キンレンの住民混住説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 06:30 UTC 版)
「ウィンズケール原子炉火災事故」の記事における「キンレンの住民混住説」の解説
レオ・キンレンらは "Can paternal preconceptional radiation account for the increase of leukemia and non-Hodgkin’s lymphoma at Seascale?" というレポートで、1951年から1991年の間の25歳未満のシースケール村の青少年について調査し、白血病および非ホジキンリンパ腫(以降、両者を合わせて悪性腫瘍とする)の過剰な発症が、青少年の受胎前の期間における父親の被曝という仮定で説明ができるか否かの判断をした。 英国の青少年における悪性腫瘍の発症率と、シースケール村在住の青少年の人数からすれば何例ぐらいの発生が起きそうかを計算した数字を期待値とする。期待値に対し実際にシースケール村で発生した悪性腫瘍の症例数が何倍だったかを相対リスクとした場合のデータは以下になる。 シースケール村の青少年における白血病: 発症数と期待値年齢1951-19601961-19701971-19801981-1991合計相対リスクp値シースケール村で生まれ育った青少年の発症数 (かっこ内の数字は期待値) 0-24 1 (0.05) 1 (0.09) 2 (0.09) 0 (0.09) 4 (0.31) 12.9 < 0.001 他所で生まれシースケール村で育った青少年の発症数 (かっこ内の数字は期待値) 0-24 1 (0.15) 1 (0.16) 0 (0.16) 1 (0.11) 3 (0.58) 5.2 < 0.05 シースケール村の青少年における非ホジキンリンパ腫: 発症数と期待値年齢1951-19601961-19701971-19801981-1991合計相対リスクp値シースケール村で生まれ育った青少年の発症数 (かっこ内の数字は期待値) 0-24 1 (0.01) 0 (0.02) 0 (0.02) 1 (0.02) 2 (0.07) 28.5 < 0.01 他所で生まれシースケール村で育った青少年の発症数 (かっこ内の数字は期待値) 0-24 0 (0.03) 0 (0.05) 0 (0.05) 2 (0.03) 2 (0.16) 12.5 < 0.05 シースケール村で生まれ育った青少年は英国平均に比べ過剰な悪性腫瘍の発症が認められるという点では、ブラック報告およびガードナー論文と一緒である。キンレンのレポートでは、その相対リスクは白血病で12.9倍、非ホジキンリンパ腫で28.5倍と計算された。 一方、悪性腫瘍を発症した青少年の受胎前の期間における父親の被曝との関連については、以下のデータから否定した。 悪性腫瘍と診断された時にシースケール村に住んでいた青少年の生誕地と父の被曝量の詳細ドレーパー報告での症例番号診断年年齢シースケール生まれか否か診断父の外部被曝量(mSv)ブラック報告での参照番号調査時点での生死1 1954 6 他所生まれ 神経芽細胞腫 0 22 死亡 2 1955 7 他所生まれ 急性リンパ性白血病 0 1 死亡 † 1955 2 村生まれ 非ホジキンリンパ腫 0 14 死亡 3 1960 2 村生まれ 急性骨髄性白血病 90-99 3 死亡 4 1968 11 他所生まれ 急性リンパ性白血病 5.5 2 生存 5 1968 4 村生まれ 急性リンパ性白血病 100以上 5 死亡 6 1971 2 村生まれ 急性リンパ性白血病 100以上 6 死亡 7 1975 15 村生まれ 横紋筋肉腫 0 26 死亡 8 1979 5 村生まれ 急性リンパ性白血病 90-99 7 死亡 9 1983 9 他所生まれ 非ホジキンリンパ腫 0 16 生存 10 1984 1 村生まれ 非ホジキンリンパ腫 90-99 17 死亡 11 1985 18 他所生まれ 松果体腫瘍 5 記載無し 死亡 12 1988 23 他所生まれ 非ホジキンリンパ腫(バーキットリンパ腫) 100以上 記載無し 生存 13 1988 17 村生まれ ホジキンリンパ腫 0.5 記載無し 死亡 14 1991 16 他所生まれ 急性リンパ性白血病 0 記載無し 生存 15‡ 1978 19 村生まれ 慢性骨髄性白血病 100以上 4 死亡 §‡ 1954 3 村生まれ 亜急性リンパ性白血病 0 記載無し 死亡 内部被曝を含めると、90-99mSvに分類されているうちの1例が100mSv以上の分類に変わる。 記載無し: ブラック報告の後で診断された、などの理由。 † ドレーパー報告ではミスにより省略されたが、後に報告された。 15‡ ブラック報告には含められているが、診断されたのがシースケール村から転出後、2ヶ月経ってからであるため、集計からは除かれた。 §‡ シースケール村から転出後、5ヶ月経ってから非ホジキンリンパ腫と診断されたことが判明したので、集計からは除かれた。 レポートは、シースケール村に住んでいた青少年で悪性腫瘍を発症した11例のうち受胎前に父親が100mSv以上の被曝をしていたのは、僅か3例に過ぎずこれを受胎前に父親が90mSv以上の被曝にまで拡大しても6例である。村で生まれて悪性腫瘍を発症した青少年に限定した場合は、受胎前に父親が90mSv以上の高い被曝をしているのは6例中5例であるのに対し、他所生まれで悪性腫瘍を発症した青少年で受胎前に父親が高い被曝を受けていたのは5例中僅か1例である。よってシースケール村で過剰な悪性腫瘍が発生しているのは、受胎前に父親が高い被曝を受けたことが唯一の原因ではない、と結論付けている。 レポートはシースケール村の過剰な悪性腫瘍が発生する理由の説明として 未知の白血病誘発物質がある 孤立した地域に稀な新旧住民の混住のため感染が促進される伝染病 を提唱し、後者には証拠があると主張している。
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