カルテル
カルテル(独: Kartell, 英: cartel)または
また、麻薬カルテルも通謀に着目してカルテルと呼んでいる。
この記事では、事業活動に関する本来のカルテルについて説明する。
概要
カルテルは、複数の事業者が、競争を回避するために、取決めないし申し合わせ等の方法により、互いに自らの事業活動を調整する行為を指す[1]。 後述するように、カルテルは、多くの国で、競争法(独占禁止法)による規制を受ける。
当事者
そして、まず、カルテルは、当事者の関係性によって二分される。
つまり、互いに競争関係にある事業者の間で事業活動の制限を課す「水平的制限」(英: horizontal cartel)と、当事者の大半は相互に競争関係にあるが、一部に取引関係にある者(メーカーと卸売業者など)を含まれるような場合に事業活動の制限を課す「垂直的制限」(英: vertical cartel)である。
一般に、水平的制限は、競争を直接的に制限するものとして、より悪質性が高いと看做されている[1]。
例えば、アメリカ合衆国の反トラスト法の制定当時は、特に、水平的制限は当然無効であるとして、強力な規制が加えられていた[2]。
メカニズム
カルテル破り
カルテル破り(裏切り)とは、カルテルに参加する事業者が、合意や取決めの内容に反することである。
ただ、カルテルに参加する事業者が、抜け駆け的にカルテル破りにより個別の利益を追求することは可能だが、やがてカルテルは破綻する。
つまり、カルテルが安定的に維持されるためには、各企業がカルテルでの取決めを守るインセンティブがあって、抜け駆け的なカルテル破りは得策ではないという条件が必要になる。
そして、その条件を導くために、無限回繰り返しゲームの理論が用いられる。各事業者は、カルテルにおいて、いわゆる囚人のジレンマにおかれていて、毎回の取引において、カルテルの取決めを守る(協力)か、裏切る(非協力)かを選択するゲームである、と解する[3]。
カルテルの安定性
カルテルの安定性について考える上では、来期に各事業者が得る利潤を、当期の基準で評価する際にどの程度割り引かれるのかを示す値である、割引因子[注 1]が重要である。
カルテルの安定性の基本式
ここで、以下のような市場を仮定する。
- 市場には長期的な戦略的状況に置かれたこの節の加筆が望まれています。
規格化・標準化
この節の加筆が望まれています。業務提携
- 共同研究開発
- 共同生産
- 共同販売
- 共同購入
情報交換活動
この節の加筆が望まれています。社会公共目的の共同行為
この節の加筆が望まれています。歴史
中世のカルテルは座、株仲間、ギルドのように呼び方がまちまちだった。
200家族の支配したフランスでは独占に明確な協定を要せず、以心伝心的な協調、つまりアンタント(仏: entente)が行われた。
法律で規制する観点から似たような協定をカルテルと総称するのは近現代からである。
国際カルテル
影響が大きかった国際カルテルには次のようなものがある。錫カルテル、銅カルテル[注 3]、銀カルテル、海運アライアンス、ポイボス・カルテル、兵器カルテル、無線カルテル、通信社カルテルなどは、各国の政治・法律と私的自治の論理によって規制を免れてきた。合成窒素カルテルには遅まきながら日本も参加した。キニーネカルテルは農産物が対象である点で興味深い。
いわゆる鉄鋼カルテルは時代・地域・製品により区別されたものが国連などから多数報告されている。リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーの汎ヨーロッパ主義提唱から3年後、1926年にドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、ザール間でEntente internationale de l'acierが結ばれた(ルクセンブルクの歴史#経済問題を参照)。これは欧州石炭鉄鋼共同体の礎となった[注 4]。
カルテルに対する規制の歴史
この節の加筆が望まれています。国際カルテルは必ずしも国益を考えず利益本位で動く。シャーマン法制定に活躍したウェンデル・バージは、国際カルテルを「私的政府」と呼び糾弾した[4]。戦後、日本の財閥解体は「トップのいない企業結合体」を存置する方針となり、財閥が再結集するという結果となった。1953年に独占禁止法を改正してカルテルを一部容認した[5][注 5]。1958年、西ドイツで競争制限禁止法が公布され、日本の公正取引委員会にあたる連邦カルテル庁が発足した。カルテルは原則禁止されたが、多数の例外規定が設けられていた。ドイツには戦前から多様な独占形態が存在した(具体例)。
- 1961年2月、フィラデルフィア連邦地方裁判所は、ゼネラル・エレクトリックとウェスティングハウス・エレクトリックを中核とする29の電機メーカーと45人の役員に総額192万4500ドルの罰金刑を課した。判事の言によると、争われたカルテルは戦前から続いていた。役員らは高齢にもかかわらず30日間の懲役刑が言い渡され、世間の注目を集めた。
