スペクターのオーバー・ダビングをめぐる論争
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「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の記事における「スペクターのオーバー・ダビングをめぐる論争」の解説
作家のピーター・ドゲット(英語版)によると、マッカートニーはスペクターからアセテート盤を受け取った際に、バンドメイトの意見に合わせる必要性を感じたとのこと。しかし、後にアセテート盤を聴き返したマッカートニーは、スペクターが施したオーバー・ダビングに対して激怒し、4月10日のソロ・アルバム『マッカートニー』のプレスリリースで、「今後ビートルズのメンバーと創作活動をすることはない」と発言した。 4月14日にマッカートニーは、クレインに対して手紙を通して、本作からオーバー・ダビングした要素を消去するように要求した。クレインはマッカートニーに電話をかけたが、マッカートニーがアップルに報告なく番号を変更していたため繋がることはなかった。このため、クレインはマッカートニーに対して、電報を通してスペクターに連絡するように伝えた。 4月22日と23日に行なわれた『イヴニング・スタンダード(英語版)』紙のインタビューで、マッカートニーは「アルバムは1年前には完成してたんだ。でも数か月前にジョンに呼ばれたフィル・スペクターがいくつかの曲を手直ししたんだ。数週間前になって『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』のリミックス版が僕のもとに送られてきた。そのミックスはハープやホルン、オーケストラ、それから女声コーラスで飾り立てられてて…僕は全く知らされてなかったんだ。信じられないよ。アセテート盤には、『これは必要なアレンジだ』というアラン・クレインからのメモ書きが添えられててさ。この一件でフィルを責めるつもりはないけど、ただここにこうして黙って座ってたら、好き勝手にされてしまうことに気がついたんだ。だからフィルに警告の意味で僕の要望を書いた手紙を送ったけど、未だに返事が来ないんだ」と語っている。 マッカートニーはクレインに対し、ビートルズのパートナーシップを解消するように要求したが、クレインはこれを拒否。これに憤慨したマッカートニーは、1971年初頭にクレイン及び他の3人のメンバーに対し、ビートルズの解散及びアップル・コアにおける共同経営の解消を求める訴訟をロンドン高等裁判所に起こした。その理由の一つとして、マッカートニーは「自分の許可なく、『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』に手を加えたこと」を挙げた。これに対し、スターは宣誓供述書の中で「スペクターがアセテート盤を送ってきた時に、メンバー全員がスペクターの作業を承認した。スペクターは電話でも『気に入ってくれたかい?』と尋ねてきて、ポールは『うん、問題ないよ』と返答していた。ところが、それから2週間後にポールはこれをキャンセルしようとした」と反論した。同年3月12日にマッカートニーの訴えが認められ、パートナーシップは解消され、ビートルズは正式に解散することとなった。 スペクターは、オーバー・ダビング・セッションを行なった理由について、レノンのベースの演奏ミスをカバーするために行なったとしている。音楽評論家のイアン・マクドナルド(英語版)は、著書『Revolution in the Head』の中で本作について「この曲は、バラード奏者が歌うスタンダード・ナンバーとして作られた。レノンによる酷いベースの演奏が特徴で、ハーモニーがおぼつかない感じで、ところどころおかしなミスを犯している。『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』で聴けるレノンの粗末なベースは、ほとんど偶発的なものだが、完成した作品としてみた場合、妨害行為といえる」と書いている。 1997年11月4日に行なわれたQアワードの授賞式の会場で、マッカートニーはスペクターと鉢合わせた。その際にマッカートニーは、スペクターに対して「スペクターが14人のコーラス隊をオーバー・ダビングする前に、早く家に帰らなくちゃ」というジョークを発して立ち去った。 2003年にマッカートニーがハリスンやスター、レノンの未亡人であるオノ・ヨーコの承認を得て、当初のコンセプトに沿うかたちで編集が施された『レット・イット・ビー...ネイキッド』が発売された。同作には映画『レット・イット・ビー』や2015年に発売された『ザ・ビートルズ1』に付属のDVD/Blu-rayに収録された1月31日にレコーディングされたテイクが使用されており、オリジナル版での「Anyway, you'll never know the many ways I've tried」というフレーズが、「Anyway, you've always known the many ways I've tried」となっている。その一方で、オーケストラをはじめとしたその他の楽器がオーバー・ダビングされていないため、当初のコンセプトに近いアレンジとなっている。
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