小穂 イネ科の場合

小穂

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/20 15:36 UTC 版)

イネ科の場合

イネ科の花の概念図
左:小穂の模式図(二小花を含む)
A:包穎(上が第一・下が第二)
B:護穎
C:護穎の芒
1:内穎
2:りん皮
3:雄蘂
4:子房
5:柱頭
右:花式図

イネ科の花では花被片は二個の鱗皮 lodicule となり、ほとんど見て取れない大きさに退化する。従って小穂の構成要素は苞葉由来の鱗片群が中心となっている[16]。これらの配置や構造は分類上重要である。ただ、その名については複数の説がある。ここでは長田(1993)に従っておく[17]。それ以外の用例については長田に基づき、脚注に出しておく。

イネ科の小穂は基本的には主軸に対して花が二列の互生に配置した穂状花序に由来する。小花の基部には苞葉由来の鱗片が二枚あり、小花はこれらに包まれる形になる。小穂は基本的には複数の花を含むので、これらの鱗片は含まれる小花の数の2倍あることになる。この鱗片の外側のものを護穎(ごえい) lemma [18]、内側のものを内穎(ないえい) palea [19]という。護穎は軸に対して小花の外側に、内穎は内側に位置する。さらに小穂の最下には小花を含まない鱗片が二枚あり、これは花序の基部にあった苞葉に由来する。これを包穎(ほうえい) glume という。そのうち外側を第一包穎[20]、内側を第二包穎[21]という。なお、キビ類やモロコシ類には小花が二つだけになった類似した型を持つが、それらの穎には別の呼称を当てており、これについてはこの型についての項で記述する。

穎が中央などで二つ折りになっている場合、その折れ目の背中側を竜骨 keel という。竜骨は包穎や護穎では中央に一本あるが、内穎では二本ある場合が多い[22]。これは、護穎と向き合う位置にあった二つの苞葉が癒合した結果と見られる[23]。また包穎や護穎の中脈の先端が糸状や針状に突出する例がよくあり、これを awn という。なお、エノコログサなどに見られる針状のものは芒ではなく小穂の柄から生じるもので、これは刺毛という。花序の枝から変化したものと考えられる。

小穂の中で、小花の間をつなぐ軸を小軸 rachilla という。ノガリヤス属などでは小穂には第一小花のみを含むが、第二小花に続く小軸だけが残存し、これを小軸突起 rachilla extension という。複数の小花を小穂に含む場合、小軸に小花毎に関節があって成熟時には折れて散布される例が多い。だが、小花だけで落ちるものや包穎を含めた小穂全体が折れ落ちる例など様々である。

小穂の型について

イネ科の小穂の変形の過程を考えて幾つかの型に分けることが行われる[24]

