『マカーマート』
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「アル・ハリーリー」の記事における「『マカーマート』」の解説
イスラム世界を放浪するアブー・ザイドなる人物が己の弁才を以って諸処で騙りをはたらく様を、バスラ出身の教養人ハーリスが目撃し語る形の物語50篇からなる。二人の人物は架空だが、アブー・ザイドについてはエデッサ伯国に近いサルージュ(英語版)出身地で、侵略により流浪の身となったと語られているため、アル・ハリーリーの同時代の出来事であった十字軍侵略が背景になっていると考えられている。アブー・ザイドの騙りは、辻説教や裁判、文化人の会合等様々な場面で展開され、それに応じて題目は道徳やイスラム法、詩や文法等多岐にわたりながら、巧みに目的を達成する様子が各篇で活き活きと描写されている。叙述は、全文が基本的にサジュウ体 (英語版)と呼ばれる一種の韻文で書かれ、更に修辞や言葉遊び、文字遊び、難解な単語を駆使し、イスラム世界の故事、諺を多く織り交ぜた極めて完成度の高いものとされている。このため古来多くの注釈書が書かれてきた。 挿絵はアル・ハリーリの存命中にはなく13世紀以降の写本にみられるもので、現在までに11種類の挿絵付きの写本が知られている。その中で最初期かつ最も広く知られているのは、13世紀のYahya ibn Mahmud al-Wasiti (英語版)(Bibliothèque nationale de France所蔵)の手になるものである。 翻訳は、ヘブライ語やトルコ語等の中東の諸言語では既に13、14世紀頃から存在しているが、欧州の言語では、模倣作は早くも13世紀にアンダルスに出現したものの、知られている最初のものは17世紀のラテン語訳である。 近現代以降の欧米では、以下を始め数多くの刊行本が存在する。 Friedrich Rückert(trans.) (1837) (German). Die Verwandlungen des Abu Seid von Serug, oder die Makamen des Hariri. Cotta. https://books.google.com/books?id=CAVKAAAAIAAJ 第24篇までの自由訳、翻案。 Theodore Preston(trans.) (1850) (英語). Makamat or Rhetorical Anecdotes of Al Hariri of Basra: Translated from the Original Arabic with Annotations. Cambridge University Press 序文と20篇を特に選んで訳し、註釈したもの。 Thomas Chenery(trans.); Francis Joseph Steingass(trans.) (1867–98) (英語). The Assemblies of Al-Ḥarîri: with an introduction about the life and times of al-Hariri (Translated from the Arabic with Notes Historical and Grammatical). Oriental Translation Fund, New Series, 3. 1-2. Royal Asiatic Society. https://archive.org/details/assembliesofalha015555mbp/page/n2 The Assemblies of Al-Hariri: Fifty Encounters with the Shaykh Abu Zayd of Seruj. Amina Shah(trans.). Octagon. (1980) Impostures by Al-Hariri. NYU Library of Arabic Literature. Michael Cooperson(trans.). New York University Press. (2020) アル・ハリーリー『マカーマート 中世アラブの語り物』1-3、堀内勝(訳)、平凡社〈東洋文庫〉、2008-2009。
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