イトカワへの着地失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/08 03:51 UTC 版)
「ミネルバ (ローバー)」の記事における「イトカワへの着地失敗」の解説
11月12日に行われることになった第三回着陸リハーサルで、ミネルバはイトカワ表面へ向けて放出されることになった。第三回着陸リハーサルの目的はミネルバの放出とともに近距離レーザー距離計と航法誘導方法の確認であった。この第三回リハーサルでミネルバの放出を行うことになった理由は、小惑星からのサンプルリターンを目的とする着陸時にはミネルバ放出も行う余裕はないと判断されたためであった。また11月中の着陸ミッション完遂を求められていた状況では、ミネルバ放出だけのためにリハーサルをもう一回追加する時間的余裕は無かった。 ミネルバの放出は自律機能を用いず、地上からの指令であるテレオペレーションで行うことになった。テレオペレーションで放出を行うということは、地球とイトカワ間の通信に片道約16分かかるため、はやぶさからのデータを見ながら、往復分である約32分後のはやぶさの位置と速度を予測しながらミネルバの放出を決定することになる。このような場合、本来テレオペレーションで放出を行うことは好ましいとはいえない。しかしはやぶさの場合、小惑星への距離が100メートル以下の状況下で用いる予定であった近距離レーザー距離計の事前試験がこれまで全く行われていなかった。つまり自律機能を用いてミネルバ放出を行おうとしても、きちんと動くかどうか全く確かめていなかった近距離レーザー距離計の数値をもとに行わざるを得ず、これはリスクが高い運用であると判断された。結局、時間の厳しい制約を課せられていたはやぶさのイトカワ着陸ミッションでは、ミネルバ放出と近距離レーダー距離計の試験を第三回リハーサル時に同時に行わざるを得なくなり、テレオペレーションによるミネルバ放出が決定された。 11月12日15時8分、地上からミネルバ放出のコマンドが送信された。ミネルバはイトカワ上空70メートル、イトカワとの相対速度は秒速5センチ以下で放出する予定であった。しかしミネルバ放出コマンドの前に、はやぶさに対して上昇するよう指示するコマンドが送られていたというミスが発生した。ミネルバは15時24分にはやぶさから放出されたが、イトカワからの高度は約200メートルで、はやぶさは秒速約15センチで上昇中であった。結局ミネルバはイトカワに着地することなく人工惑星となった。はやぶさのプロジェクトマネージャである川口淳一郎は、ミネルバのイトカワ着地失敗のそもそもの原因は、近距離レーザー距離計の試験とミネルバ放出を同一の着陸リハーサルで行ったことにあるとしている。 ミネルバははやぶさから放出後は自律モードとなり、定期的に写真撮影を行うようになっていた。一方はやぶさも、ミネルバ放出後は速度を上げてイトカワから上昇しながら搭載カメラでミネルバを撮影することになっていた。はやぶさからミネルバがあると思われる方向への撮影は合計4回行われた。ミネルバ放出後212秒後にはやぶさが撮影した写真に、ミネルバとミネルバとともに放出されたカバーであるOME-Cが写っていた。 ミネルバが撮影した写真のうち、送信されたのははやぶさの太陽電池パネルが写った一枚のみである。その画像もフルサイズでは160×120ピクセルであったものが、画像下側の三分の一が送信されずに160×80ピクセルのものが送信されてきた。これはミネルバの自律画像判断機能が働いて、写真中で何も写っていない部分を破棄して送信しなかったためである。また送信された写真が一枚だけであった理由も、他の写真が何も写っていない宇宙空間を撮影していたり、もしはやぶさやイトカワが写っていたとしても、とても小さく写っていたために画像が棄却されてしまい送信されなかったためと考えられる。 ミネルバははやぶさから分離後、約18時間に渡って通信を継続した。もしミネルバがイトカワに着地すれば、イトカワの自転周期から考えて3時間前後で夜間となっていったん通信が途絶するはずであるが、18時間継続して通信できたことからも、ミネルバはイトカワに着地することなく、人工惑星として宇宙空間を漂っていたことがわかる。ミネルバからは写真は一枚しか送信されてこなかったが、温度データなどは通信継続中は送られ続けた。うち、ミネルバ内部の温度データは放出後ほぼ一定の数値を示しており、これはミネルバは放出後、イトカワ表面からの熱輻射の影響を受けない宇宙空間にあったことを示している。またミネルバが宇宙空間で初めて使用することになった電気二重層コンデンサも正常に動作した。 ミネルバの通信途絶直前に送信されてきたデータによれば、ミネルバの機能は完全に正常であった。従って通信途絶はミネルバの故障が原因ではなく、はやぶさのミネルバ通信用アンテナであるOME-Antがカバーできる範囲からミネルバが外れてしまったことにより、通信不能になったためと考えられている。
※この「イトカワへの着地失敗」の解説は、「ミネルバ (ローバー)」の解説の一部です。
「イトカワへの着地失敗」を含む「ミネルバ (ローバー)」の記事については、「ミネルバ (ローバー)」の概要を参照ください。
- イトカワへの着地失敗のページへのリンク