中国東北部の脱北者
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深刻な食糧危機をはじめとする経済・社会の混乱が続く北朝鮮から、中国へと逃れてくる脱北者たちがおり、国境警備の目を盗み、命がけの思いで国境の川を渡ってきた脱北者らは、人身売買の対象になっている。中国東北部に潜伏する脱北者は、30万人〜40万人と見積もられている。2009年の中国への脱北者は2万5千人〜3万人。4割は中国にとどまるが、6割はベトナムやモンゴルなどの第三国に渡り、大半は売春婦か中国人の妻になる。売春婦になる場合、「満足に食べられるならただ働きでいい」という希望者は、いくらでもいる。 アメリカ合衆国国務省の2009年『人身売買に関する年次報告書(英語版)』によると、脱北者は中国と国境を接する咸鏡北道からが多く、8割が人身売買の犠牲になっており、強制的に売春させられたり、中国人の妻になる女性が多く、妻を不要だと感じた夫が、別の男性に「転売」する事例も発生しており、脱北に失敗した者は強制収容所に送られ、強制労働や拷問、レイプなどの虐待を受ける。アメリカ合衆国国務省の2009年『人身売買に関する年次報告書(英語版)』は、人身売買根絶への取り組みで評価した4分類のうち、北朝鮮を最低ランクの17カ国に指定している。脱北を商売にする仲介業者は少なくとも150社ほど存在しており、ほとんどが中国朝鮮族である。 脱北者の人身売買には「人販子(レンファンツー)」と呼ばれる仲介業者が暗躍し、また、一部の中朝国境警備部隊員が結託しており、ホステスや売春婦、中国人の妻になる場合、中国の仲介業者は依頼主から脱北者1人あたり6千~7千元(約7万8千~9万1千円)を受け取り、このうち4千元(約5万2千円)を中国の警備部隊関係者に支払い、その中から1千元(約1万3千円)が、協力した北朝鮮の隊員に渡る。たばこの箱に詰めて手渡すことが多い。 苦難の行軍が発生した1990年代から違法に国境を越えて中国に逃れる者が急増したと伝えられる。脱北者は中国朝鮮族が多く住む延辺朝鮮族自治州に隠れ住んだ。同族の境遇を哀れんだ中国朝鮮族がこれを援助したが、その後も脱北者は増え続け、犯罪も頻発して治安に影響を与えるようになった。当初は放置していた中国政府も脱北者の厳しい摘発に乗り出した。中国政府は脱北者を難民(保護を義務づけられる)とは認定せず、不法入国者としている。本来は国連の難民条約33条には、「難民を迫害の待つ国に送還してはならない」という規定があるが、中国は「中朝間に難民問題は存在しない」、「経済難から国境を越えたごく少数の朝鮮の不法越境者がいる」という立場である。これは長年の友好国である北朝鮮との関係も考慮した措置である。中国警察に摘発された脱北者は北朝鮮へ強制送還されている。北朝鮮では許可のない出国は厳しく禁じられており、強制送還された人々は死刑を含む厳しい処罰を課せられる。拷問など非人道的行為が数多く伝えられており、脱北者を強制送還する中国政府に対して国際社会から厳しい非難が寄せられているが、中国政府は脱北者に対する姿勢を改めていない。難民と認定して脱北者が急増すると中国東北部に混乱が生じかねないことと、北朝鮮の体制を揺るがしかねないためである。 脱北者の多くは中国東北部で低賃金労働に従事しているが、摘発を逃れるために住居を転々とすることを余儀なくされ、その生活は安定していない。嫁不足の中国人農家と結婚する女性や売春婦に身を落とす女性も数多い。路上で物乞いをする孤児(コッチェビ)もいる。その一方で北朝鮮との密貿易で財をなす者もいる。 脱北女性は人身売買の対象となっており、20歳〜24歳の女性は7千元、25歳〜30歳の女性は5千元、30歳以上は3千元で中国などに売られている。
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