個体としての利他主義、遺伝子としての利己主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 01:18 UTC 版)
「利己的遺伝子」の記事における「個体としての利他主義、遺伝子としての利己主義」の解説
個体の行動は、その個体の中にある遺伝子によって支配されている。ある利他的行動が集団の中で増えるということはその行動を支配する遺伝子が増えたことを意味する。ここでいう遺伝子とは、個々のDNA片のすべてのコピーのことである。遺伝子の目的は、自分のコピーを遺伝子プール内に増やすことであり、遺伝子は他の個体を助けることによって、その個体の中にある自分のコピーを助けることが出来る。これは、個体のレベルで見れば利他的行動だろうが、実質的には遺伝子による利己的行動である。 遺伝子中心で考えると理解がたやすいのは、ミツバチの働きバチなど、社会性昆虫における不妊階層がみせる利他的な行動である。自らは子孫を残さずひたすら女王バチに献身する働きバチの行動に、どのような進化的利益があるのか?遺伝子中心の立場からはこう説明できる。働きバチの持つ遺伝子(母親の手助け行動をとらせる遺伝子も含む)にとって、働きバチ自身が繁殖をし50%だけ自分の遺伝子を持った子を作るよりも、女王バチの繁殖を助けて75%の共通遺伝子を持つ妹を育てることが、遺伝子のコピーを効率的に増やすことになるのである(血縁選択説#社会性昆虫への適用を参照)。つまり働きバチの行動は個体としては利他的だが、遺伝子にとっては利己的なのである。 動物がとる明らかに利己的な行動の例としては、南極のペンギンがあげられる。彼らは氷棚の上で海面を見つめて長時間じっとしていることがある。これは天敵のアザラシが海中にいないか覗っているのである。そのうち待ちきれなくなると、押し合いをして他の個体を海に突き落とそうとまでする。もし率先して飛び込む「利他的」な個体がいれば、彼の中の「利他的遺伝子」と共に真っ先に食べられてしまう可能性が高いだろう。この場合利益を受けるのは他の個体である。真っ先に飛び込まない性質、真っ先に飛び込まない遺伝子が利益を享受する。よりよく知られている例としては、カマキリの共食いがある。カマキリは動くものは何でも食べる習性あり、メスのカマキリは交尾の前や最中、後に交尾の相手のカマキリを食べようとする。カマキリオスは頭部がなくなると生殖能力が上昇するので、メスのカマキリは、オスを食べることによる食物の獲得とともに、生殖の成功率を上げることができる。この場合のカマキリのメスは自分の利益を上昇させると同時に相手の利益を減少させるという点で利己的である。さらに他の例として、ユリカモメの例がある。ユリカモメの雛は小さく、他の鳥がひとのみにできてしまうほどである。ユリカモメは大きなコロニーを作り、一つの巣と他の巣はわずか数十センチしか離れていない。ある親鳥は他の巣の親鳥が巣を離れた際にその巣のひな鳥を食べてしまうことがある。 そのほかの利他行動の遺伝子中心的な説明は利他的行動#行動生態学による解釈を参照のこと。
※この「個体としての利他主義、遺伝子としての利己主義」の解説は、「利己的遺伝子」の解説の一部です。
「個体としての利他主義、遺伝子としての利己主義」を含む「利己的遺伝子」の記事については、「利己的遺伝子」の概要を参照ください。
- 個体としての利他主義、遺伝子としての利己主義のページへのリンク