善玉菌と悪玉菌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 07:55 UTC 版)
腸内環境をわかりやすく説明する例として、「善玉菌」と「悪玉菌」に分類されることがある。「善玉菌」は宿主の健康維持に貢献し、「悪玉菌」は害を及ぼすとされる。 この考えは19世紀終わりにイリヤ・メチニコフが発表した「自家中毒説」に端を発している。小腸内で毒性を発揮する化合物が産生されたことが発見され、それが腸から体内に吸収されることが様々な疾患や老化の原因だと考えた。腸内の腐敗は寿命を短くするという仮説を立て、腸内腐敗を予防すれば老化を防止できると考えた。ヨーロッパ各地を遊説中に、長寿国であったブルガリアでヨーグルトが摂食されていることを見出し、そこから分離した「善玉菌」である乳酸菌(ブルガリア菌)を摂取することによって、腸内の腐敗物質が減少することを確認した。 その後の研究によって、腸内細菌と宿主であるヒトの共生関係が徐々に明らかになり、また腸内細菌叢のバランスの変化が感染症や下痢症などの原因になりうることが明らかになったことから、腸内細菌叢のバランスを変化させることによってヒトの健康改善につながるという考えが改めて支持されるようになった。そして、がん、心臓病、アレルギー、認知症のような病気との関連性も高いと指摘されている。 腸内細菌の全体の2割を占めている善玉菌と呼ばれるものにはビフィズス菌に代表されるビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium) や、乳酸桿菌と呼ばれるラクトバシラス属 (Lactobacillus) の細菌など乳酸や酪酸など有機酸を作るものが多い。 腸内細菌の全体の1割を占めている悪玉菌にはウェルシュ菌に代表されるクロストリジウム属 (Clostridium) や大腸菌(病原性)など、悪臭のもととなるいわゆる腐敗物質を産生するものを指すことが多い。悪玉菌は二次胆汁酸やニトロソアミンといった発がん性のある物質を作る。偽膜性大腸炎の原因となるクロストリジウム属ディフィシルや病原性を示すバクテロイデス属フラギリスなどもあげられる。悪玉菌は有機酸の多い環境では生育しにくいものも多い。 善玉菌や悪玉菌に必ずしも分類されず、他の菌の影響を受けて作用が変化するものを日和見菌と呼び残りの7割を占める。しかし、その大半は未知なる部分が多い。日和見菌は全体の7割を占め、プロテオバクテリア門腸内細菌科大腸菌(非病原性)、全体の4割を占めるバクテロイデス門バクテロイデス属(非病原性)、フィルミクテス門のユーバクテリウム属、ルミノコッカス属、クロストリジウム属(非病原性)などがあげられる。 トクホに認可された食品には、研究によって血圧や血清コレステロールの低下が確認された製品がある。花粉症などのアレルギー症状が軽減されるという研究報告もある。がんの予防効果を謳った健康食品まで見受けられる(薬機法違反)。整腸と関連したがんやアレルギーなど、様々な疾患を抑制する作用の研究が行われている。ほかに生きたまま腸内に到達可能な乳酸菌(プロバイオティクス)や、腸内の善玉菌が栄養源に利用できるが悪玉菌は利用できない物質(オリゴ糖など、プレバイオティクス)を、製剤や機能性食品として用いることが考案され、多くの製品が開発・実用化されている。
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