ヒットの理由・背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 07:18 UTC 版)
ケータイ小説がヒットした理由を、本田透は次のように分析している。いわゆる「大きな物語」(社会全体に共有される価値観)が凋落し、“失われた20年”の始まり、地域格差進行によって、地方都市の少女は自力で「自分の物語」を確保せざるをえなくなり、「自分の物語」を欲するようになった。しかし、例えばテレビドラマなどの多くが東京を舞台としており、地方都市の少女は自分が共感できるような物語を既存の文学の中からは得られなかった。そこへだれもが簡単に「自分の物語」を発表したりそこにアクセスしたりできる携帯電話というツールが登場したことによって、需要と供給が一致し、ケータイ小説の市場が成立したのだという(ケータイ小説は前述のように主に地方都市で消費されている)。 評論家の宇野常寛は、ケータイ小説の発生の背景には明治政府の定めた国語に依存する「文体」という大きな物語の失効があるという。それによって純文学は衰退し、文体の代わりにキャラクターの肥大化によって強度を獲得したものがライトノベルであり、プロットの肥大化によって強度を獲得したのがケータイ小説だと考えられる。 批評家の東浩紀は、ケータイ小説のヒットはライトノベルのそれと同様に「新たな読者層の発見」にすぎないとしている。1990年代にはオタクは本を読まないと出版業界でささやかれていたにもかかわらずライトノベルのヒットによりそうではないとわかったように、ケータイ小説の主な読者層(広義のヤンキー層)はそれまではあまり小説を書いたり読んだりしないと考えられていたが、携帯電話という技術改革によって条件が揃ったことによりそういった層が文学の新しい市場として再発見されたのだという。 社会学者の宮台真司は、『恋空』などのケータイ小説がヒットした背景には、若い女性の間で人間関係に対する「願望水準」が低下し、濃密な人間関係が描かれた従来の文学作品には共感できなくなってしまったことがあると指摘し、かけがえのない関係性が描かれず登場人物が交換可能な記号としてしか扱われていないケータイ小説を批判している。 小説家・劇作家の筒井康隆はケータイ小説・オンライン小説(小説投稿サイト発)が生まれた背景には読み手が書き手の才能を見抜けなくなっている実際があるとしている。「表面的に似ていても本質的にレベルの違う作品の区別がつけられず、自分でも簡単に書けると思って(錯覚して)しまった。だからオンライン小説・ケータイ小説が生まれた」と発言している。また、背景を考えれば当然の流れだとも発言している。
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