ゲノムの可塑性と進化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/06 02:53 UTC 版)
他のすべての生命体と同様に、大腸菌は突然変異や遺伝子重複、遺伝子の水平移動などの自然な生物学的プロセスを通じて進化する。特に、実験室株MG1655のゲノムの18%は、サルモネラからの分岐以降に水平的に取得されたものである。E. coli K-12株およびE. coli B株は、実験目的で最も頻繁に利用される品種である。他の大腸菌のいくつかの株は、宿主動物に有害な形質を持つ。これらの毒性の強い株は通常、下痢の発作を引き起こす。下痢は、健康な成人では抑制的であるが、発展途上国の子供ではしばしば致命傷となる。O157:H7などのより毒性の強い菌株は、高齢者、若年者、免疫不全の人などに深刻な病気や死を引き起こしうる。 エシェリヒア属とサルモネラ属は約1億200万年前に分岐したと考えられている(信頼区間:57-176 mya)。これは、各細菌の宿主の分岐とよく一致している。すなわち、前者は哺乳類から発見され、後者は鳥や爬虫類から発見される細菌である。この祖先細菌から、5種の大腸菌の祖先種(E. albertii、E. coli、E. fergusonii、E. hermannii、E. vulneris)が分岐したと考えられている。最後の大腸菌の祖先種は、2000万から3000万年前に分裂したと見積もられる。 1988年にRichard Lenskiによって開始された、E. coliを使用した長期進化実験により、研究室で65,000世代を超えるゲノム進化の直接観察が可能になった。たとえば、大腸菌は通常、クエン酸を炭素源として好気性に増殖する能力を持たない。このことは、大腸菌をサルモネラ菌などの他の密接に関連する細菌から区別するための診断基準として使用される。しかしながらこの進化実験では、大腸菌の1つの集団が、好気的にクエン酸を代謝する能力を進化させることが確認された。これは、微生物の種分化を引き起こすような、主要な進化的シフトの特徴であると考えられる。 微生物の世界でも動物と同様に、捕食の関係が成立する。そして大腸菌は、Myxococcus xanthusのような複数のジェネラリスト捕食者の餌食であることが知られている。この捕食者と被食者の両種は並行進化していることが、ゲノムや表現型の変化の観察から考えられている。大腸菌の場合、ムコイド産生(アルギン酸エキソプラズマ酸の過剰産生)とOmpT遺伝子の抑制という、病原性に関与する2つの側面を伴う、赤の女王仮説で実証された共進化モデルに従って、他よりも適応的な進化個体が選択的に生き残ると考えられている。
※この「ゲノムの可塑性と進化」の解説は、「大腸菌」の解説の一部です。
「ゲノムの可塑性と進化」を含む「大腸菌」の記事については、「大腸菌」の概要を参照ください。
- ゲノムの可塑性と進化のページへのリンク