古代哲学者のダイモーン
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「聖守護天使」の記事における「古代哲学者のダイモーン」の解説
古代のギリシア・ローマ世界では、キリスト教の守護天使にも似た守護精霊の存在が信じられていた。それは個人の誕生時から最期までつきまとっている善なる霊であり、個人の運命を司るものであった。古代ギリシア人やヘレニズム期のギリシア化された人々はこれをダイモーン(δαίμων、ラテン文字転写 daimon)と呼んだ。(ダイモーンのラテン語形はダエモン daemon であるが、これはキリスト教の興隆以降、悪霊の意味合いが強くなった。後述するゲニウスもダイモーンに対応するラテン語の語彙である。) 語源はどうであれ、古代詩人ホメーロスからアレクサンドリアのフィロンのようなヘレニズム期の著述家に至るまで、ダイモーンは「神的な存在」を意味する言葉であった。日本語では「神霊」「鬼神」と訳される。テオス(神)との境界線は必ずしも明確でないが、おおむね神よりも下位の種々の精霊を指した。プラトンの『饗宴』では、神々と死すべき人々の間に位置づけられ、両者をなかだちする存在として語られる。そこでは愛神エロースがダイモーンの例に挙げられている。概括すれば、ダイモーンはさまざまな事象の裏に隠れた神的な力であり、その擬人化であった。また、古代ローマ人にはダイモーンに類似したゲニウス(genius)という概念が知られていた。ゲニウスは個人や土地の守護神であり、この言葉は個人の天分という意味でも用いられた。ゲニウスに由来する英語のジーニアスは通常、天才、天賦の才を意味する。 『ソクラテスの弁明』の中でソクラテスは、子どもの頃からたびたび神のお告げを聞いていたと語る。かれがダイモニオンと呼ぶこの内なる声は、自分がまちがったことをしようとする時に警告を発してこれをおしとどめたという。ダイモニオンはソクラテスにとって内的な自制心の謂いであったかもしれないが、かれ個人の神とも解釈しうるものであり、かれを告発した当時のアテーナイの人々にとって、伝統的な神々をないがしろにして聞いたこともない秘密の神を信仰しているとの疑念を抱かせるものであった。後のプラトン派の人々はソクラテスのダイモニオンを個人の精神的な導き手と解釈し、守護霊としてのダイモーンを人間に内在する神的なものとみなした。現代ではジークムント・フロイトの超自我に似たものとも評される。プラトンの『ティマイオス』は、人間の頭には理性的な霊魂である不死なるダイモーンが宿り、胸腹部には動物的衝動である死すべき霊魂が宿るとしている。ストア派もダイモーンないしダイモニオンを心の奥にある良心のようなものとして捉えていた。
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