- 2009年7月、欧州委員会はGDFスエズとE.ONの2社に対し、MEGAL pipelineに関する取り決めに対し、それぞれ553百万ユーロの制裁金を課した。553百万ユーロの金額は欧州委員会が下した金額として2番目の大きさ、エネルギー業界に対しては最大の金額となった。MEGAL pipelineに関する取り決めとはE.ONが2003年に買収したルールガス(Ruhrgas)とGDFが1975年に互いの市場に参入しないということであり、この取り決めは2005年に破棄されていたものだった。
- 民間向け航空輸送サービスは1970年代に至るまで、ほとんどの大手航空会社(Legacy Carrier, LC)は国際航空運送協会(IATA)と航空会社、各国政府の間で取り決めた料金体系(IATAカルテル)を維持していた。また貨物分野でも航空貨物カルテルが公正取引委員会から処分されている。
- 2014年、全地球規模ともいえる高圧電線の国際カルテルが摘発された。2007年1月に欧州委員会が総額で7億5千万ユーロの制裁金支払命令を出した送電線スイッチカルテルも、同様にABBグループを中心とする[注 6]。どちらのカルテルにも日本勢が多数参加しているが、中身は多少違っている。スイッチカルテルのフランス勢にアルストム、アレヴァ、ソシエテ・ジェネラル系の同族企業であるシュナイダーエレクトリックがいる。ジーメンスは唯一のドイツ勢である。
つくられた抜け道
西ドイツ競争制限禁止法の原則規定は1条で、2条から8条が例外規定であった。そのうち4条で定める適用除外対象が不況カルテルであり、5条の対象は合理化カルテルであった。1965年と1973年の法改正により新たに専門化カルテルが適用除外となった。5条2項から分離して各年に5a条と5b条が新設されたのである。西ドイツ競争制限禁止法は日本の独占禁止法に影響を与えた。まず西ドイツ競争制限禁止法4条の下地となった草案2条が独禁法旧24条の3へ伝播し不況カルテルを容認した。そして西ドイツ競争制限禁止法5条が独禁法旧24条の4となり合理化カルテルを許容した。
不況カルテル
不況カルテルとは、字のごとく不況を耐え抜くためのカルテルである。不況カルテルの「不況」とは、景気循環で訪れる不況をいうのか、それとも構造的不況をいうのか問題になる。この点西ドイツ競争制限禁止法草案2条が削除されたのは、両方の不況、特に循環不況においてカルテルを認めていたことが批判されたからである。この意味で日本独禁法の不況カルテル規制は緩く、ニクソン・ショックによる円高不況とオイルショックによるコスト高不況の1970年代に造船業やステンレス業界などから多くの申請があり、認可された。西ドイツでは、欧州石炭鉄鋼共同体の緩さを除けば1957年以降、申請数がわずか、認可は皆無であった。1978年3月31日に連邦カルテル庁が判断原則を公表してからは認可されやすくなっていた。
西ドイツで不況カルテルが認可される前提要件は4点あった。まず、カルテルの主体が生産・製造・加工または組立部門(限定列挙)であること。製品の有体物であることまで必要とするかどうかについては、電気その他エネルギーもふくむと解釈された。次に、構造不況のため需要回復の見通しが立たないこと。不況を判断する地域については従来からの販売態様を基準とした。そして、カルテルによる競争制限が、生産能力を需要に計画的に適合させていくのに必要な限度であること。最後に、比較衡量に適っていること。4条で義務となっている設備廃棄計画が、当事者間で合意に達するためにカルテルを必要とする場合などは許される。 以上4点に加え、特に産業部門不況カルテルについては8条2項でLRA 並みの厳格な基準を設けていた。
合理化カルテル
合理化カルテルとは、字のごとく事業を合理化するためのカルテルである。合理化内容いかんは独禁法で4種類を限定列挙していたので専ら西ドイツの問題であった。第一には経営合理化、つまり費用対効果の改善である。しかし量産化であえて品質を下げるなどというのは駄目で、一応イノベーションが志向された。国民経済は二義的要素であった。そして、合理化カルテルは独禁法で生産業に限定していたが、西ドイツではサービス業に適用できた。かかる合理化カルテルは西ドイツ競争制限禁止法準備段階当初からの基本構想であって、ルール地方のゲオルクなどの取扱いと関係して立法に向けて草案が修正された[注 7]。そして5条1項の規格統一カルテルは届出さえすれば認可されたから、欧州石炭鉄鋼共同体と同様に輸出先には遠慮がなかった。
規格統一カルテルの最初は19世紀にさかのぼる。メートル条約がその後の発展を基礎づけた。1896年に欧州で国際材料試験協会[注 8]が発足して国際標準化時代が到来した。2年後設立のアメリカ支部はASTMインターナショナルである。このブームに乗って1926年に万国規格統一協会ができた。やがてこれを国際標準化機構が承継した。20世紀初頭には国際電気標準会議と国際無線電信連合が並行して発展をとげた。2001年からは世界標準協力が、国際標準化機構、国際電気標準会議、そして国際電気通信連合のITU-Tから、会長・副会長・事務局長等を集めて一層緊密に連携している。最近で国際標準化の俎上に上がっている構想はスマートグリッドとブロックチェーンである。
