基本的な定義と導入
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/19 18:52 UTC 版)
詳細は「環 (数学)」および「環論の用語」を参照 厳密にいうと、環とはアーベル群 (R, +) に第二の二項演算 * で、任意の a, b, c ∈ R に対して a ∗ ( b ∗ c ) = ( a ∗ b ) ∗ c {\displaystyle a*(b*c)=(a*b)*c} a ∗ ( b + c ) = ( a ∗ b ) + ( a ∗ c ) {\displaystyle a*(b+c)=(a*b)+(a*c)} ( a + b ) ∗ c = ( a ∗ c ) + ( b ∗ c ) {\displaystyle (a+b)*c=(a*c)+(b*c)} を満たすようなものをあわせて考えたものである。環 R にさらに乗法単位元 (multiplicative identity, unity) すなわち、R の全ての元に対して a ∗ e = e ∗ a = a {\displaystyle a*e=e*a=a} を満たす元 e が R に存在するならば、R は単位元を持つ環(単位的環)であるという。整数の環における整数 1 はこのような乗法単位元の例になっている。 乗法単位元 e が加法単位元(零元)に等しい環は、必ずただ一つの元からなる環で、自明な環と呼ばれる。 ある環は、それが別の環の中に実現されるとき、部分環と呼ばれる。また、環の間の写像であって、環の演算を保つものは、環準同型と呼ばれる。全ての(単位的)環と環準同型を合わせて考えたものは、(単位的)環の圏とよばれる圏を成す。環論において重要な概念であるイデアルは、環準同型の核として得られる特定の種類の部分集合であり、剰余環を定義するのに用いられる。イデアル、準同型および剰余環についての基本的な事実は、準同型定理および中国の剰余定理として述べることができる。 「環が可換」であるというのは、その乗法が可換であるという意味である。可換環は数体系と非常によく似た構造であり、実際多くの定義が整数に対して知られている性質を可換環が持つようにするために考えられたものである。可換環は代数幾何学においても重要な役割を果たす。可換環論においては、「数」の代わりとしてイデアルを考えることがしばしば有効で、例えば素イデアルの定義は素数の本質を捉えようとして考えられたものである。整域は非自明な可換環で、零元と異なるどの二つの元を掛けても零元にならないという性質を満たすものだが、これは整数の性質のひとつを一般化したもので、可除性の研究に対する固有の領域を与えるものになっている。さらに、主イデアル整域は任意のイデアルをただ一つの元で生成することができるような整域で、やはり整数とある種の性質を共有するものになっている。ユークリッド整域と呼ばれる整域ではユークリッドの互除法を展開することができる。他の重要な可換環の例としては多項式全体の成す環およびその剰余環がある。簡単にまとめると、 ユークリッド整域 ⊂ 主イデアル整域 ⊂ 一意分解整域 ⊂ 整域 ⊂ 可換環 のような関係になっている。 非可換環は多くの点で行列の成す環が雛形となっている。また、代数幾何学をモデルとして、非可換環上に基礎をおく非可換幾何学を構築しようとする動きもある。非可換環および結合多元環(大雑把に言うと、環でもありベクトル空間でもあるようなもの)は、しばしばその上の加群の圏を通した研究が行われる。環上の加群とは、環が群自己準同型として作用するアーベル群であり、体(零元以外の元が全て逆元を持つような整域)がベクトル空間に作用するのと非常によく似た代数的構造になっている。非可換環の例は正方行列の成す環やもっと一般にアーベル群や加群の上の自己準同型全体の成す環、あるいは群環・モノイド環などによって与えられる。
※この「基本的な定義と導入」の解説は、「環論」の解説の一部です。
「基本的な定義と導入」を含む「環論」の記事については、「環論」の概要を参照ください。
- 基本的な定義と導入のページへのリンク