ジョセフ・ライトの作品の重要性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/13 15:29 UTC 版)
「ダービー博物館・美術館」の記事における「ジョセフ・ライトの作品の重要性」の解説
史実に基づいたこれらの絵には、メタファーも託されていると考えられる。例えば、祈る人物の前で激しく燐光が発する様子は、信仰から科学的理解と啓蒙へという、容易ならざる変転を表している。『空気ポンプの実験(英語版)』では、人々が空気ポンプ中の鳥を囲んで様々な表情を浮かべているが、これは来たる科学の時代が起こしうる残酷さを表している。これらの絵画は、西洋における宗教の力を理解し始めた、科学的研究のハイライトを表している。十年ほど後、啓蒙思想の頂点であるフランス革命の反動の中、世界中の科学者たちは自分たちが迫害され、あるいは殺される事すらあると気づいた。ルナー・ソサエティの会員で酸素を発見したジョゼフ・プリーストリーは、フランス革命の支持を公言したことに反発した群衆によって、1791年のバーミンガム暴動で実験室を粉砕され家も燃やされ、1794年にはイギリスを離れた。またフランスの同業者であるアントワーヌ・ラヴォアジエはギロチンにかけられることになった。政治家にして哲学者のエドマンド・バークはその著書『フランス革命の省察』(1790年)で知られるが、プリーストリーをはじめとする自然哲学者たちをフランス革命と結びつけ、イギリスの科学を支えた革命家たちは「実験で人間を扱うところ、空気ポンプのネズミと何ら変わらないと考えていた」と記した。この論評に照らせば、空気ポンプの鳥を描いたライトの絵は、20年以上前に完成していたにも関わらず、実に予見的だったと言える。 ダービー在住でルナー・ソサエティ会員エラズマス・ダーウィンの孫、チャールズ・ダーウィンは、こうした背景の元に半世紀後、1859年に『種の起源』を出版することで、科学と宗教的信念の相克を再び呼び覚ました。 科学に関わるこの網の目のような関係、そしてそれが生み出した緊張を画家ジョセフ・ライトの絵が巧みに描き出しているゆえに、ダービー博物館・美術館は通りがかりの来館者が想像するような単なる名画のコレクションという枠を超え、世界的な現代科学と工業の誕生という重大な現場に立ち会っているかのような思いに至らせる、そのような場所として意義深い。バーミンガムは、そこで行なわれた科学と工業から、18世紀の「シリコンバレー」と称されてきた。 エラズマス・ダーウィンの展示は少ない。チャールズ・ダーウィンの友人であり「適者生存」という語を考案したハーバート・スペンサーはダービーで生まれ「社会学」の創始者と評されてきたが、全く触れられていないようである。
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