地上目標の分解能についての状況証拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 16:17 UTC 版)
「KH-12」の記事における「地上目標の分解能についての状況証拠」の解説
地上目標に対する分解能 (地表分解能) は高度な軍事機密であり、当然公式には明らかにされていないし、軍事アナリストの間でも、30cm以下であることでは意見の一致が見られるが 具体的な数値では意見は分かれている。宇宙開発関係者の間では 5cm という意見も頻繁に聞かれるが、今のところ信頼できるニュースソースによるとは言いがたい。しかし、前節で触れたとおり、KH-12 はハッブル宇宙望遠鏡に非常に似ているという点から考えると、この 5cm という値があながち誇張ではない(むしろそれを上回る可能性がある)という状況証拠がある。 次の3つの表は、 表1 – 地表目標物の大きさと観測距離と視角 (角距離)の関係 表2 – ハッブル宇宙望遠鏡の観測機器の角度分解能 表3 – 回折限界による反射望遠鏡の角度分解能の理論的限界値 (この値をθとすると、主鏡直径 d と観測波長 λ の間には sinθ = 1.22λ/d の関係がある – エアリーディスク 参照) を整理したものである。各表とも視角と角度分解能の単位は秒角 (1°の 1/3600 = 4.848μrad (マイクロラジアン))に統一してある。 表1 地表目標物、観測距離と視角(秒角)の関係地表目標物 (cm)観測距離 (km)1502103004005006002.0 0.0275 0.0196 0.0138 0.0103 0.0083 0.0069 2.5 0.0344 0.0246 0.0172 0.0129 0.0103 0.0086 3.5 0.0481 0.0344 0.0241 0.0180 0.0144 0.0120 4.0 0.0550 0.0393 0.0275 0.0206 0.0165 0.0138 4.6 0.0633 0.0452 0.0316 0.0237 0.0190 0.0158 5.5 0.0756 0.0540 0.0378 0.0284 0.0227 0.0189 6.6 0.0908 0.0648 0.0454 0.0340 0.0272 0.0227 8.0 0.1100 0.0786 0.0550 0.0413 0.0330 0.0275 表2 ハッブル宇宙望遠鏡の観測機器の角度分解能機器分解能 (秒角)備考HST ACS (The Advanced Camera for Surveys)Wide Field Channel 0.0500 視野 202x202秒角、波長370〜1100 nm High Resolution Channel 0.0270 視野 26x29秒角、波長200〜1100 nm Solar Blind Channel 0.0320 視野 31x35秒角、波長115〜170 nm HST WFPC2Wide Field Camera 0.1000 視野 150x150秒角 L字型、波長115〜1050 nm Planetary Camera (PC) 0.0460 視野 34x34秒角 HST 旧装置 (撤去済)Faint Object Camera 0.0140 視野 14x14秒角、波長115〜650 nm 表3 反射望遠鏡の角度分解能の理論的限界値(秒角)(主鏡直径と観測波長の関係)波長 (μm)色主鏡直径 (m)2.02.43.00.20 紫外 0.0252 0.0210 0.0168 0.26 紫外 0.0327 0.0273 0.0218 0.33 紫外 0.0415 0.0346 0.0277 0.40 紫 0.0503 0.0419 0.0336 0.47 青 0.0591 0.0493 0.0394 0.58 黄 0.0730 0.0608 0.0487 0.63 赤 0.0793 0.0661 0.0528 0.75 近赤外 0.0944 0.0786 0.0629 1.10 近赤外 0.1384 0.1153 0.0923 表2にあるHST観測機器の掃天観測用高性能カメラ (ACS) は、2002年2月に Faint Object Camera の代替として取付けられたもので、現在の HST の主力観測機器である。特に ACS の High Resolution Channel (機器障害のため現在使用不可)の角度分解能は 0.0270秒角に達し (この値はイメージセンサーの1ピクセルの幾何学的サイズであり、光学系としてこの角度分解能が常に達成可能という意味ではない)、150km の距離から 2.0cm の大きさの物体を、210km の距離から 2.8cm の大きさの物体を見分けられることが分かる(210km とは高度 150km で 45°斜め下の物体を見た場合を想定した距離である)。ただし、表3からこの分解能が可能であるのは波長約 0.26μm より短い光 (紫外線領域) の場合であることが分かる。これらの短い波長の光はオゾン層で吸収されやすいため偵察衛星で実用的に利用可能かは不明である。 実用的には 0.40μm よりも長い波長の光が適していると考えられるが、回折限界のために波長が長くなるほど角度分解能は悪くなる。KH-12の主鏡の直径を 3.0m と仮定した場合、波長 0.40μm における角度分解能は表3から 0.0336秒角であり、表1から高度 150km から真下を見た場合の地表分解能は約 2.5cm、高度 150km から 45°斜め下を見た場合は約 3.5cm となる。後者の場合、人物の容貌または車両のナンバーがかろうじて判読できる可能性がある。 なお、大気の乱れにより光の経路が乱されて発生するシーイングと呼ばれる現象により画像がぼやける可能性があるが、これは非常に短時間の露光による多数のイメージをコンピューターで合成してSN比を高めるスペックル・イメージング技術により、ほぼ100%解決可能である。また、補償光学を用いた主鏡鏡面の制御技術により、カセグレン光学システムの分解能をほぼ回折限界まで引き出すことが可能となっている。
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