個体レベルでの影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 14:23 UTC 版)
ウイルス感染は、細胞レベルだけでなく多細胞生物の個体レベルでも、様々な病気を引き起こす。このような病気を総称してウイルス感染症と呼ぶ。インフルエンザや天然痘、麻疹、風疹、後天性免疫不全症候群 (AIDS)、新型コロナウイルス感染症などの病気がウイルス感染症に属しており、これら感染症の病原ウイルスはしばしばパンデミックを引き起こして人類に多くの犠牲者を出した。 また、動物ではウイルス感染が起きると、それに抵抗して免疫応答が引き起こされる。血液中や粘液中のウイルス粒子そのものに対しては、ウイルスに対する中和抗体が作用する(液性免疫)ことで感染を防ぐ。感染した後の細胞内のウイルスに対しては抗体は無効であるが、細胞傷害性T細胞やNK細胞などが感染細胞を殺す(細胞性免疫)ことで感染の拡大を防ぐ。免疫応答はまた、特定のウイルス感染に対して人工的に免疫を付与するワクチンによっても産生され得る。AIDSやウイルス性肝炎の原因となるものを含む一部のウイルスは、これらの免疫応答を回避し、慢性感染症を引き起こす。 ウイルス感染症における症状の中には、ウイルス感染自体による身体の異常もあるが、むしろ発熱、感染細胞のアポトーシスなどによる組織傷害のように、上記のような免疫応答を含む、対ウイルス性の身体の防御機構の発現自体が健康な身体の生理機構を変化させ、さらには身体恒常性に対するダメージともなり、疾患の症状として現れるものが多い。 人類は生物進化の最後尾にあり、他の動物からのホストジャンプにより多数のウイルスがヒトにとっての病原体となったと考えられる。それらのウイルスも、天然の宿主では無害であることが多い。そうなる仕組みは、弱毒化したウイルスが感染した宿主は長期間行動し、感染の機会が増えるため、ウイルスの適応進化を起こす、と考えられる。すなわち、一般に長い目で見ればウイルスは弱毒化する。しかし、短期的には強毒化する場合もあり、長期的な弱毒化を理由にウイルスを軽視することはできない。
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