悪魔
★1a.悪魔と人間の契約。悪魔が人間の望みをかなえ、その代償に人間は魂を悪魔に与える。
『悪魔と悪魔のおばあさん』(グリム)KHM125 兵隊3人が、一打ちすると欲しいだけのお金が出てくる鞭を、悪魔からもらう。引き換えに、彼らは7年後に魂を与える契約をする。ただし、「謎に答えることができれば、魂はもらわなくともよい」と悪魔は言う。悪魔の祖母が、謎とその解答を悪魔から聞き出し、兵隊たちに教えてくれる。悪魔は去り、兵隊たちは鞭のおかげで、死ぬまで裕福に暮らした。
『フォースタス博士』(マーロー) フォースタス博士は悪魔メフィストフィリスを呼び出し、「24年間の享楽生活と引き換えに、魂を地獄の王者ルーシファーに与える」との契約を結ぶ。フォースタスは魔術を使い、天空を駆け世界を旅して、欲望のおもむくままに生きる。24年の期限が近づいた時、彼はトロイのヘレンを呼び出して、抱擁し接吻する。最後の日の夜中の12時になり、フォースタスの身体は八つ裂きにされ、魂は地獄へ堕ちる→〔魂〕12。
『魔弾の射手』(ウェーバー) 狩人カスパールは悪魔ザミエルと契約し、何でも望むものに命中する魔法の弾丸を得ている。しかしその代償として魂を悪魔に与える期限が翌朝に迫ったので、カスパールはあと3年の猶予を請い、「自分の代わりに狩人仲間マックスとその恋人アガーテの魂を渡そう」と悪魔に提案する。
*金貨が出てくる袋を、悪魔からもらう→〔交換〕2の『影をなくした男』(シャミッソー)。
★1b.地獄堕ちと引き換えに、名画を描かせてやろう、との誘い。
『ハリンゲイの誘惑』(H・G・ウェルズ) 画家ハリンゲイが肖像画を描いていると、画中に悪魔の顔が現れ、「お前に傑作を描かせてやろう」と言った。しかしハリンゲイは「それと引き換えに地獄へ行くのはごめんだ」と断り、悪魔の顔を絵具で塗りつぶしてしまった。ハリンゲイはこの話を「私」にして、「でっちあげじゃない。真実だ」と主張する。たしかにハリンゲイは、これまでに傑作を描いていない。おそらく今後も描かないだろう。
*命と引き換えに、名歌を詠む→〔歌〕1bの『今鏡』「打聞」第10「敷島の打聞」。
『手なし娘』(グリム)KHM31 悪魔が、貧乏な粉引き男に、「水車の後ろに立っているものをくれれば、お前を金持ちにしてやる」と言う。水車の後ろはりんごの木なので、男は悪魔の申し出を承諾する。ところがその時水車の後ろには、男の娘が立っていた〔*悪魔は娘を連れて行こうとするが、娘が身体をきれいに洗い清めたので、手を出せない。悪魔は、男に命じて娘の両手首を切り取らせ、あきらめて去る〕。
『ファウスト』(ゲーテ)「天上の序曲」~第1部「書斎」 悪魔メフィストフェレスは、初老の学者ファウストを悪の道に誘いこめるかどうか、天上の神と賭けをする。メフィストフェレスはファウストの書斎を訪れて、「現世のあらゆる快楽を提供しよう」と申し出る。ファウストはメフィストフェレスの挑戦を受けて立ち、「もしも私が享楽に心奪われて向上の志気を失ったら、ただちに魂をお前に与えよう」と、約束する。
『ヨブ記』 ヨブに与えた恵みをすべて奪い、不幸のどん底に陥れても、彼は神への信仰を持ち続けるかどうか、悪魔と神が賭けをする。悪魔は神の許可を得て、ヨブの財産を奪い、子供を殺し、ヨブを病気にして苦しめる。
『イワンのばか』(トルストイ) 軍人のセミョーン・ほてい腹のタラース・ばかな百姓イワンの3兄弟を、仲違いさせようと3人の小悪魔が試みる。しかし無欲で勤勉なイワンのために、みな失敗する。イワンは国王になり、賢い人は皆外国へ去って、ばかな国民だけが残る。老悪魔が、手を使わず頭を使って働くことをイワンに勧め、高い櫓の上から、国民たちに演説する。やがて老悪魔は空腹のために倒れ、頭で梯子を1段1段たたきながら、地面まで落ちる。
★4.悪魔をつかまえる。
『鏡』(星新一『ボッコちゃん』) 男が小さな悪魔をつかまえ、いじめてうさばらしをする。悪魔は絶対死なず、傷つけてももとどおり回復するので、男は妻とともに悪魔に針を突き刺し、ハサミで尻尾を少しずつ切り取って楽しむ。しかしある日悪魔は逃げ去り、うさばらしの対象を失った夫婦は、ののしり合い、喧嘩をして死ぬ。
