メンデルの実験データと理論の整合性について
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「メンデルの法則」の記事における「メンデルの実験データと理論の整合性について」の解説
メンデルの実験は後にかなり論争の的となった。メンデルの実験データは理論と合いすぎているというのである。その顕著な例の一つは、優性を示すF2世代のホモ接合(AA)とヘテロ接合(Aa)の1:2の比率である。 メンデルは7つの形質の各々で純系(ホモ接合)のエンドウを掛け合わせた。どの場合でも、第一世代(F1)はヘテロ接合になり、それゆえ一様に優性な状態が現れた(丸や緑)。1936年に、ロナルド・フィッシャーはメンデルの実験を再構築し、第二世代(F2)の結果を解析し、優性と劣性の表現型の比率(例えば、緑と黄色のエンドウ豆の比率、丸としわのエンドウ豆の比率)が期待される3:1に信じ難いほど近いことを発見した。メンデルは優性の表現型を示すエンドウのホモ接合とヘテロ接合の比を決定するため、F2世代を自家受粉させてその子世代を10株ずつ育て、その中に劣性の株があればF2世代をヘテロ接合とし、10株全てが優性ならホモ接合とみなしていた(7つの形質のうち5つでは種子を育てて調べる必要がある)。フィッシャーはメンデルが得た純系(ホモ接合)と雑種(ヘテロ接合)の1:2の比率に懐疑的で、メンデルの結果が「出来過ぎている」と述べた。フィッシャーが指摘したところによると、ヘテロ接合のF2に偶然10株の優性の子が生まれる確率は約6%あり、この結果として、純系と雑種の正しい期待比率は1:1.7となるべきである。しかしメンデルの実験結果である353:720は期待される値とかなり異なり、メンデルが期待したであろう誤った1:2の比率に非常に近い。この統計的な解釈はメンデルの仕事全体を批判する根拠として受け取られ、1998年には、メンデルが外れ値を除外してデータを整え、実験を繰り返すことで、実験的不正をしたと非難されるに至った。フィッシャーは、実験の多くのデータは、全てではないにしても、メンデルの予想値に近くなるように改竄されている、と主張した。彼はメンデルの結果を「ひどいもの」「衝撃的」「加工されている」と呼んだ。 フィッシャーはメンデルの実験を「予想と一致するように強くバイアスがかかっている…その理論に疑わしい利益を与えるために」と非難した。これはしばしば確証バイアスの例として引用される。これは次のようなときに生じるだろう。もしメンデルが小さいサンプルサイズの初期の実験で約3:1の結果を発見し、その比率が3:1からやや偏差しているように見えたら、結果がより正確な比率に近づくまでより多くのデータを集め続けるかもしれない。2004年にJ.W. ポーティアスはメンデルの観測は信じがたいと結論した。しかし、別の実験再現は、メンデルのデータに本当のバイアスがないことを実証している。2007年にダニエル・L・ハートルとダニエル・J・フェアバンクスは、フィッシャーが実験を誤って解釈したと提案した。彼らは、メンデルが10株より多くの子からデータを得ていた可能性が高いことと、その結果が期待比率と合うことを発見した。彼らは次のように結論した。「意図的な改竄があるというフィッシャーの疑念は最終的に解消された。なぜならより正確な解析により、説得力ある証拠に裏付けられていないと示されたからだ」。2008年にハートルとフェアバンクスらは包括的な本を出版し、メンデルが結果を捏造したと主張する理由はなく、フィッシャーが意図的にメンデルの成果を矮小化しようとしたと主張する理由もない、と結論した。統計解析の再評価もまた、メンデルの結果に確証バイアスの概念が当てはまらないことを示している。
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