志摩地方 文化・風習

志摩地方

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 23:28 UTC 版)

文化・風習

志摩地方は陸路の交通の便が悪かったため、独自の文化風習をもつ。こうした独特の文化を展示する施設として志摩民俗資料館が存在したが、1998年に閉館し、2017年現在は志摩市歴史民俗資料館で見ることができる。また鳥羽市立海の博物館にも水産業や海洋に関する民俗資料が多く収蔵されている。

方言

志摩弁を参照。志摩地方共通の方言から特定地区のみで通用するものまで様々である。

食文化

伝統的な郷土料理には手こね寿司がある。近年はご当地グルメとしてとばーがーが登場した。生きた魚介を直火で焼く残酷焼は志摩市浜島町浜島の宝来荘が発祥の料理である。洋菓子のシェル・レーヌは鳥羽市の企業ブランカが生産する。

志摩市磯部町恵利原には恵利原早餅つきという、高速で餅をつく伝統芸能がある[18]。恵利原早餅つきと起源を同じくするさわ餅は磯部町の発祥とされる[19]

風習

15歳となった男子が、寝屋親(ねやおや)の元で寝泊まりし、生涯親族同様の深い関係を築く制度[20]漁師育成と婚姻統制の性格を有し[21]、地区の人口減少を食い止める役割も果たしている。元は西日本の漁村によく見られた制度であるが、現在残っている地域はごくわずかとなっている[20]

隠居制

志摩地方では、長男の結婚に伴い親らが主屋を明け渡し、他所に移る「隠居制」が広く存在した[9]。細部は江戸時代の村ごとに差異があり、風習が希薄化・消滅した地域もあれば、維持されている地域もある[22]。土地や労働力の問題から、隠居屋という固定した屋敷は、農村部に見られる[9]

  • 志摩市大王町船越:子供夫婦と2、3年同居した後に隠居屋敷へと住み替えて、家の切り盛りを任せる。
  • 志摩市阿児町国府:同居する長子が結婚して初孫誕生の一週間後、他の子どもを連れて隠居屋へと住み替えて家の切り盛りは長子に一任する。

信仰

他の地方では見られない民俗神を掲げる。

  • オタイサン
  • シャグジン
  • シュウジン(屋敷神の一つ、志摩市大王町名田)
  • テンパクサン
  • ミタラサン

住居

伝統的な志摩地方の住居防風設備を備えた小さな家屋を特徴とする。間取りは伊勢平野が「田の字型」であるのに対して、志摩地方は「六つ間」が多い[23]。沿岸部の伝統的な漁村では、家屋の周囲に石垣をめぐらせ、屋根瓦漆喰(しっくい)で固め、集村を成す[24]

典型的な例として志摩市阿児町国府の槙垣(まきがき)がある。その名が示す通り、高さ3 - 5mの槙の木でできた垣根で、北西季節風暴風雨砂嵐、隣家の類焼防止に効果がある。天正年間に設けられたと言われ、国府独自の隠居制度の発達を促進した[25]1960年代の民俗学的な調査によってその特異性が注目され[26]旅行ガイドブックに掲載されるようになった[25]

図書館

志摩地方は三重県における図書館先進地域であり、1908年(明治41年)8月24日には義務教育が4年から6年へ延長されたことを記念して、志摩郡鵜方村に三重県初の村立図書館である、村立鵜方図書館が設立された[27]。三重県で村立鵜方図書館よりも早く開館した図書館は5館しかなく、それらはいずれも私立図書館であった[28]。続いて大正時代には7館が開館し、昭和戦前期には14館が相次いで開館した[29]。それらは以下の通りである[29]が、太平洋戦争の戦局が厳しさを増すにつれて有名無実の存在となり[30]、そのまま閉館したものも多かった[31]

館名 公私別 開館日 所在地(当時) 現住所 備考
神原第一図書館 私立 1914年(大正3年)10月31日 度会郡神原村神津佐 南伊勢町神津佐 啓発小学校内
神原第二図書館 私立 1914年(大正3年)10月31日 度会郡神原村山原 志摩市磯部町山原 成基小学校
御大典記念五ヶ所村通俗図書館 私立 1915年(大正4年)11月10日 度会郡五ヶ所村五ヶ所浦 南伊勢町五ヶ所浦 五ヶ所小学校内
島津村簡易図書館 私立 1918年(大正7年)8月10日 度会郡島津村古和浦 南伊勢町古和浦 島津小学校内
宿田曽村簡易図書館 公立 1923年(大正12年)7月 度会郡宿田曽村宿浦 南伊勢町宿浦 宿田曽小学校内
的矢村立的矢図書館 公立 1924年(大正13年)7月28日 志摩郡的矢村的矢 志摩市磯部町的矢 的矢小学校
皇太子殿下御成婚記念磯部村立磯部図書館 公立 1924年(大正13年)12月12日 志摩郡磯部村恵利原 志摩市磯部町恵利原 磯部小学校
鳥羽町立鳥羽図書館 公立 1928年(昭和3年)3月31日 志摩郡鳥羽町鳥羽 鳥羽市鳥羽三丁目 鳥羽小学校
越賀村立図書館 公立 1928年(昭和3年)11月30日 志摩郡越賀村 志摩市志摩町越賀
長岡村立図書館 公立 1928年(昭和3年)12月20日 志摩郡長岡村相差 鳥羽市相差町
甲賀村立図書館 公立 1929年(昭和4年)5月1日 志摩郡甲賀村 志摩市阿児町甲賀 甲賀小学校内
鵜倉簡易図書館 公立 1931年(昭和6年)3月18日 度会郡鵜倉村 南伊勢町 鵜倉小学校内
神島青年図書館 私立 1931年(昭和6年)7月1日 志摩郡神島村 鳥羽市神島町 神島小学校内
答志学校同窓会図書館 私立 1931年(昭和6年)8月 志摩郡答志村 鳥羽市答志町
波切町立図書館 公立 1932年(昭和7年)3月24日 志摩郡波切町 志摩市大王町波切 波切小学校内
菅島青年図書館 私立 1933年(昭和8年)2月28日 志摩郡菅島村 鳥羽市菅島町 菅島小学校
立神村立図書館 公立 1933年(昭和8年)3月31日 志摩郡立神村 志摩市阿児町立神 立神小学校内
志島村青年図書館 私立 1933年(昭和8年)4月2日 志摩郡志島村 志摩市阿児町志島 志島小学校内
片田村立図書館 公立 1933年(昭和8年)7月20日 志摩郡片田村 志摩市志摩町片田 片田小学校内
穂原村立簡易図書館 公立 1933年(昭和8年)12月1日 度会郡穂原村伊勢路 南伊勢町伊勢路 穂原小学校内
和具村立図書館 公立 1933年(昭和8年)12月12日 志摩郡和具村 志摩市志摩町和具