★5.悪魔との問答。
『マタイによる福音書』第4章 荒野で40日40夜の断食をしたイエスに、悪魔が「あなたが神の子ならば、石をパンに変えてみよ。高所から飛び下りてみよ」と迫り、「私にひれ伏すなら、すべての国々と栄華を与えよう」と誘惑する。イエスは「人はパンのみで生きるのではない。主なる神を試みてはならない」と答え、「サタンよ退け」と命ずる〔*『ルカ』第4章に類話〕。
『失楽園』(ミルトン) サタンはもともとは大天使であったが、神に反逆して一味徒党もろともに地獄へ落とされた。神に復讐すべく、サタンはエデンの園に侵入し、神の被造物である人間を堕落させようと謀る。サタンは蛇の体内に入ってイヴを誘惑することに成功し、地獄へ帰還する。しかしたちまち神の罰が下り、サタンとその一味は蛇に変えられる。
『ヨハネの黙示録』第12章・第20章 世界の終末の時、大天使ミカエルとその使いたちが、悪魔である龍及びその使いたちと、天で戦う。悪魔たちは敗れ、天に居場所がなくなって、地上に投げ落とされ、深淵に封印される。千年の後、再び悪魔は人々を惑わせ、神に反逆させようとする。天からの火が彼らを焼き、悪魔は火と硫黄の池に投げこまれる。
*地獄で氷漬けになっている悪魔→〔氷〕7の『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第34歌。
『イワンのばか』(トルストイ) 3人の小悪魔が百姓イワンの仕事を邪魔するが、皆イワンにつかまえられる。小悪魔たちは逃がしてもらう代わりに、病気を治す木の根をイワンに与え、麦束から兵隊を作る方法や、樫の葉を揉んで金貨にする方法を教える。イワンが小悪魔たちを祝福して「神さまがお前をお守り下さるように」と言うと、小悪魔たちは地面の中に飛び込んで、小さな穴だけが残った。
『幼年期の終わり』(クラーク) 20世紀後半の地球を、宇宙から高度な知性体が訪れる。彼らの力で、人類は有史以来初めての完全な平和と繁栄を享受するようになる。しかし知性体は悪魔そっくりの姿をしていたので、50年の間、その姿を人間たちに見せなかった→〔記憶〕5。
★9.悪魔の子供。
『オーメン』(ドナー) 外交官ロバートの息子ダミアン(*→〔同日・同月〕1c)が5歳になった時から、さまざまな凶事が起こり始める。誕生パーティの最中に、子守の女が首吊り自殺する。「ダミアンは悪魔の子だ」と警告する神父、ロバートの妻キャサリン、ダミアンに不審を持つカメラマンが、次々に殺される。ロバートは教会の祭壇上で、ダミアンを刺し殺そうとする。しかし一瞬早く、警官がロバートを射殺する。ダミアンは生き残り、ロバートの友人であるアメリカ大統領に引き取られる。
『ローズマリーの赤ちゃん』(ポランスキー) 新婚夫婦のガイとローズマリーが、マンハッタンの古いアパートに入居する。隣室のカスタベッタ老夫妻が親切にしてくれるが、ローズマリーは彼らに違和感を持つ。ある夜ローズマリーは、悪魔に犯される夢を見る。その夜、悪魔がガイに乗り移り、ローズマリーに悪魔の子をはらませたのだった。やがてローズマリーは赤ん坊を産み、カスタベッタ夫妻をはじめ大勢の魔族たちが集まって、誕生祝いをした。
★10.「悪魔」と呼ばれる。
『誰』(太宰治) 落第学生の伊村が「私」にむかって、「なんじはサタン、悪の子なり」と言った。「私」は不安になり、悪魔についていろいろ本を読み、先輩に尋ねる。その結果、「私」は悪魔などという大それたものではなく、ただの馬鹿であることを悟って、胸の内がからりとした。ところが先日、「私」はまたもや「悪魔!」と呼ばれた→〔病気〕9a。
*悪魔が人間の子をさらう→〔取り替え子〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)82「取り替えっ子」。
*策略をもって悪魔との戦いに勝つ→〔傷あと〕7の『パンタグリュエル物語』第四之書(ラブレー)第47章・〔名当て〕1の『煙草と悪魔』(芥川龍之介)。
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