戦争 戦争のさまざまな局面

戦争

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 01:08 UTC 版)

戦争のさまざまな局面

戦争には武力を用いた戦闘から、諜報諜報活動、輸送、外交交渉など非常にさまざまな分野で争いが発生する。英語ではこのようなさまざまな闘争の局面を warfare と呼ぶ。ここでは戦争に伴って起こりうるさまざまな分野における闘争について述べる[48]

政治戦

政治戦とは戦争における政治的な闘争の局面である。政治戦には我の政府と国民、敵の政府と国民、国際社会という主に五つの行為主体があり、国際社会に働きかける政治戦を国際政治戦、敵政府に対する政治戦を直接当事者政治戦、敵国民に対する政治戦を間接当事者政治戦、自国民や政府内部に対する政治戦を国内政治戦と呼ぶ。戦争によって得られた戦果は外交交渉を通じて政治的な権力または影響力として政治戦に貢献する。

武力戦

武力戦は戦争において最も激しい闘争の局面であり、主に戦闘において行われる。対立する戦力同士が互いに支配領域の制圧、敵戦力の無力化や撃破などを目的として作戦し、武力を行使して敵対する勢力を排除する。この過程で殺傷・破壊活動が行われ損害が生じる。戦闘を遂行するためには兵士たちの体力と技能だけでなく、戦術武器爆発物の知識、兵器操作の技能、戦術的知能、チームワーク、軍事的リーダーシップ、また後方においては作戦戦略、戦場医療兵器開発などの総合的な国家組織個人の能力求められる困難な活動である。(戦闘を参照)

情報戦

情報戦は戦争において情報優勢を得るために発生する闘争である。主に諜報諜報活動によって行われ、相互に相手の軍事的な情報に限らず、経済的、政治的な状況に関する情報を得るために合法的に外交官や連絡将校を送り込んだり、相手国内に協力者を獲得するためにさまざまな活動を展開する。同時に防諜として相手国のスパイを摘発するための国内における捜査も行われ、敵の情報活動を妨害する。

補給戦

補給戦後方支援または兵站を巡る闘争であり、特に補給と輸送を行う際に発生する闘争の局面を言う。兵力や物資の補填がなければ前線の部隊は戦闘力が維持できず、また戦闘以外の被害による損害は戦闘によるものよりも時には非常に多くなるため、戦闘が活発でない時期であっても物資は絶えず輸送されなければならない。すなわち戦場には常時消費物資を送り続けなければ戦闘力が低下することにつながるため、輸送作戦を確実に実施することは前線の勝敗を左右する作戦である。この輸送作戦を的確に実行するのに必要な経済的、軍事的、事務的な努力は非常に巨大なものである。また相手国も航空阻止、破壊工作、後方地域への攻撃などでこの輸送作戦を妨害してくるため、輸送部隊の司令官は強行輸送や強行補給という手段を用いて、これに対抗しなければならない場合もある。つまり戦争においてはどのようにして効率的な輸送作戦を遂行し、適量の物資を調達して、適地に輸送し、的確に分配するかという兵站上の困難に常に直面することになる。

外交交渉

外交交渉は戦争中には行われる場合と行われない場合があるが、戦争を収束させるためには絶対に避けては通れない争いである。講和や休戦を行うためには政府間の利害関係を調整する実務的な交渉が必要であり、またその過程には双方が国益を最大化するための交渉の駆け引きが行われる。また同盟やさまざまな支援を取り付けるための外交も戦争の行方に大きな影響を与える。(外交交渉を参照)

電子戦

電子戦とは通信機器などで用いられる電磁波を巡る争いである。平時においても情報収集などを目的とした電波の傍受や分析などの電子戦は行われているが、戦時においては指揮組織、通信拠点、SAM[要曖昧さ回避] システムに対してより攻撃的なECMが実施される。現代の戦争においては非常に重要な通信手段は電磁波を用いたものが多く、また通信手段は指揮統率における要であるため、その重要性は大きい。日露戦争以降世界各国の軍隊が電子戦に対応する部隊を保有するようになっている。

