オエノコッカス属
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 14:03 UTC 版)
「マロラクティック発酵」の記事における「オエノコッカス属」の解説
オエノコッカス属はワイン醸造で多用されるオエノコッカス・オエニを含むが、この種はかつてロイコノストック・オエニと呼ばれていた。オエノコッカスという名前は球菌(coccus)を意味するが、顕微鏡観察時の形状は棒状の桿菌である。グラム陽性であり、通性嫌気性菌であるため酸素呼吸も可能であるが通常は発酵からエネルギーを得ている。オエノコッカス・オエニは複数の最終生成物があるヘテロ発酵を行う。すなわち、グルコースを消費しD-乳酸を生成するほか、二酸化炭素およびおおよそ同量のエタノールないしはアセテートが生成される。還元的な環境下(アルコール発酵がほぼ完了した状態など)では第3の生成物はエタノールであることが多く、わずかに酸化的であるとき(アルコール発酵初期や、密閉せずに発酵を行ったときなど)はアセテートが生成されるのが一般的である。 オエノコッカス・オエニのなかにはフルクトースを消費してマンニトール(ワインの劣化を引き起こすことで知られる)を生成する株もあるが、ほとんどはアミノ酸の一種であるアルギニンを分解しアンモニアに変える。アルギニンはワインを澱を残したまま熟成させた際に死んだ酵母の細胞の自己融解により生じることがある物質である。また、ほとんどの株ではヘキソース、グルコース、フルクトースに加え、L-アラビノースやリボースなどの酵母による発酵後に残ったペントースも消費する。スクロースは補糖の際に加えられる糖であり、酵母によってグルコースとフルクトースに分解されるが、スクロースそのものを用いることのできるオエノコッカス・オエニの菌株は45%程度にとどまる。 いくつかの理由により、醸造家はマロラクティック発酵にオエノコッカス・オエニを用いることを好む。第1に、ワイン醸造に使われる主要な酵母である出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)と共存できる点が挙げられる。多くの場合酵母は栄養分を独占することで他の菌を圧倒してしまい、結果的にマロラクティック発酵の開始が遅くなるが、オエノコッカス・オエニを用いるとアルコール発酵と並行してマロラクティック発酵を行うことができる。また、オエノコッカス・オエニの菌株はほとんどがワインの低pHに耐性があり、アルコール発酵後の通常のワインが達するアルコール度数にも十分耐えうる。加えて、二酸化硫黄濃度が0.8mg/L(pHにもよるが、遊離亜硫酸濃度で35~50ppm程度)とすると細菌の生育を抑えられることが知られているが、オエノコッカス・オエニは他の乳酸菌と比べてやや耐性が強い。ワイン醸造に用いられる乳酸菌の中では生体アミンの生成量が最も少なく乳酸菌の生成は極めて多いという特徴も好適である。 現在では冷凍やフリーズドライのオエノコッカス・オエニが市販されている。
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