上告審の性格及び上告審での審理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 08:45 UTC 版)
「上告」の記事における「上告審の性格及び上告審での審理」の解説
上告審の法的性格は法律審であり、原則として上告審では原判決に憲法違反や法律解釈の誤りがあるかを中心に審理される。原則として上告審は、下級審の行った事実認定に拘束されるが(民事訴訟法311条1項)、民事訴訟においては事実認定に経験則違反がある場合、事実認定の理由に食違い(矛盾)がある場合には原判決を破棄することがある。刑事訴訟においても、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときには、原判決を破棄することができる(刑訴法第411条3号)。 上告審が法律審であるとの性格から、原則として証拠調べを行うことはない。 このこともあり、上告を棄却するときは、口頭弁論を経る必要はないとされており(民事訴訟法319条、刑訴法408条)、実際に上告審で弁論が行われることはほとんどなく、書面での審理に限られるのが普通である。これに対し、原判決を変更する場合には、被上告人にも反論の機会を与える必要があるから、口頭弁論を開催する必要がある(民事訴訟法87条1項本文、刑訴法43条1項)。そのため、上告審で口頭弁論が開かれるということは、原判決を何らかの形で見直すことを事実上意味するといえる。ただ、死刑判決に対する上告事件と大法廷の審理は原則として公判ないし口頭弁論が開かれる慣行があり、公判ないし口頭弁論が開かれたからといって原判決が見直されるとは限らない。なお、上告審で死刑判決が破棄されたのは2009年9月時点で12例(11件・16人)だけである。 無期懲役判決に対する上告審で口頭弁論が開かれながら、上告棄却の判決が言い渡された事例として、国立市主婦殺害事件(1992年10月20日に発生)がある。同事件では、1999年10月に検察官の上告を受けて最高裁第二小法廷(福田博裁判長)が口頭弁論を開いたが、同小法廷は同年11月に上告棄却の判決を言い渡したため、控訴審判決(無期懲役)が確定している。 「国立市主婦殺害事件」および「福山市独居老婦人殺害事件#広島高検が死刑適用を求め上告」も参照 なお、原判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決書に署名押印していることを理由として原判決を破棄し、高等裁判所に事件を差し戻す場合には、口頭弁論を経なくてもよいという判例がある(最高裁平成19年1月16日判決)。
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