パソコンに戦争が過ぎ一位の実

現代俳句データベース(俳句)

パソコンに戦争が過ぎ一位の実

作　者	松田ひろむ
季　語	一位の実
季　節	秋
出　典	飛景
前　書
評　言	パソコンが日本で初めて発売されたのは1976年、当時はまだマイコンと呼ばれて一部のマニアのものだった。本格的にパソコンが普及し始まるのは1980年、シャープ、日立、NECが御三家と呼ばれていた。1981年にはNECのPC-8800シリーズが発売されて、僅かなあいだに爆発的な普及を遂げたものだ。 　価格も高額なものから手頃な値段となり形も軽量化されて、インターネットで生活環境を始めあらゆる出来事が網羅されるようになって、今では大人から子供までパソコンの時代ともなっている。 　パソコンといえば、あの衝撃的な湾岸戦争を思う。1991年１月17日、アメリカによるイラク空爆は、まるでテレビゲームのように放映された。夜空を花火のように砲弾が飛び、その作戦を遂行するコリン・パウエル国務長官、ノーマン・シュワルツコフ中央軍司令官、ポール・ウォルフォウィッツ。 　ノーマン・シュワルツコフが足組みをし頬杖を付いて、戦場から送られてくる映像に見入っている冷酷な写真が放映されたが、あのときの背筋が氷るような思いは、けっして忘れることができない。あの砲弾の下にどれほどの民間人がいたであろうか。奇しくもこの戦争で私たちは、「ピンポイント爆撃」「砂漠の嵐」などという流行り言葉を知ることになった。 　作者のパソコンに付いてのエピソードは、2001年４月、句集「飛景」の出版記念会が行われた席での当時の松澤昭現代俳句協会会長の挨拶が印象的だった。 　「今年の４月から現代俳句協会ではホームページを開催しました。それを松田さんがやってくれていますが、松田さんという人はね、パソコンの出来るような感じの人ではないと思ったの。人って分かんないねー。」と、話され爆笑となったなつかしい思い出とも重なる。 　掲句は1988年の作品であり、湾岸戦争のような事態を予想だにしなかったであろう。しかし、この作品を現在に置き換えてみても少しも色褪せていない。パソコンのゲームにはたくさんの戦争ものがあり、簡単に人が殺し殺されるゲームは人の心を麻痺させているようにも思う。 　　　肉体のかくもミケランジェロ冬へ 　　　青六十歳寒暁いずこより来るも などの同時期の句からも自己に向ける厳しい目があり、写実とイデオロギーとを咀嚼しながら作られていることが理解出来る。 　「一位の実」別名「あららぎ・おんこの実」は、その昔この木から笏を作ったことから位階の一位にちなんで付けられた名（歳時記）とあるが、「戦争」と「一位の実」の対比が現代に問うものを改めて考えてみたい。
評　者	姉崎蕗子
備　考