ゲノムと遺伝子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 04:07 UTC 版)
ほとんどの細菌は単一の環状染色体を持っており、そのサイズは、内共生細菌Carsonella ruddiiではわずか160,000塩基対であるのに対し、土壌性細菌Sorangium cellulosumでは12,200,000塩基対(12.2 Mbp)と、さまざまである。また染色体の形と数にも例外が知られており、たとえば一部のストレプトマイセス属とボレリア属の種は単一の線形染色体を持ち、一部のビブリオ属種は複数の染色体を持っている。細菌はまた、プラスミドなどのDNAの小さな染色体外分子を持ち、ここに抗生物質耐性、代謝能力、病原性因子などの様々な機能遺伝子を含むことがある。 細菌ゲノムは通常、数百から数千の遺伝子をコードしている。細菌ゲノムにおいては通常、遺伝子は単純に連続してDNA状に分布しているが、まれに異なるタイプのイントロンが存在するものもある。 細菌は無性生物であり、細胞分裂の際には親のゲノムと同一のコピーを継承するクローン体である。しかし、全ての細菌は、遺伝子組換えや突然変異によって遺伝物質DNAに変化が引き起こされ、その変異が選択されることによって進化してゆく。突然変異は、DNAの複製中に生じたエラーや変異原物質(例えば紫外線や放射線など)への曝露によって生じる。突然変異率は、細菌の種類によって大きく異なり、また単一細菌のクローン内であっても大きく異なる。細菌ゲノムの遺伝的変化は、複製中のランダムな突然変異以外にも、ストレス指向性の突然変異からも生じ、この場合、特定の成長制限プロセスに関与する遺伝子の突然変異率が高くなる。 一部の細菌は、細胞間で遺伝物質を移動させる。これには、主に3つの方法が知られている。1つ目は形質転換と呼ばれるプロセスで、細胞外の外因性DNAを取り込む仕組みである。多くの細菌はこの取り込み機能を持っているが、DNAを取り込むためには化学的な誘導が必要となる細菌もいる。自然界でのDNA取り込み能力の発達は、環境からのストレスの多さと関連しており、細胞のDNA損傷の修復を促進するための適応であると考えられている。2番めは形質導入と呼ばれるプロセスであり、これはバクテリオファージの感染によって外来DNAの遺伝物質が細胞内の染色体に導入されるものである。非常に多様なバクテリオファージが存在することが知られており、それらには宿主細菌に感染して溶菌してしまうものもあれば、プロファージとして細菌の染色体に挿入されるものもある。バクテリアは、外来DNAを分解する制限修飾システムや、バクテリアが過去に接触したファージのゲノムの断片を保持するためにCRISPR-Casシステムを通じて、ファージ感染に抵抗する。遺伝子導入の3番目の方法は接合とよばれるプロセスであり、DNAは細胞接触によって他の細菌細胞から直接導入される。通常の状況では、形質導入、接合、および形質転換には、同じ種間でのDNA移動が含まれるほか、異なる細菌種の個体間での移動も発生する場合があり、これは抗生物質耐性の移動などの重大な結果をもたらす可能性がある。このような場合、他の細菌や環境からの遺伝子獲得は遺伝子水平伝播と呼ばれ、自然条件下で広範に発生していると考えられている。
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