終戦後の混乱を乗り切り、活動を再開した志摩地方の図書館は、鵜方村立図書館(2,100冊)、的矢村立図書館(300冊)、磯部村立図書館(595冊)、鳥羽町立図書館(700冊)、越賀村立図書館(300冊)、甲賀村立図書館(393冊)、波切町立図書館(130冊)の7館であるが、1950年(昭和25年)の図書館法制定により、三重県の図書館は8館まで減少し、志摩地方から一旦図書館が消滅した[32]。鳥羽町では1951年(昭和26年)4月に鳥羽町立図書館(現鳥羽市立図書館)が復活し、磯部町でも1960年(昭和35年)4月1日に磯部町立図書館(現志摩市立磯部図書室)が開設された[33]。その後、1991年(平成3年)3月31日に阿児町立図書館(現志摩市立図書館)、1997年(平成9年)7月1日に志摩町立図書館(現志摩市立志摩図書室)が開館した。

南伊勢町域では戦後、図書館が復活することはなく、2017年現在、旧南勢町域に「みなみいせ図書室」、旧南島町域に「なんとうふれあい図書室」が設置されている。

映画などのロケ地

志摩地方は生活するには不便であるものの、その立体的な地形が映像表現において好まれ、映画やテレビドラマのロケ地に選ばれることがある。


  1. ^ 『日本のエアポート04 東海3空港』2011年11月、イカロス出版、pp.146-147
  2. ^ 暖かさのPRとして「賢島では1月に菜の花が咲く」という宣伝が行われる。
  3. ^ 海風の影響もある。
  4. ^ 気象庁|過去の気象データ検索”. 2014年12月26日閲覧。
  5. ^ 気象庁|過去の気象データ検索”. 2014年12月26日閲覧。
  6. ^ 菊地(1970):244ページ
  7. ^ a b 南勢町誌編さん委員会 編 1985, p. 373.
  8. ^ 千葉 1964, pp. 451–452.
  9. ^ a b c 千葉 1964, p. 454.
  10. ^ 中野 1971, p. 90.
  11. ^ それでも鳥羽藩は志摩の領国内で年貢米が賄えず、伊勢国や三河国の領地からも取り立てた。
  12. ^ 地元では「五ヶ所みかん」(マルゴみかん)や「磯部みかん」など、産地を冠して呼ばれる。
  13. ^ 織田・林屋 編 1974, p. 218.
  14. ^ a b 織田・林屋 編 1974, p. 224.
  15. ^ 織田・林屋 編 1974, p. 225.
  16. ^ 三重県統計調査チーム『平成12年版 三重県勢要覧』より引用
  17. ^ 使用したデータが平成の大合併以前のため記載
  18. ^ 伊勢志摩きらり千選実行グループ. “恵利原早餅搗”. 財団法人伊勢志摩国立公園協会. 2014年1月12日閲覧。
  19. ^ さわもち”. 伊勢志摩きらり千選. 伊勢志摩きらり千選実行グループ. 2018年3月5日閲覧。
  20. ^ a b みんなで、活かそう!守ろう!三重の文化財・答志寝屋子制度
  21. ^ 答志島の寝屋子制度 2.答志地区の寝屋子制度の変遷 内山淳子(日本生涯教育学会『生涯学習研究e辞典』内)
  22. ^ 千葉 1964, pp. 453–454.
  23. ^ 織田・林屋 編 1974, p. 229.
  24. ^ 織田・林屋 編 1974, pp. 229–230.
  25. ^ a b るるぶ社関西編集部 2000, p. 70.
  26. ^ 千葉 1964, p. 449.
  27. ^ 三重県総合教育センター 編 1980, pp. 1185–1186.
  28. ^ 三重県総合教育センター 編 1980, p. 1177.
  29. ^ a b 三重県総合教育センター 編 1981, pp. 483–484, 1012–1013.
  30. ^ 三重県総合教育センター 編 1981, p. 1011.
  31. ^ 三重県総合教育センター 編 1982, p. 645.
  32. ^ 三重県総合教育センター 編 1982, pp. 646, 651–652.
  33. ^ 三重県総合教育センター 編 1982, p. 654, 1033.
  34. ^ 志摩市の伊勢志摩カントリークラブロイヤルコース・近鉄賢島カンツリークラブ・近鉄浜島カンツリークラブ・合歓の郷ゴルフクラブを指す。
  35. ^ 中でも国府白浜御座白浜海水浴場が著名である。
  36. ^ 鳥羽水族館(鳥羽市)と伊勢夫婦岩ふれあい水族館シーパラダイス(伊勢市)。志摩マリンランド(志摩市)は2021年3月に休館。





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