《図案対象》
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久保の作品は、遺族が所蔵している作品を除くと東京芸術大学大学美術館と無言館に収蔵されているが、最も知られているのは、5枚の絵からなる大作「図案対象」(紙本着色、コラージュ、箔、霧吹き) で、多くの画集に掲載されている (ただし、5枚全部が掲載されることは少なく、「正午あるいは真夏」1枚だけであることが多い)。 この作品は1942年 (昭和17年) に卒業制作用として描かれた絵画で、優秀作として東京美術学校 (現在の東京芸術大学) が買い上げた。ただ、十分な時間がなかったため未完成なまま提出された作品である。また、画集では見えないが、経年のため紙は大きく破れており、絵の具も一部剥落している。 「図案対象」は一部の人には知られていたものの、一般的な意味では全く忘れられていたと言ってよい絵だったが、1971年 (昭和46年) になって久保と同期だった鈴木貫爾 (東京芸術大学教授・当時) が発掘して、東京芸術大学資料館で公開されたことで広く知られるようになった。 この後も、「卒業制作の流れ展」(東京芸術大学、1976年)、「〈戦争〉展」(読売新聞大阪本社主催、1978年)、「青春の墓標――戦没画学生の遺作展」(東京セントラル美術館、1978年) 、「東京藝術大学創立100周年記念展 (デザイン・建築)」(松屋銀座、1987年) などの展覧会で展示された。これらの展覧会では「正午あるいは真夏」1枚だけの展示だったが、2001年に故郷の徳山市美術博物館 (当時) で開催された「戦没画学生『祈りの絵』展」では全5作が1度に公開された。 「図案対象」は5枚の絵から構成されており、第1画面から第5画面までそれぞれ順に、「朝あるいは冬」、「午前9時あるいは春」、「正午あるいは真夏」、「午後3時あるいは秋」、「夕暮あるいは冬」のタイトルが付けられている。中央の第3画面を中心にして絵のサイズが対称に構成されているだけでなく、各画面ともに、対称性を主要モティーフとしている。 第5画面では、画面構成には黄金分割比が利用されていることが明瞭であり、第3画面でも同様に黄金分割比が利用されているとの論もある。第4画面には、立方体の4回回転対称軸、2回回転対称軸に垂直な鏡映面が描かれているほか、第2画面でも3次元の回転対称性や円錐曲線がモティーフとして描かれている。 特に「正午あるいは真夏」は、マックス・エルンスト、日本の画家で言えば、初期の福沢一郎や古賀春江が使ったフォト・モンタージュ技法によるシュルレアリスムの作品で、画面に現れるモティーフは、『科学朝日』、『航空朝日』、『カイエ・ダール』などの雑誌に掲載された写真をもとにモンタージュされたことがわかっている。 「図案対象」は、グラフィックデザインの先駆的作品として今日では高く評価されている。1971年の時の展示を見た版画家の駒井哲郎が、横尾忠則の仕事を三十年も前に先取りしていたとは、と漏らしたという逸話は、「図案対象」の紹介文ではよく触れられる。 図案対象 第5画面 《夕暮あるいは冬》 第4画面 《午後3時あるいは秋》 第3画面 《正午あるいは真夏》 第2画面 《午前9時あるいは春》 第1画面 《朝あるいは冬》
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