謀略戦

謀略とは敵国の戦争指導を妨げる活動であり、一般的に極秘裏に遂行される。間接的には政治的・外交的・経済的・心理的な妨害活動があり、直接的には軍事的な破壊工作がある。破壊工作とは交通拠点、政府機関、生産施設、堤防、国境線などの重要拠点に対する爆発物などを用いた放火や爆破などの活動のことである。しばしば敵国に特殊部隊スパイを送りこんで実行するが、秘密裏にかつ迅速に行われるために無効化が難しい。敵部隊の戦闘力の無力化などを目的とした戦闘とは性格が異なり、対反乱作戦や対テロ作戦に分類される。

心理戦

心理戦とは、テレビ新聞などを用いた広報活動、政党思想団体の政治活動、学校教育などによって情報を計画的に活用し、民衆や組織の思想や考えを誘導し、自らに有利に動くように間接的に働きかけるさまざまな活動と、敵の同様の手段へ対抗する活動の総称である。戦争が開始されれば両国とも自国の正統性を主張し、支持を得ようと試みる。また相手国の国民に対して、自国に有利になるように反政府活動を支援したり、相手国の非人道性を宣伝することによって政権の行動を制限することなどが可能である。これは対ゲリラ作戦や対テロ作戦、政権転覆などさまざまな局面で実施される(心理戦を参照)。

軍備拡張競争

軍備拡張競争は軍備の量的な拡張と軍事技術の開発競争を言う。現代の戦争において勝利を納めるには、兵力や戦略のみならず、優秀な兵器が不可欠である。そのため、敵国・対立国より優れた兵器を多く保持することが重要になり、戦時中はもちろん平時においても、その開発・生産が活発に行われている。

例えば、東西冷戦においては、米ソの直接対決こそなかったものの、核兵器戦車などの熾烈な開発競争が行われ(核兵器については、開発競争により核戦力の均衡が保たれていたからこそ現実に核戦争が起こらなかったとする見方もある)、代理戦争はそれらの兵器の実験場でもあった。また、人類を宇宙や月に送った宇宙開発競争も、ロケット技術が戦略核を搭載する大陸間弾道ミサイルなどのミサイル技術に直結していたことが大きな推進力となっていた。


注釈

  1. ^ 敵を完全に殲滅して敵国の抵抗力を徹底的に破壊する戦略。
  2. ^ ベイジル・リデル=ハートは『戦争に関する考察(Thoghts on War)』において戦争の原因は突き詰めれば心理的なものであると考え、全感覚(あらゆる方面における知覚)を用いて戦争を理解しなければ、戦争を防止する展望は持ち得ないと論じた[40]
  3. ^ 戦争哲学の前提として戦争の原因論はその性質から観察者の哲学的・政治的・歴史学的・法学的な立場やバイアスなどに大きく関わる。例えば決定論の立場で戦争の原因論を考察した場合、あらゆる要因がその戦争の発生を決定付けているために人間は本質的に戦争に責任を持つことができないということとなり、原因は起因したそれら諸要素となる。
  4. ^ 国際政治学において侵略と認定する条件として、第一に武力行使、第二に先制攻撃、第三に武力による目的達成の意思、が挙げられており、自衛や制裁などの免責理由がないこととして価値中立的な定義としている。ただし、侵略の条件に「意思」が挙げられていることはこの定義の法律的性質を現すものであり、ある特定の価値観が存在していると指摘できる。そのため、軍事上の事実的行為として侵略は武力の先制使用であると考えられている[42]

