スワッシュとは? わかりやすく解説

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スワッシュ

名前 Swash

スワッシュ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/27 04:22 UTC 版)

赤色部分がスワッシュ
Minion Pro英語版の大文字。通常 (1)、イタリック (2)、スワッシュ付きスタイル (3)

スワッシュ (swash) とは、タイポグラフィにおいて、誇張されたセリフ、端部、終筆、起筆など、字形に付加される装飾的な筆致を指す[1][2][3]。スワッシュ文字の使用は少なくとも16世紀にさかのぼり、1522年に刊行されたルドヴィコ・ヴィチェンティーノ・デッリ・アリギ英語版の書物『La Operina』にもその使用が確認できる。スワッシュ文字は、イタリック体と同様に当時の筆記体の習慣から着想を得ており[4]、アリギのデザインはイタリア国内だけでなく、特にフランスのデザイナーに強い影響を与えた[5]

スワッシュを持つ書体

スワッシュを備えた書体の多くはセリフ体であり、そうした書体では主にイタリック体にのみスワッシュが含まれていることが多い。高度なデジタルフォントでは、スワッシュ付きイタリックと、より抑制された標準的なイタリックの2種類が提供される場合もある。

オールドスタイル体では、一部のCaslon英語版(Adobe Caslonなど)やGaramond(Adobe Garamond Pro、EB Garamondなど)にスワッシュ付きのバージョンが存在する[6][7]。特定の歴史的モデルに基づかないがスワッシュを含む書体には、ロバート・スリムバックMinion英語版や、マルティン・マヨール英語版のNexusなどがある[8][9]

トランジショナル体では、Baskerville英語版のオリジナルデザインにおいて、J、N、Q、Tの文字にスワッシュが含まれている。復刻版の中にはそれらを省略するものもあれば、逆にスワッシュを追加したものもある。Mrs Eaves英語版は特に多くのスワッシュを備えている[10]

ディドニ英語版系の書体では、Surveyor英語版ITC英語版 Bodoniにスワッシュが含まれている[11][12]

サンセリフ体でスワッシュを備えるものは稀だが、1930年代のアール・デコストリームライン・モダンのスタイルにおいて、一部の例が見られる。たとえば、Tempo英語版[13]Semplicità英語版[14]などが挙げられる。山岡康弘によるClassiq(Garamondに基づいた書体)はスワッシュ付きのイタリックを備えており[15]フレデリック・ガウディGoudy Sans Serif Light Italic英語版や、ズザナ・リッコ英語版によるMrs Eaves英語版から派生したMr Eavesにもスワッシュが含まれている。フィル・マーティンによってデザインされたHelvetica Flairは、Helveticaにスワッシュを加えたリデザインであり、1970年代デザインの象徴とされる。ただし、デジタル版は未発表である。このデザインは賛否が分かれ、Helveticaの持つ簡潔で合理的な性格に対し、装飾性が強いスワッシュは「相反する」と評されることもある。フォントデザイナーのマーク・サイモンソン英語版は「ほとんど冒涜的」と述べている。また、マーティンは後に「タイポグラフィの近親相姦」とドイツ人のある作家に非難されたことを回想している[16][17]

スワッシュは歴史的な筆記体に由来するため、スクリプト体にはスワッシュを備えるものが多い。たとえば、ヘルマン・ツァップによるZapf Chancery英語版Zapfinoなどが挙げられる。

一部の歴史的復刻書体では、元々存在しなかったスワッシュを追加して、より多様なデザインとすることもある。たとえば、Adobe Garamond Proにおけるスワッシュのデザインは、クロード・ギャラモンの印刷物ではなく、彼の後輩であるロベール・グランジョンの書体に基づいている[18]。また、オリジナルのCaslonイタリックでは、J、Q、T、Yの文字のみにスワッシュが存在していたが、復刻版では他の文字にも追加されている[19][注釈 1]

脚注

出典

  1. ^ Henry, Frank S (1917). Printing: A Textbook For Printers' Apprentices, Continuation Classes, And For General Use In Schools. New York: John Wiley & Sons, Inc.. p. 82. https://archive.org/details/bub_gb_UAAvAAAAMAAJ 
  2. ^ Schwartz, Christian. “Back with a flourish”. Eye Magazine. 2018年3月31日閲覧。
  3. ^ Tracy, Walter (1991). “The Alternatives”. Bulletin of the Printing Historical Society (30). 
  4. ^ Adobe Type Library Reference Book (3 ed.). Adobe Systems. (2007). ISBN 9780132701365. https://books.google.com/books?id=JflrEldAbs8C&q=adobe+type+library+reference+book 
  5. ^ Lawson, Alexander (1990). Anatomy of a Typeface. David R. Godine. p. 91. ISBN 978-0-87923-333-4. https://books.google.com/books?id=FiJ87ixLs0sC&pg=PA91 
  6. ^ Adobe Caslon glyph list”. Adobe. 2025年8月26日閲覧。
  7. ^ Duffner, Georg. “EB Garamond: Features”. 2014年8月30日閲覧。
  8. ^ Minion”. Adobe Systems. 2014年8月30日閲覧。
  9. ^ Majoor, Martin. “My Design Philosophy”. 2014年8月30日閲覧。
  10. ^ Wolson, Andrew. “Baskerville”. Font Slate. 2014年9月1日閲覧。
  11. ^ Surveyor: Overview”. Hoefler & Frere-Jones. 2014年9月1日閲覧。
  12. ^ ITC Bodoni 72 Swash Book Italic”. MyFonts. Linotype. 2014年9月1日閲覧。
  13. ^ Schwartz, Christian. “Back with a flourish #5. Christian Schwartz on swaggering swashes”. Eye. 2018年3月31日閲覧。
  14. ^ Di Lena, Leonardo. “Semplicità”. Studio Di Lena. 2017年4月18日閲覧。
  15. ^ Yamaoka, Yasuhiro. “Classiq”. YOFonts. 2025年8月26日閲覧。
  16. ^ Simonson, Mark. “Interview with Phil Martin”. Typographica. 2014年8月30日閲覧。
  17. ^ Puckett, James (2012年3月5日). “Helvetica Flair (photo of specimen book)”. Flickr. 2025年8月26日閲覧。
  18. ^ Adobe Garamond Pro”. Adobe. 2014年8月30日閲覧。
  19. ^ Berkson, William (2010年11月). “Reviving Caslon”. I Love Typography. 2014年9月21日閲覧。
  20. ^ Howes, Justin (2000). “Caslon's punches and matrices”. Matrix 20: 1–7. 

注釈

  1. ^ ジャスティン・ハウズ英語版によれば、19世紀末から20世紀にかけてH.W. Caslon Company英語版社によってCaslon書体とともに販売されていたスワッシュ付き大文字は、「1557年頃に人気を博したフランソワ・ギュヨのイタリック体(約22pt)にかなり忠実に基づいており、18世紀初頭までイギリスの印刷物に用いられていた」という。[20]


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