる「前兆すべり」を捉えることができれば予知できる可能性があると考えられている[18]。
- ^ 東海地震によって甚大な被害が出るとされる東海地域(強化地域)には、地震計やひずみ計などの観測網が(世界的にも類を見ないほど)高密度に配置されており、その観測データはテレメーター方式で気象庁に集約され、24時間体制で監視されている[31][32][65][68]。
- ^ 判定会による判定結果は気象庁長官に報告される[29]。
- ^ 気象庁長官は地震予知情報を内閣総理大臣に報告する[61][69][70][71]。
- ^ 国は2013年に「確度の高い地震予知は現時点では困難である」という趣旨の報告をまとめている[6]。
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参考文献
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- ロバート・ゲラー『日本人は知らない「地震予知」の正体』双葉社、2011年8月31日。ISBN 9784575303438。
- 茂木清夫『地震のはなし』朝倉書店、2001年10月5日。ISBN 9784254101812。
- 日本地震学会. “地震発生予測と大震法および地震防災研究”. 2024年9月8日閲覧。
関連項目
外部リンク
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