燃料電池 歴史

燃料電池

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/30 02:49 UTC 版)

歴史

黎明期

グローブの気体ボルタ電池(1842)
燃料電池の原型として知られる

燃料電池の原理は1801年イギリスハンフリー・デービーによって考案された。現在の燃料電池に通じる燃料電池の原型は1839年にイギリスのウィリアム・グローブによって作製された。この燃料電池は、電極白金を、電解質に希硫酸を用いて、水素酸素から電力を取り出し、この電力を用いて水の電気分解をすることができた。

その後、燃料電池は、熱機関により動かされる発電機の登場によって発電システムとしてはしばらく忘れられたが、1955年、米ゼネラル・エレクトリック社(GE社)に勤務していた化学者であるW. Thomas Grubbはスルホ基で修飾されたスチレンによるイオン交換膜を電解質として用いた改良型燃料電池を開発した。3年後、GE社の別の化学者であるLeonard Niedrachは、触媒である白金の使用量を減らすことに成功し、Grubb-Niedrach 燃料電池として知られる事となった。GE社はこの技術の開発と利用を、当時進行中だったアメリカ航空宇宙局のジェミニ宇宙計画に働きかけて採用され、これが燃料電池の最初の実用となった。

1965年アメリカ合衆国の有人宇宙飛行計画であるジェミニ5号で炭化水素系樹脂を使用した固体高分子形燃料電池が採用され、再び燃料電池が注目されるようになった。1959年、フランシス・トーマス・ベーコンは5kWの定置式燃料電池の開発に成功した。1959年、Harry Ihrigが率いるチームによって15kW出力の燃料電池トラクターが米国ウイスコンシン州のアリスシャルマーズ社の米国横断フェアーで公開された。このシステムは水酸化カリウムを電解質として使用して、圧縮水素と酸素を反応させていた。1959年、ベーコンと協力者は5kWの装置で溶接機の電源として使用できることを示した。1960年代、プラット&ホイットニー社は米国の宇宙計画に於いて宇宙船の電力と水を供給するために、ベーコンの米国での特許の使用許諾を得た。アポロ計画からスペースシャトルに至るまで燃料電池は電源、飲料水源として使用された。その際は材料の信頼性による検討の結果、アルカリ電解質形燃料電池が採用された。

民生用燃料電池として、住宅用のコジェネレーションシステムや発電施設向けに研究開発が続けられた。日本においては、通商産業省の省エネルギー政策「ムーンライト計画」に基づき、リン酸形、溶融炭酸塩形燃料電池、固体電解質形燃料電池の開発が始められた。1982年、東芝が50kWりん酸形燃料電池実験プラントを浜川崎工場に建設し、加圧形として日本初めての発電に成功。1985年には米国UTCとIFC社(米国コネチカット州)を設立し、世界最大の11MW級プラントの共同開発を開始し、1991年には、11MW実験プラントを東京電力五井火力発電所に完成させ、出力1万1000kWのリン酸形燃料電池の実証運転が行われた。

1987年カナダバラード パワーシステム社がフッ素系樹脂(Nafion)を電解質膜に用いた固体高分子形燃料電池を開発した。この電解質膜の耐久性に優れていたことから、燃料電池が再び注目されるようになり、研究開発が盛んになった。

国防総省と国防総省高等研究事業局(DARPA)のローレンス・H・デュボワは、様々な液体炭化水素(メタノール、エタノールなど)で動く燃料電池に着目して、南カリフォルニア大学(USC)のローカー炭化水素研究所に所属していたの専門家スルヤ・プラカッシュと、ノーベル賞受賞者のジョージ・A・オラーに声をかけた。USCはジェット推進研究所カリフォルニア工科大学の協力の下、液体炭化水素が直接酸化するシステムを発明し、のちにダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)と名付けられた。

1994年、ダイムラーベンツ(当時)が燃料電池自動車の試作車を発表した。また、トヨタは、1997年東京モーターショーに燃料電池自動車の試作車を発表し、2005年までに量産化することを宣言した[注 8]

2000年代

トヨタの燃料電池自動車(トヨタ・FCHV
ホンダの燃料電池車(ホンダ・FCX
トヨタ・日野自動車製の燃料電池バス
愛知万博のシャトルバスとして使用された。

2001年には、ソニー日立製作所日本電気が、相次いで「携帯機器向けの燃料電池」の開発を発表している。

2002年12月には、トヨタ・FCHVおよびホンダ・FCX燃料電池自動車の市販第一号が日本国政府に納入され、小泉純一郎首相が試乗を行った。これらは総理大臣官邸経済産業省で使用され、24時間のフルメンテナンス体制付きのリース契約となった。

2003年には、東京都交通局にトヨタ・日野自動車製の燃料電池バスが納入、2004年末までお台場周辺で運行された。2005年には愛知万博で日野製FCHV-BUSが納入された。また、2004年には日産横浜市などへ納入した。2006年からは、愛知万博で使用された水素ステーションが移設された中部国際空港でも運行されている。これらの公共バスは、一般人が乗る事が出来る燃料電池車であるといえる。

主に1980-1990年代に、燃料電池の開発段階に応じて、リン酸形燃料電池を「第1世代型燃料電池」、溶融炭酸塩形燃料電池を「第2世代型燃料電池」、固体酸化物形(固体電解質形)燃料電池を「第3世代型燃料電池」と呼んでいた時期もあるが、固体高分子形燃料電池が開発の主役となってから、21世紀現在、この呼び方が用いられることは殆どない。