欧州石炭鉄鋼共同体から不況・合理化カルテルまでは系譜としての関係ができている。そして、鉄鋼カルテルの前にリンクを列挙した国際カルテルの中には鉄鋼カルテルと出身地の近いものが幾つか存在している。
規制
各国における法制度
アメリカ合衆国や中華人民共和国など多くの国では、いわゆる競争法と総称される法令(独占禁止法や反トラスト法といった訳が当てられることも多い[6])に、カルテルの規制を置いている[7]。
アメリカ
アメリカでは、アメリカ合衆国司法省が反トラスト法を所管している。
1890年に成立した米国最初のカルテル規制法規であるシャーマン法第1条によれば、シンジケートや紳士協定もカルテルとみなされることがある。
また、同法は、ウェッブ・ポメリン法により修正を受けた。
- ウェッブ・ポメリン法による修正の結果として、1904年にできた板ガラスカルテルに米輸出組合が参加してしまった。
- アメリカにおける反トラスト法違反の罰金の最高額は、2011年に発表された5億4,800万ドルで、アメリカ向けの自動車用ワイヤーハーネスの価格カルテルを続けていた、日本の矢崎総業とデンソーに対して申し渡されたもの。なお同時に矢崎総業の日本人幹部4人が、1年3カ月から2年の禁錮刑を受けることも司法取引で同意されている[8]。
欧州連合
→「欧州連合競争法」を参照欧州連合(EU)では、欧州連合競争法として知られるいくつかの法規によって、カルテルが規制されている。
この節の加筆が望まれています。欧州連合競争法の一部をなす、欧州連合機能条約(TFEU)第101条は、「事業間の合意のすべて、事業連合体の決定および協定された取り扱いであって、加盟国間における貿易に影響を与え、それらの目的または効果として共同市場内における競争を阻害し、制限」[注 9]する行為を禁じる、「競争制限的協定の規制」を定めている。
具体的には、カルテルに当たる行為のうち、下記の各類型を規制している。
- 価格協定(同条1項a号)
- 生産、販売、技術開発または投資に関する制限や統制(同条1項b号)
- 市場または供給源の割当て(同条1項c号)
- 特定の取引相手を差別的に扱い、競争上不利な立場に追い込む行為(同条1項d号)[10]
TFEU第101条でいう「協定」は、競合する事業者間の協定 (水平的制限) だけでなくメーカーと販売業者間の協定 (垂直的制限) の両スキームを包含する。また、企業が正式な文書や協議で合意をしていなくとも、同時に価格を上下させるような非公式協定(いわゆる紳士協定)の締結および協調行動をカルテル行為に含まれるという解釈がなされている。
他方で、第101条3項では、消費者にとって利益になる行為は違法とされない。また、欧州委員会は販売価格の修正を除いた、市場占有率が10%に満たないような小規模の事業者による協定などについて第101条の対象外としている[要出典]。 欧州連合競争法の執行機関は欧州委員会である[2]。
日本
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。→詳細は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」および「不当な取引制限」を参照日本法の「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「法」)は、カルテルを不当な取引制限として禁止している(法第3条後段)。
日本では、公正取引委員会が独占禁止法に抵触するカルテルを結んだ事業者等に対して課す金銭的不利益のことを課徴金と呼び、刑事罰の罰金と区別している(結果的に両方が科せられるケースもある)[11]。
- 日本における課徴金の最高額は、2010年に発覚した光ファイバーケーブルの納入をめぐるカルテルで、住友電気工業、古河電気工業、フジクラらに約160億円の納付が命じられたもの。住友電気工業と古河電気工業は、直近に公正取引委員会から別の課徴金納付命令を受けていた経緯があり、課徴金の割増制度が適用され極めて高額なものとなった[12]。
- 2024年6月、東京海上日動火災保険・損害保険ジャパン・三井住友海上火災保険・あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社に対して大手私鉄グループ企業との共同保険取引でカルテルを結んでいる疑いから、保険業法に基づく報告徴求命令を各社に発出、公正取引委員会は合わせて20億円余りの課徴金の納付を命じた[13][14]。
この節の加筆が望まれています。脚注
注釈
- ^ 例えば、割引因子を
- 競争政策 - 経済産業省
- The Great Lightbulb Conspiracy;The Phoebus cartel engineered a shorter-lived lightbulb and gave birth to planned obsolescence (IEEE, SPECTRAM誌記事, 2014年9月24日)。 白熱電球製造企業間の製品寿命に関する国際カルテルの例。
- 『カルテル』 - コトバンク