ヒト常在細菌叢への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 15:26 UTC 版)
「メタゲノミクス」の記事における「ヒト常在細菌叢への応用」の解説
腸内細菌を含むヒト常在菌は、健康を維持する上で重要な役割を果たしていると考えられているが、その菌叢構造や生態学的メカニズムは十分には分かっておらず様々な人種や体組織において、メタゲノム解析による大規模なシーケンス研究が進められている。例えばHuman Microbiomeプロジェクトでは、250人以上の個人の15〜18の身体部位について解析がなされている。このプロジェクトでは、ヒトの健康と相関する可能性のあるヒトマイクロバイオームを理解し、その目標のために必要となる新しい実験的およびバイオインフォマティクス技術を開発するということを目標としている。 また別のプロジェクトであるMetaHit(Metagenomics of the Human Intestinal Tract、ヒト腸管のメタゲノミクス)の一部として行われた研究は、健常者や肥満者、過敏性腸疾患患者などからなる124人のデンマークとスペインの個人を解析している。この研究は、胃腸に生息する細菌叢がどのような系統的多様性を持つのかに関して調べている。その結果、バクテロイデス(Bacteroidetes)とファーミキューテス(Firmicutes)の2つの細菌門が、腸内細菌叢の90%以上を構成する系統群であるということを実証した。また、メタゲノム解析から得られた遺伝子配列の出現頻度を利用して、腸管の健康にとって重要な可能性がある1,244個の遺伝子クラスターを特定した。このクラスターには、ハウスキーピング遺伝子の他に、腸特有の機能を持つ遺伝子の2タイプが含まれていた。前者はあらゆる細菌に必須なハウスキーピング遺伝子から構成されており、炭素代謝やアミノ酸合成などの主要な代謝経路に関連した機能を持っていた。一方で後者の腸特有の機能には、宿主タンパク質への接着やグロボシリーズ糖脂質からの糖生成に関する機能が見られた。過敏性腸症候群の患者は、健常者と比較して菌叢中の遺伝子と系統多様性が25%低く、腸内細菌叢の多様性の変化がこの疾患状態に関連している可能性が示唆された。この研究では、いくつかの潜在的に価値のある医学的応用が強調されているている。しかしながら、リード全体では31-48.8%程度のリードしか194の既知のヒト腸内細菌ゲノムにマップされず、7.6-21.2%のゲノムしかGenBankで利用可能な細菌ゲノムと整合していなかったため、さらなる未解読の新規細菌ゲノムを明らかにしていく研究を進めていく必要があることが示唆された。
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