出典

  1. ^ 「戦争」『国際法辞典』、217-219頁。
  2. ^ 「国際紛争の平和的解決」『国際法辞典』、118-119頁。
  3. ^ 三石善吉 戦争の違法化とその歴史 東京家政学院筑波女子大学紀要第8集 2004年 pp.37-49.
  4. ^ 本郷健『戦争の哲学』(原書房、1978年)46-47頁
  5. ^ Field Manual 100-5, Operations, Department of the Army(1993)
  6. ^ 佐原真「日本・世界の戦争の起源」、仮名関恕・春成秀爾編『佐原真の仕事4 戦争の考古学』岩波書店 2005年
  7. ^ 服部 2017, p. 190.
  8. ^ 佐原真「ヒトはいつ戦い始めたか」、金関恕・春成秀爾編『戦争の考古学』佐原真の仕事4 岩波書店
  9. ^ 本当の戦争―すべての人が戦争について知っておくべき437の事 ISBN 978-4087734102
  10. ^ 佐原真「戦争について考える」、『考古学つれづれ草』小学館 2002年
  11. ^ 朝日新聞2016年3月31日2016年4月10日閲覧
  12. ^ 佐原真「日本・世界の戦争の起源」、金関恕・春成秀爾編『佐原真の仕事4 戦争の考古学』岩波書店
  13. ^ Max Boot, War Made New: Technology, Warfare, and the Course of History, 1500 to Today (New York: Penguin Group Inc., 2006), 4–5.
  14. ^ 石津朋之、ウィリアムソン・マーレー著 『21世紀のエア・パワー』 芙蓉書房出版 2006年10月25日第1刷発行 ISBN 482950384X
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  16. ^ ロシア、ウクライナ複数都市を攻撃 首都空港巡り戦闘(写真=AP)”. 日本経済新聞 (2022年2月24日). 2022年2月24日閲覧。
  17. ^ ロシアのウクライナ侵攻、ネット上に情報続々 宣戦布告はYouTubeに、火の手の様子はTwitterに、航空機の状況はFlightradar24に”. ITmedia NEWS. 2022年2月24日閲覧。
  18. ^ Gilpin, Robert (1988). “The Theory of Hegemonic War”. The Journal of Interdisciplinary History 18 (4): 591–613. doi:10.2307/204816. ISSN 0022-1953. https://www.jstor.org/stable/204816. 
  19. ^ Pandit, Puja (2023年4月4日). “Relationship Between Conflict and Prosocial Behaviours” (英語). Vision of Humanity. 2023年4月8日閲覧。
  20. ^ 飯田浩司著 『軍事OR入門』 三恵社 2008年9月10日改訂版発行 ISBN 9784883616428 195頁
  21. ^ Wallinsky, David: David Wallechinsky's Twentieth Century: History With the Boring Parts Left Out, Little Brown & Co., 1996, ISBN 0-316-92056-8, 978-0-316-92056-8 – cited by White
  22. ^ Brzezinski, Zbigniew: Out of Control: Global Turmoil on the Eve of the Twenty-first Century, Prentice Hall & IBD, 1994, – cited by White
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  24. ^ Mongol Conquests”. Users.erols.com. 2011年1月24日閲覧。
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  30. ^ Nuclear Power: The End of the War Against Japan”. BBC News. 2011年1月24日閲覧。
  31. ^ Timur Lenk (1369–1405)”. Users.erols.com. 2011年1月24日閲覧。
  32. ^ Matthew White's website (a compilation of scholarly death toll estimates)
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  34. ^ ジェイムズ・F・ダニガン、ウィリアム・マーテル著、北詰洋一訳『戦争回避のテクノロジー』(河出書房、1990年)37頁
  35. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)24-25頁
  36. ^ 栗栖弘臣『安全保障概論』(BBA社、1997)116-119頁
  37. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)25-27頁
  38. ^ 防衛大学校安全保障学研究会『最新版 安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)31-32頁
  39. ^ 栗栖弘臣『安全保障概論』(ブックビジネスアソシエイツ社、1997年) 131-133頁
  40. ^ 松村劭『名将たちの戦争学』(文春新書、2001年)18頁
  41. ^ 古賀斌『戦争革命の理論』(東洋書館、1952年)128-139頁
  42. ^ 服部実『防衛学概論』(原書房、1980年)33-34頁
  43. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)182頁の『軍事力によるエスカレーションの具体例』の図、及びジェイムズ・F・ダニガン、ウィリアム・マーテル著、北詰洋一訳『戦争回避のテクノロジー』(河出書房、1990年)32-36頁を参考とした。
  44. ^ 寺沢一、山本草二、広部和也編 編「Ⅲ国家の成立16国家結合」『標準 国際法』(初版)青林書院、1989年6月、112頁頁。ISBN 978-4417007517 
  45. ^ 佐分晴夫「従属国」『日本大百科全書』小学館http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%BE%93%E5%B1%9E%E5%9B%BD/2010年4月11日閲覧 [リンク切れ]
  46. ^ Yahoo Dictionary>JapanKnowledge>大辞泉>傀儡政権[リンク切れ]
  47. ^ Exite>三省堂>大辞林>傀儡政権[リンク切れ]
  48. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』(かや書房、2000年)及びジェイムズ・F・ダニガン著、岡芳輝訳『新・戦争のテクノロジー』(河出書房新社、1992年)などを参考にし、主要な闘争の局面について整理した。
  49. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』(かや書房、2000年)52-53頁






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