ウシノケグサ型
グラジオラスのような花序を小穂の原型と見れば、もっとも基本的な型として、一組の包穎があり、そこから上に護穎と内穎に包まれた小花が並ぶ形となる。小穂全体が左右から扁平で、それぞれの穎は左右から折りたたまれたようになるものが多い。小花の数は少ないものでは3個から、十数個に達する例もあるが、下のものが大きく、先端方向のものが小さく、時に先端から退化する。ウシノケグサ属ドクムギ属、カモジグサ属など多くのものがあり、ササタケ類もこれにあたる[25]
なおこの型では栄養状態で小花の数が変わる例もある。
ヌカボ型
ウシノケグサ型から、最下の小花だけが残り、それより先端のものが全て退化したと考えられる型。上方からの退化傾向が最下の小花まで達した形。ヌカボ属の他、アワガエリ属、ネズミノオ属、ヒエガエリ属など。また、カラスムギ属やコメススキ属等は小花二つを包穎の中に含み、これらはウシノケグサ型からヌカボ型への移行型と見られる。
ここまでのものでは、小花は先端側から退化傾向を示す。これに対して以降のものでは小花は基部のものから退化の傾向を見せる。
コウボウ型
小花は3個あり、先端の1小花が両性花で、下2花は雄性または無性花となったもの。ただしこれ全体が包穎に包まれ、細部の構造を見るのは難しい。コウボウ属の他、ハルガヤ属などがこれである。
トダシバ型
小花は二つで、先端側のもの(第二小花)が両性花、基部側(第一小花)が雄性。さらにトダシバでは第二小花にだけ束毛があるなど、形態的にも異なる。
エノコログサ型
小花は二個で、それらが一対の包穎に包まれる。ただし先端側の第二小花が完全なのに対して基部側の第一小花は大きく退化し、雄蘂や雌蘂はもちろん、内穎もほとんど消失し、護穎だけが残る。つまり小花は一つしかなく、二枚の包穎、二枚の護穎と一枚の包穎にそれが包まれる、という構造となって、単一の花だけを含むように見える。包穎は小さめ、護穎や第二小花の内穎は革質でよく発達し、第一小花の内穎は完全に消失する例も膜質の状態で残る例もある。
この型の小花では穎の呼称を以下のように使うことも多い。
一般の呼称:第一包穎・第二包穎・第一小花の護穎・第二小花の護穎・第二小花の内穎
この類の場合:第1穎・第2穎・第3穎・第4穎・内穎
エノコログサ属の他にチカラシバ属、ヌメリグサ属、チジミザサ属、スズメノヒエ属メヒシバ属などキビ連の多くの属がこれである。
モロコシ型
エノコログサ型に近くて、第一小花の退化がさらに進んだもの。第一小花は膜質の護穎のみが残る。また第二小花の護穎と内穎も膜質となり、逆に包穎が質が厚く発達する傾向がある。ススキ属、カリマタガヤ属、モロコシ属、アシボソ属などがこれである。
なお、この型の場合もエノコログサ型と同じ穎の呼称を使うことがある。
サヤヌカグサ型
やはり単一の小花のみを持つ。だがこれは元々は三小花からなる構造であり、たとえばイネでは両性花は第三小花に当たり、いわゆる籾はこの小花の護穎と内穎である。そしてその基部に一対の鱗片があるのは、包穎に見えるがそうではなく、きわめて退化した第一、第二小花である。真の包穎は肉眼で見えない大きさで存在する。ただしサヤヌカグサでは包穎、第一,第二小花全て完全に退化する。サヤヌカグサ属の他に、ツクシガヤ属などもこのような小穂をつける。
クサヨシ型
同じく単一の小花を含むもので、両性花は第二小花である点もサヤヌカグサ型と同じである。ただし第一、第二小花は小さな鱗片状の護穎のみとなり、それがよく発達した包穎の中に隠れる。種によっては退化した護穎が消失する例もある。クサヨシ属

実際にはこれらからさらに変形した型が多くある。たとえばササクサは数個の小花を含む構造だが、最下の一つだけが完全であり、それより上の小花は護穎だけを残した形に退化している。これはウシノケグサ型からの変形と考えられる。


  1. ^ ブリッグス(1997),p.40-43
  2. ^ この章は長田(1984)p,187-197
  3. ^ 長田(1993),p.33および星野他(2012),p.19
  4. ^ 星野他(2012),p.17
  5. ^ 勝山(2005),p.10
  6. ^ 木場他(2011)p.7
  7. ^ 佐竹他(1982)p.85
  8. ^ 佐竹他(1982)p.145
  9. ^ 長田(1993),p.28-29
  10. ^ 佐竹他(1982),p.85
  11. ^ 木場他(2011),p.4
  12. ^ この章は主として長田(1984)p,197-201
  13. ^ 谷城(2007),p.30
  14. ^ 初島(1975)p.746
  15. ^ 小山(1997),p.233
  16. ^ 以下、主として長田(1993),p.20-23
  17. ^ この用語は大井次三郎の日本植物誌に基づき、佐竹他(1982)や木場他(2011)もこれに従っている。
  18. ^ 牧野はこれを外(字が出ません)、文部省では外花穎
  19. ^ 牧野はこれを外(字が出ません)、文部省では内花穎
  20. ^ 牧野はこれを外穎、文部省では第一穎
  21. ^ 牧野はこれを内穎、文部省では第二穎
  22. ^ 木場他(2011)p.5
  23. ^ 長田(1984),p.190
  24. ^ 以下、長田(1993)p.23-26から大井の説
  25. ^ 小山(1997),p.258


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