模造拳銃 罰則

模造拳銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/16 10:55 UTC 版)

罰則

銃刀法 第35条2の定めにより、模造拳銃の所持の禁止に違反した者には、20万以下の罰金が科せられる。

規制の経緯

行政指導に基づく標識

1962年の純国産モデルガン誕生以降、メーカーの技術向上により精巧な金属製モデルガンが多数出回るようになった。これに伴い、モデルガンを真正拳銃に見せかけて強盗などの犯罪に悪用する事案が相次いだ[注 9]ため、1969年には真正拳銃と識別するための標識[注 10]をモデルガンに付すことや、身元確認のために購入者には住民票の写しなどを呈示させる[注 11]などの行政指導[7]が行われた。しかし、その後も悪用される事案が続き、1970年には全日空アカシア便ハイジャック事件にも使用された。

モデルガンは弾丸発射機能の無い玩具であり、法に定める銃には該当しないが、真正拳銃と外観の類似性が高いことから人に恐怖心を誘起させる目的で悪用される事案が多く、危害予防の観点上、銃刀法による規制が必要であるとして、これらの所持を禁止する改正法案が作成された。改正銃刀法案は1971年2月16日参議院地方行政委員会において提案理由と内容の概略が説明され、以降衆参両院の地方行政委員会で6回にわたり審議された。

法案審議の過程で「木製玩具銃も規制対象に加えるべきでは」との意見も出されたが、実際に悪用されたものはほとんどが金属製モデルガンであり、子供向け玩具銃まで規制対象に加えるにはおよばないとして、規制対象は金属製に限定された[8]。また、日本国内で所持禁止にしながら外国への輸出は認めることを疑問視する意見もあったが、輸出先には真正拳銃が比較的容易に入手できる国が多く、玩具程度では問題にならないことや規模の小さな玩具銃業界保護の観点から、輸出まで禁止するのはメーカーが受ける打撃が大きいとして、輸出用は規制対象外とされた[9]

改正法公布から規制の施行まで6か月の猶予期間を設け、その間に玩具銃業界などを通じて所有者に法定措置(銃腔閉塞および表面着色)の実施または廃棄を周知させることとしたが、当時の国内には模造拳銃に該当するモデルガンが推定70万から80万丁存在し、押入れや戸棚の奥へ置き忘れたものなど、規制施行後に所有者が意図しない形で犯罪を構成するおそれや法定措置の認定基準が現場警察官の裁量に左右される可能性があることなど、規制の運用に対する懸念が示された。これについては犯意の無い所持までただちに処罰対象とするような運用の仕方は行わず、規制施行後も模造拳銃を無くすよう努力を続けるとされた[10]

改正銃刀法は1971年3月26日衆議院本会議可決成立し、同年4月20日公布、模造拳銃規制については6か月の猶予期間の後、10月20日から施行となった。また、模造拳銃の具体的な要件を定めた府令は1971年4月22日発行の官報 第13300号で公布された。法案の提出から公布まで2か月あまりであったが、この間に玩具銃業界やモデルガン愛好家などから規制に反対する目立った動きは見られなかった[注 12]

規制後の状況

規制の影響により、金属製モデルガンの出荷数は1970年の44万6000丁から1971年には34万4000丁まで減少した[11]1972年には模造拳銃の規制対象にならないプラスチック製モデルガンが発売されたが、規制による金属製モデルガンの出荷数の落ち込みは一時的なものであり、1973年以降の出荷数は規制前を超える伸びを示した[注 13]。この間、金属製モデルガンの違法改造事犯が増加したことにより、1977年には再び法規制(模擬銃器規制)を受けることになった。

近年、古い金属製モデルガンがネットオークションに出品されることがあるが、拳銃型の金属製モデルガンは模造拳銃規制と模擬銃器規制の両方が適用されるため、注意を要する。模造拳銃に該当しないよう法定措置(銃腔閉塞および表面着色)が施されたものであっても、模擬銃器に該当するものは販売目的の所持が禁止されているため、オークションへの出品は取締りの対象になり得る(模擬銃器を参照)。また、外国から玩具銃を輸入する場合、それが模造拳銃に該当するものであれば法定措置を施さない限り通関できない[12]