2014年末には、トヨタが水素燃料電池により長距離走行を可能とする「MIRAI」を発売した。


注釈

  1. ^ りん酸形燃料電池の代表メーカーは、UTC Power(ユナイテッド・テクノロジーズ子会社)や富士電機システムズなど。富士電機システムズ製の100kWPAFCは、2008年に燃料電池としては初めて日本での消防用非常電源の認定を受けた。
  2. ^ 溶融炭酸塩形燃料電池の代表メーカーは、Fuel Cell Energyや石川島播磨重工業などである。
  3. ^ PEFCの発電効率の最高値は公称37.5%LHVとされる。
  4. ^ 固体酸化物形燃料電池の代表メーカーは、ジーメンスウェスチングハウス三菱重工業日本特殊陶業TOTO三菱マテリアル関西電力)、京セラなどである。
  5. ^ 2005年11月から3ヶ月間、大阪ガスと京セラは、都市ガスを使って集合住宅でのSOFCによる1kW発電装置の実証実験を行なった。これは660Wの給湯出力も得られ、1日の平均発電効率で44.1%(LHV)という成績だった。2007年度からは、経済産業省等の元で新エネルギー財団が、4メーカーからの29台の装置によって都市ガス、LPG、灯油によるSOFCの実証研究を行い、平均の発電効率は35%(LHV)という成績だった。実証研究は、2010年度まで継続され、累計233台が実証研究に供された。三菱マテリアル関西電力は、都市ガスを燃料にSOFCによる出力10kW級のコジェネレーション発電装置を実験運用しており、発電効率は50%を達成している。NEDOは、4つの企業グループに委託して、SOFCによる出力10kW級から200kW級の発電装置を実験している。内1つは三菱重工業の都市ガスを燃料とするSOFC発電とマイクロガスタービン発電を組み合わせた複合発電であり、SOFCから生じる未反応の水素と一酸化炭素よりなる副生ガスもマイクロガスタービンで燃焼させることで無駄を排除した。(出典:燃料電池の基礎マスター ISBN 978-4485610077
  6. ^ DFCの燃料には、ボロハイドライトも考えられている。
  7. ^ バイオガス燃料電池と呼ばれる下水消化ガスやメタン発酵ガスを利用した燃料電池とは異なる。
  8. ^ トヨタは、燃料電池車は政府機関を中心にリース契約とし、一般消費者向けにはガソリンエンジンとニッケル水素蓄電池(その後リチウムイオン蓄電池へ移行)を組み合わせたハイブリッド車を販売する方針とした。

出典

  1. ^ Saikia, Kaustav; Kakati, Biraj Kumar; Boro, Bibha; Verma, Anil (2018). “Current Advances and Applications of Fuel Cell Technologies”. Recent Advancements in Biofuels and Bioenergy Utilization. Singapore: Springer. pp. 303–337. doi:10.1007/978-981-13-1307-3_13. ISBN 978-981-13-1307-3 
  2. ^ Khurmi, R. S. (2014). Material Science. S. Chand & Company. ISBN 9788121901468. http://www.biblio.com/books/436308472.html 
  3. ^ Winter, Martin; Brodd, Ralph J. (28 September 2004). “What Are Batteries, Fuel Cells, and Supercapacitors?”. Chemical Reviews 104 (10): 4245–4270. doi:10.1021/cr020730k. PMID 15669155. https://doi.org/10.1021/cr020730k. 
  4. ^ Nice, Karim and Strickland, Jonathan. "How Fuel Cells Work: Polymer Exchange Membrane Fuel Cells". How Stuff Works, accessed 4 August 2011
  5. ^ "Types of Fuel Cells" Archived 9 June 2010 at the Wayback Machine.. Department of Energy EERE website, accessed 4 August 2011
  6. ^ 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)商用型1号機導入 〜廃棄物ガス化装置との組合せ研究を実施〜 2002年9月18日 中部電力
  7. ^ 世界最高効率の燃料電池を開発(2009年06月11日日本ガイシ株式会社)
  8. ^ 家庭用燃料電池「エネファーム」のラインアップ拡充について
  9. ^ CO2排出ゼロ、省資源、低コストが可能な貴金属を全く使わない燃料電池の基礎技術を新開発”. ダイハツ工業 (2007年9月14日). 2020年12月2日閲覧。技術詳細添付資料〈PDF〉
  10. ^ IHI、アンモニアで動く燃料電池 改質器は不要 - 日本経済新聞
  11. ^ “グルコースを用いた酵素型バイオ燃料電池”. 水素エネルギーシステム (水素エネルギー学会) 36 (2): 32-6. (2011). http://www.hess.jp/Search/data/36-02-032.pdf 2016年8月4日閲覧。. 
  12. ^ a b c d 田辺茂著 『燃料電池の基礎マスター』 電気書院 2009年1月31日第1版第1刷発行 ISBN 9784485610077
  13. ^ 燃料電池車の時代は当分来ない 日経ビジネスオンライン 2006年7月20日
  14. ^ 次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?”. 経済産業省 資源エネルギー庁. 2022年9月23日閲覧。
  15. ^ 渡辺正、「化学屋の見た環境騒動」 『生産研究』 2007年 59巻 5号 p. 425-440, doi:10.11188/seisankenkyu.59.425, 東京大学生産技術研究所
  16. ^ EFOY Fuel Cell now available ex works on all Dethleffs motor homes SFC Smart Fuel Cell, July 16, 2007
  17. ^ 新電池元年③ コンビニで燃料電池テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」2009年6月4日
  18. ^ 東芝のプレスリリース。
  19. ^ 実証中”. 不明. 20191016閲覧。


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