イタリア後期の受胎告知 (1576年)
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「受胎告知 (エル・グレコ)」の記事における「イタリア後期の受胎告知 (1576年)」の解説
ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵のグレコによる受胎告知(スペイン語版) この聖書内のエピソードの扱いに変化が表れている。本作はイタリア滞在後期に描かれ、ヴェネツィア派の影響が見られる。そのためグレコがイタリアからスペインに移住する直前にヴェネツィアを再訪したという説もあるが、決定的ではない。上述した《モデナの三連祭壇画》から技術は大きく進歩しており、中でも構図や人物表現においてルネサンスの古典的調和を実現している。ガブリエルとマリアの配置は、構図の中で安定と均衡を表現している。またマリアには正確なデッサンと肉付けがされており、ガブリエルはそれに対して優美なプロポーションがとられているだけでなく、聖霊の象徴である白鳩を指すポーズに、威厳と高貴さが備わっている。聖母が祈祷台の上で大天使の話に耳を傾ける様子はヴェロネーゼに、光や色合いはティツィアーノに、物の形や扱いはティントレットに類似している。空間表現に建築的要素が取り込まれているのも本作の特徴である。敷石は透視図法を使って色分けされ、明快で自然な空間の奥行きを作り出している。一方で人物の背後にある欄干は、奥行きを遮断して簡潔で安定した舞台にまとめている。また、シンプルな建築の中に人物や物を設置することで、現実感を出そうとしている。色彩構成も豪華で強いコントラストを含んでいる。具体的例として挙げられるのは、赤いカーテンとマリアの青い衣装、ガブリエルの白衣と黄色のチュニックがある。これらは《フェリペ2世の栄光》の天井部分との類似が見られる。また、背景は幻想的な効果が使われており、ヴェロネーゼやティツィアーノとの関連性も指摘されている。背景の大気の表現と逆巻く雲と閃光によってそれは創り出されている。また、油彩技法も前作と比べて熟達し、筆触はメトロポリタン美術館の《盲人を癒すキリスト》に類似している。また基本的構成要素はのちの受胎告知にも継承される。
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