作品概要・執筆背景
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自身初の私小説『岳物語』(1985年、集英社)で大ヒットを獲得した椎名は、1988年には自らの父母兄弟の家族関係を描いた『犬の系譜』(講談社)で第10回吉川英治文学新人賞を受賞し、私小説を執筆ジャンルのひとつとして確立しつつあった。そうした中で執筆された本作は、作者の小学生時代の思い出を元に描かれた作品であり、6短編で構成される。昭和30年代の千葉県千葉市幕張を舞台に、小学5年生の「ぼく」の視点から、子どもながらに上下意識やしがらみに気を遣う友人関係、周囲の大人たちの観察、日常の様々な出来事などを描いた作品である。表題作はなく、集英社『青春と読書』に掲載された6短編に加筆訂正を加えて単行本化する際に『白い手』の題名が付された。 叙述上の試みとして、本作では小学5年生の「ぼく」の目線と尺度で物語が描かれている。このため、大人達の会話などから小学生の耳に入ってくる語彙のうち、子どもには意味がよく理解できないことばは、平仮名や片仮名で表現されている。例えば最初の小編である「カイチューじるこ」は、同級生の松井の家で食べたこともない懐中汁粉を出されたのだが、「これはカイチューじるこです」と松井の母に教えられても意味が分からず、カイチューと聞いてまず思い浮かぶのは回虫のことだった、という話になっている。 椎名が小学生の頃、一家は幕張に居を構え、椎名は千葉市立幕張小学校に通学していた。作中、主人公らが学級新聞を作るくだりがあるが、実際に小学生時代の椎名は4年生・6年生時に学級新聞の編集長を務めた経験がある。また、松井・ヒロミツ・パッチンら主要登場人物はみな椎名の小学校時代の友人がモデルである。一方、椎名の父は実際には彼が小学6年生の時に他界したのに対し、作中の主人公である小学5年生の「ぼく」の家は、既に幼少期に父が亡くなり、母や祖母、それに「綱島のおじさん」らと暮らしているという設定である。 本作の原案は、椎名が千葉市立千葉高等学校在学中に新聞部の発行紙に寄稿した、白い手の少女について描いた小説である。当時いわゆる不良少年で喧嘩ばかりをしていた椎名が、病弱な少女との交流を描く小説を書いたことは、学校の教師からはまるで信用されなかったという。
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