前段階のインフレーション理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 15:26 UTC 版)
「宇宙のインフレーション」の記事における「前段階のインフレーション理論」の解説
一般相対性理論の黎明期に、アルベルト・アインシュタインは物質の均一な密度を持つ三次元球体の静的宇宙(英語版)解を許す宇宙定数(宇宙項)を導入した。少し後に、ウィレム・ド・ジッターは、高い対称性を持つ膨張宇宙を見出した。この宇宙は正の宇宙定数(宇宙項)を持つ。アインシュタインの解は不安定であり、もし小さなゆらぎがあれば、それは最終的にド・ジッターの解に変化することが発見された。 1970年代初頭、ヤーコフ・ゼルドビッチはビッグバン宇宙論の深刻な平坦性問題および地平線問題に気が付いた。彼の研究以前の宇宙論は、純粋に哲学的な地面上で対称性が存在していることを仮定していた。ソ連では、BelinskiおよびKhalatnikovが相対性理論におけるカオス的なBKL特異点(英語版)を分析を導いた。Misnerのミックスマスター宇宙(英語版)は、このカオス的な振る舞いを使って宇宙論の問題を解決することを試み、限定的には成功を収めた。 1970年代後半、シドニー・コールマン(英語版)はアレクサンドル・ポリャコフと同僚たちによって場の量子論における偽の真空の発展を研究するために開発されたインスタントン(英語版)の技法を導入した。統計力学における準安定相(例えば、凝固点以下または蒸発点以上の水の状態)と同様に、量子場が遷移(相転移)を起こすためには、新しい真空、新しい相の十分に大きい泡を核とする必要がある。コールマンは、真空の崩壊(真空の相転移)についての最もありそうな崩壊経路を発見し、単位体積あたりの寿命の逆数を計算した。彼は最終的に重力効果が重要であろうことに気付いたが、その効果を計算して宇宙論の結果へ適用することはしなかった。 ソ連ではAlexei Starobinskyが、一般相対性理論のエネルギー運動量テンソルに寄与する量子補正から導かれる指数関数的膨張宇宙のモデルに初めて到達した。彼は、初期宇宙においては一般相対性理論への量子補正が重要で、それはアインシュタイン=ヒルベルト作用への曲率二乗補正を一般的に導くはずだと考えた。この曲率二乗項の存在の下でのアインシュタイン方程式の解は、曲率が大きい時、有効宇宙定数を導くことができる。このため彼は、初期宇宙はインフレーション期に指数関数的に急激な膨張を起こすド・ジッター相へ一次相転移すると提唱した。これは宇宙論の問題を解決し、宇宙背景放射への補正に関する特定の予測を導くものであった。この補正は少ししてからすぐに詳細に計算された。 1978年、ゼルドビッチはモノポール問題について考察した。これは地平線問題の非曖昧な定量的バージョンであり、当時の素粒子物理の流行の一分野であった。ゼルドビッチのアイデアは、モノポール問題を解決するためのいくつかの思索的な試みを導いた。1980年、アメリカで研究していたアラン・グースは初期宇宙における偽の真空崩壊はこの問題を解決しうることに気が付き、スカラー場によって駆動されるインフレーションの提案へとつながった。
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