人権救済手続
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/28 06:32 UTC 版)
人権委員会は、人権相談に応ずるものとした(設置法案20条1項)。この点は人権擁護法案と同様である。人権擁護法案との違いは、相談を受けた場合において、「当該相談に係る事件の実情に即した解決を図るのにふさわしい他の手続を行う機関があると認めるときは、当該相談をした者に対し、当該手続に関する情報を提供するものとする。」と具体的に定めた点にある(設置法案20条2項)。 人権委員会設置法案・人権擁護法案とも、「何人も、人権侵害行為による被害を受け、又は受けるおそれがあるときは、人権委員会に対し、その旨を申し出て、当該被害の救済又は予防を図るため適当な措置を講ずべきことを求めることができる。」として、救済手続の開始を定め(設置法案21条1項)、人権委員会の職権による救済手続の開始を定めた(設置法案20条4項)。両法案の違いは、人権擁護法案では、人権委員会が救済申出を受けた場合の調査義務・措置義務を定め、例外として「当該事件がその性質上これを行うのに適当でないと認めるとき」、「当該申出が行為の日から一年を経過した事件に係るものであるとき」を挙げたのに対して、人権委員会設置法案では「人権委員会は、第一項の規定による申出があった場合において、相当と認めるときは、次節に定めるところにより、遅滞なく必要な調査をし、適当な措置を講ずるものとする。」として、まず人権委員会による相当性の判断権限を定めた(設置法案20条3項)。また、人権委員会設置法案には、「前項の規定による申出をする者は、他の者の権利利益を害することのないように留意しなければならず、かつ、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用してはならない。」として、申出者の手続濫用避止義務を定めた(設置法案20条2項)。 人権委員会設置法案では、人権委員会は人権侵害行為の申出者に対し、必要な助言、関係行政機関又は関係のある公私の団体への紹介その他の援助をすること、関係者と申出者等との間の関係を調整することのほか(設置法案24条1項)、人権侵害行為が認められた場合には、人権侵害行為をした者に対し、その行為についての反省を促すため、事理を説示すること、その行為をやめるべきこと又はその行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことその他被害の救済又は予防に必要な措置をとるべきことについて勧告をすること、関係行政機関に対し、人権侵害行為の事実を通告すること、犯罪に該当すると思料される人権侵害行為の事実について告発をすること、当該人権侵害行為をした者以外の者であって、人権侵害行為による被害の救済又は予防について、法令、契約その他の事由により実効的な措置をとることができる者に対し、必要な措置をとることを要請することなどの措置を講じることが出来ると定めた(設置法案24条2項)。また、公務員がその職務を行うについて人権侵害行為を行ったと認める場合に限って、その所属する機関に対して、その行為をやめさせるべきこと又はその行為若しくはこれと同様の行為を将来行わせないことその他被害の救済又は予防に必要な措置をとるべきことについて勧告をすること、勧告を受けた機関等が、正当な理由がなく当該勧告に係る措置をとらなかったときは、その旨を公表すること、資料の閲覧及び謄抄本の交付などを定めた(設置法案25条ないし27条)。これらの措置は、人権擁護法案に定める一般救済手続と同様である。ただし、人権擁護法案では幅広く認められた「勧告の公表」が、人権委員会設置法案では、公務員の人権侵害行為があった場合に勧告を受けた機関等が、正当な理由がなく当該勧告に係る措置をとらなかったときに限られた。 人権委員会は、人権侵害行為に係る事件について、当事者から申し出がある場合には、調停委員会・仲裁委員会を設ける。調停委員会・仲裁委員会には、人権委員会が任命する人権調整委員の中から事件ごとに調停委員・仲裁委員を指名し、調停・仲裁を行わせる。この点は、人権擁護法案と同様である。 人権擁護法案と人権委員会設置法案の最も大きな違いは、人権擁護法案に定めた特別調査の規定が、人権委員会設置法案には定められなかった点である。特別調査は、人権委員会が、事件の関係者に出頭を求め、質問することや、人権侵害等に関係のある文書その他の物件の所持人に対し、その提出を求めること、人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問することなどの権限を定め、正当な理由なく、これらの調査を拒んだ者に対して、30万円以下の過料に処すことで、実効性を高めた調査である。人権委員会設置法案では、任意の調査手続のみを定めている。
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