人口動態がないSIRモデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 14:13 UTC 版)
「疫学における区画モデル」の記事における「人口動態がないSIRモデル」の解説
伝染病(例えばインフルエンザ)の動態は、出生と死亡の動態よりもはるかに速いことが多いため、単純な区画モデルでは出生と死亡が省略されることが多い。先に述べたいわゆる人口動態(出生および死亡)を考慮しないSIRシステムは以下の一組の常微分方程式で表わすことができる。 d S d t = − β I S N , d I d t = β I S N − γ I , d R d t = γ I . {\displaystyle {\begin{aligned}&{\frac {dS}{dt}}=-{\frac {\beta IS}{N}},\\[6pt]&{\frac {dI}{dt}}={\frac {\beta IS}{N}}-\gamma I,\\[6pt]&{\frac {dR}{dt}}=\gamma I.\end{aligned}}} 上式において、 S {\displaystyle S} は感受性集団のストック、 I {\displaystyle I} は感染集団のストック、 R {\displaystyle R} は隔離集団のストック(死亡または回復による)、そして N {\displaystyle N} はこれら3つの和である。 このモデルは、ウィリアム・オグルヴィ・カーマックとアンダーソン・グレイ・マッケンドリックによって、現在カーマック・マッケンドリック理論と呼ばれているものの特別な場合として初めて提案されたものであり、マッケンドリックがロナルド・ロスと共に行った研究に続いて行われた。 このシステムは非線形であるが、陰関数形式でその解析解を導出することが可能である。他の数値計算ツールとしては、ギレスピー・アルゴリズム(英語版)といったモンテカルロ法がある。 第1に、 d S d t + d I d t + d R d t = 0 {\displaystyle {\frac {dS}{dt}}+{\frac {dI}{dt}}+{\frac {dR}{dt}}=0} から、 S ( t ) + I ( t ) + R ( t ) = 一定 = N {\displaystyle S(t)+I(t)+R(t)={\text{一定}}=N} となる。この式は数学的に人口 N {\displaystyle N} の恒常性を表わしている。 ここで留意すべきは、上記の関係は3つの変数のうち2つに関する式だけを調べる必要があることを示唆している点である。 第2に、伝染病クラスの動態が比率 R 0 = β γ , {\displaystyle R_{0}={\frac {\beta }{\gamma }},} いわゆる基本再生産数(基本再生産率とも)に依存することに注目する。この比率は、すべての対象者が感受性である集団における1つの感染からの新規感染(これらの新規感染は二次感染と呼ばれることもある)の予想数として導き出される。この考えは、接触の間の典型的な時間は T c = β − 1 {\displaystyle T_{c}=\beta ^{-1}} であり、隔離までの典型的な時間は T r = γ − 1 {\displaystyle T_{r}=\gamma ^{-1}} であると言えば、おそらくもっとわかりやすいだろう。ここから、平均して、感染者が隔離される「前」に他の人と接触した回数は T r / T c {\displaystyle T_{r}/T_{c}} となる。 1つ目の微分方程式を3つ目の微分方程式で割って、変数を分離して積分すると以下のようになる。 S ( t ) = S ( 0 ) e − R 0 ( R ( t ) − R ( 0 ) ) / N {\displaystyle S(t)=S(0)e^{-R_{0}(R(t)-R(0))/N}} 上式において、 S ( 0 ) {\displaystyle S(0)} および R ( 0 ) {\displaystyle R(0)} はそれぞれ感受性保持者および隔離者の初期数である。感受性保持者の初期割合を s 0 = S ( 0 ) / N {\displaystyle s_{0}=S(0)/N} 、極限 t → ∞ {\displaystyle t\to \infty } における感受性保持者および隔離者の割合をそれぞれ s ∞ = S ( ∞ ) / N {\displaystyle s_{\infty }=S(\infty )/N} および r ∞ = R ( ∞ ) / N {\displaystyle r_{\infty }=R(\infty )/N} と書くと。 s ∞ = 1 − r ∞ = s 0 e − R 0 ( r ∞ − r 0 ) {\displaystyle s_{\infty }=1-r_{\infty }=s_{0}e^{-R_{0}(r_{\infty }-r_{0})}} となる(ここで留意すべきは、感染区画はこの極限において空になる点である)。この超越方程式(英語版)はランベルトW関数の観点において解を持つ、すなわち s ∞ = 1 − r ∞ = − R 0 − 1 W ( − s 0 R 0 e − R 0 ( 1 − r 0 ) ) {\displaystyle s_{\infty }=1-r_{\infty }=-R_{0}^{-1}\,W(-s_{0}R_{0}e^{-R_{0}(1-r_{0})})} となる。これは、エピデミックの終わりには、 s 0 = 0 {\displaystyle s_{0}=0} でない限り、集団のすべての個体が隔離されたわけではないので、一部は感受性のままであることを示している。これは、エピデミックの終わりは、感受性保持者の絶対的な不足ではなく、感染者の数が減少することによって引き起こされることを意味する。 基本再生産数の役割は極めて重要である。実際、感染者に関する方程式を d I d t = ( R 0 S N − 1 ) γ I {\displaystyle {\frac {dI}{dt}}=\left(R_{0}{\frac {S}{N}}-1\right)\gamma I} と書き換えると、もし R 0 > N S ( 0 ) {\displaystyle R_{0}>{\frac {N}{S(0)}}} ならば、 d I d t ( 0 ) > 0 {\displaystyle {\frac {dI}{dt}}(0)>0} となる。すなわち、(人口のかなりの割合に達することができる)感染者数の増加を伴う相応のエピデミックなアウトブレイクがあるだろう。逆に、もし R 0 < N S ( 0 ) {\displaystyle R_{0}<{\frac {N}{S(0)}}} ならば、 d I d t ( 0 ) < 0 {\displaystyle {\frac {dI}{dt}}(0)<0} となる。すなわち、感受性保持者集団の初期の規模とは無関係に、この病気が相応のエピデミックなアウトブレイクを引き起こすことはあり得ない。結果として、基本再生産数が極めて重要であることは明らかである。
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