玩具銃の人気がエアソフトガンに移行してからは、エアソフトガン用の金属外装が販売されるようになったが、拳銃型エアソフトガンの外装をすべて金属製に換装した場合、模造拳銃の該当要件を備えることになるため、法定措置(銃腔閉塞および表面着色)を施す必要がある。2003年1月には模造拳銃(法定措置を施していない金属製の拳銃型エアソフトガン)の所持容疑で玩具銃販売店が摘発され、これを踏まえて関連法規の周知徹底を推進するよう指導する通知[注 14]が発出されている。


注釈

  1. ^ 第22条の2の新設時から「模造けん銃」と表記されていたが、2010年平成22年)11月の内閣告示第2号で「拳」が常用漢字に追加されたため、2021年6月の銃刀法改正時に、見出しおよび第1項中の表記が「模造拳銃」に改められている。銃刀法施行規則 第102条の見出しおよび第2項、第3項中の「模造けん銃」表記は、2015年1月の施行規則改正時に「模造拳銃」に改められている。
  2. ^ 通称「46年規制」または「第一次モデルガン規制」。
  3. ^ 個人で行う場合、銃腔相当部分に溶かしたを流し込むなどして完全に閉塞し、グリップ相当部分を除く表面全体を市販のスプレー塗料などで白色または黄色に着色する。
  4. ^ 拳銃型エアソフトガン用の金属外装について、オートマチックの場合は「スライドのみ」または「フレームのみ」、リボルバーの場合は「シリンダーのみ」または「フレームのみ」であれば金属製に換装しても模造拳銃の該当要件(金属で作られている)は満たさないため、表面着色および銃腔閉塞は必要ない[3]
  5. ^ 形態から連想される真正拳銃の型式やメーカーが実在する必要はない[4]
  6. ^ 当初の条名は「第17条の2」であったが、施行規則の改正にともない2009年11月に「第103条」へ、2015年1月に「第102条」へ改められた。
  7. ^ ステンレス製やシルバーメッキの真正拳銃が存在するため、真正拳銃との識別を容易にするという規制の趣旨に沿わない。
  8. ^ 規制施行後に一時期販売されていたクロメート処理(通称:虹色メッキ)が施されたものについても同様である。
  9. ^ 玩具拳銃(金属製モデルガン)を使用した犯罪の検挙件数は1967年 61件(強盗20件、恐喝16件他)、1968年 97件、1969年 60件、1970年 73件[6]
  10. ^ 標識の大きさは直径が、小 7.5mm、中 9mm、大 10mm。これを銃身に相当する部分の先か、機関部体に相当する部分前方の両側面に付け、その部分だけ白く塗る。通称「王冠マーク」。模造拳銃規制の施行に伴い、廃止された。
  11. ^ 一部のメーカーは独自ルールとして1965年から住民票登録制販売を実施していた。
  12. ^ 規制反対運動は起きなかったが、メーカー主催の「黒別式」と称する(告別式の捩り)愛好家イベントが規制施行の4日前に開催された。
  13. ^ 規制の影響で減少した金属製モデルガンの出荷数は1973年に49万5000丁まで回復し、1977年には69万5000丁に達している[11]
  14. ^ 模造拳銃に関する規制については、モデルガン、ソフトエアーガンの別なく、金属で作られ、かつ拳銃に著しく類似するものすべてに適用される[13]

出典

  1. ^ 中島・69頁
  2. ^ 大塚ら・508頁
  3. ^ 平成15年3月28日 東西玩具銃部品製造協同組合発 組合員・販売店宛通知 「警察庁からの指導要請について ・ モデルガン、ソフトエアガン業界に対する指導について業界への取り組みと指針
  4. ^ a b 大塚ら・509頁
  5. ^ 中島・70頁
  6. ^ 第65回国会 衆議院地方行政委員会議録 第18号、12頁
  7. ^ 昭和44年9月30日 警察庁保安課長発 「高級モデルガン製造(販売)業者に対する行政指導について(通達)」
  8. ^ 第65回国会 参議院地方行政委員会会議録 第9号、3頁
  9. ^ 第65回国会 衆議院地方行政委員会議録 第19号、2頁
  10. ^ 第65回国会 参議院地方行政委員会会議録 第10号、5頁
  11. ^ a b 中島・66頁
  12. ^ 昭和49年3月14日 蔵関第294号(改正 平成6年3月31日 蔵関第331号) 「本邦に到着した模造けん銃の取扱いについて」
  13. ^ 平成15年3月17日 日本遊戯銃協同組合発 団体構成員・関係卸・小売業者宛通知 「経済産業省からのお知らせ ・ モデルガン、ソフトエアーガン業界に対する指導について(依頼)」


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