ヤツメウナギ
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人間との関係
食文化
現代の日本で全国的に流通する食材ではないが、洋の東西を問わず様々な文化圏に普通に登場する。また滋養強壮や夜盲症(鳥目)の薬としても古くから用いられてきた。実際に脂肪に富み、ビタミンAの一種であるレチノールを8200μg/100g以上含むなど、栄養価は高い[14]。
日本
日本国内の場合、食用とされるのはほとんど日本産カワヤツメである。約50-60cm。背側は黒青色で腹側は淡色。春に川を遡上し、5-6月に産卵する。日本海側では島根県以北、太平洋側では茨城県以北に分布している。北海道、新潟県、山形県、秋田県などの日本海に注ぐ河川で多く獲れる。産地である北海道江別市では、2001年までは毎年ヤツメウナギ祭りが開催されていた[15]。
主に初春の寒い時に川で獲れる。東北、北海道などの東日本・日本海側が本場。肉が固くてモツのような弾力と歯応えがあり、牛脂と魚油とヤツメの匂いが混じった独特の風味を持つ。最近は漁獲量が減り、大きさも一般に小さくなって来ている。現在でも産地以外では鮮魚としてカワヤツメを得ることはほとんど不可能で、乾物か冷凍品ということになる。
産地のひとつである秋田県では、カワヤツメをぶつ切りにして醤油と出汁の濃い目のツユですき焼き風に煮込むかやきが冬の味覚となっている。関東では蒲焼きを売り物にする料理店もある。また、縁日の屋台でもカワヤツメの蒲焼きが売られることがある。肝は特に栄養分が多いため、これを軟骨と共にミンチにして「肝焼き」として供することもある。ただし、クセが強いので好き嫌いは普通の蒲焼以上にはっきりとする。乾物は丸ごと白焼きにしたものを油が漏れ出さないように切り分け、佃煮風に甘辛く煮て食べる。2012年現在での都心では、台東区浅草で八ッ目鰻専門店、巣鴨でヤツメウナギを扱う飲食店が営業を続けている。このほかに季節限定でヤツメウナギ料理を出すウナギ料理店、珍味やスタミナ料理として出す居酒屋なども存在する。
近年は環境の変化から国産のカワヤツメが入手困難になりつつある。このため、2015年からアメリカ合衆国アラスカ州産のヤツメウナギも輸入されている[16]。
一般的にはその風味や食感が馴染まれず漁獲地域も限られる事から、薬品やサプリメントの原料となることが多い。乾燥品を粉砕して飲用したり、身や肝から魚油を抽出してカプセルやドロップの形にして服用する。現在でも伝統薬・八ッ目鰻のキモの油などに代表される医薬品が夜盲症・疲れ目の適応として販売されている。日本では食や薬品の原料となるのはカワヤツメであるが、終戦直後の頃にはスナヤツメも魚油の原料として用いられたこともある。[要出典]
ヨーロッパ
ヨーロッパではローマ帝国の頃から食されており、時代によって高級食材となったり、貧しい人々の食料となったりした。
食感や風味が肉類や内臓類に近いこともあって、現在でもフランス、ポルトガル、スペインなどではパイやシチュー、リゾットの材料として盛んに用いられている。フランスにはヤツメウナギの赤ワイン煮込みである「ヤツメウナギのボルドー風 (fr:Lamproie à la bordelaise)」と呼ばれる料理がある。これはボルドー地方の名物料理であり、現地では缶詰にされたものも売られている。カワヤツメばかりでなく、ヨーロッパスナヤツメやウミヤツメも用いられる。ボルドー風煮込みやリゾットでは、ジビエにおける「血のソース」のように、風味づけに血液を活用することも多い。日本と同様に、旬は冬 - 初春とされており、季節限定の味覚として供するレストランやビストロも多い。ロシアでもザクースカなどとして供される。ドイツでは食材としては海に近い北部のほか、淡水種が獲れる内陸部でも利用されていた。
ビタミンAを大量に含むことから、度を超えて摂取すると健康を害しうる。イギリスには、イングランド王ヘンリー1世がヤツメウナギ料理の食べ過ぎで死亡したといわれる伝説[17]がある。
ポルトガルには「ヤツメウナギの卵」(lampreia de ovos)というケーキが存在しており、クリスマスに家庭で作られる。これは、ヤツメウナギが貴重品であった時代(現在も高級食材であるが)に、庶民がヤツメウナギを模した菓子を作った事に起源があるといわれる。
文化史
東洋
- 現代の日本語での漢字表記は「八目鰻」「八つ目鰻」などだが、江戸時代1712年に成立した和漢三才図会や本草綱目では「鱧」と表記されている。この字は現在の日本では、ハモに充てられている。現在の中国では「鱧」は主にライギョを指す。また1666年の訓蒙図彙では「鱓」(今日の日本では一般にウツボを指すが本来はタウナギを指した字)や「鱔魚」(現代ではタウナギ)の字を充てられている。
- 和漢三才図会によれば、「頭に七つの斑點があり、北斗の象をなす」「夜は首を仰け北に向かって禮拝する」とある。ただし、このような生態が近年観察された例は知られておらず、真偽はさだかでない。
- 産地である北海道江別市では、市のマンホールなどにヤツメウナギの意匠が見られる。
西洋
- プリニウスの『博物誌』をはじめ、いくつかのヨーロッパの文献には「ローマ帝国時代にはヤツメウナギの養殖用の池が作られており、主人が罰する奴隷を生きたまま養殖池に投げ入れてヤツメウナギのエサにした」といった内容の記述が見られる。ただし、その真偽は定かでない。当時からヤツメウナギはたびたび他の動物と混同されており、この逸話はウツボがモティーフではないかとも目される[18]。実際に、『博物誌』でのヤツメウナギの項の大部分は、アリストテレス『動物誌』のウツボの項によく対応するという[18]。大西洋産の大型種ウミヤツメは、その体型・模様ともにウツボに似る。またヨハン・ヤーコプ・ショイヒツァーによる『神聖自然学 (Physica Sacra)』にもヤツメウナギはウナギ・ウツボなどと並んで描かれており、これらと混同される例は時代・地域を問わず非常に多い。
- フィンランドのサタクンタ県では県の魚に指定されており、県下にある自治区の紋章にもヤツメウナギが見られる。
- スペインのサモラ県にあるパハレス・デ・ラ・ランプレアナ (Pajares de la Lampreana) やマンガネセス・デ・ラ・ランプレアナ (Manganeses de la Lampreana) といった地名の「Lampreana」はヤツメウナギ (lamprea) に由来しており、紋章にもヤツメウナギが描かれている。
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『和漢三才図会』50巻408頁 河湖無鱗魚 やつめうなぎ
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『訓蒙図彙』より。右下の図がヤツメウナギ。
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ヤツメウナギ漁を描いた江別市のマンホール(彩色版)
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ヤツメウナギ漁を描いた江別市のマンホール(通常版)
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健康全書 (Tacuinum Sanitatis) より、ヤツメウナギ漁。
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焼きヤツメ(ロシア。一般的な料理なのかどうかは不明。)
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スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラの市場に並ぶヤツメウナギ。
生態系への影響
- 詳細は「ウミヤツメ」を参照
北米大陸の五大湖では、本来は外洋とつながる河川はセントローレンス川1本のみだった。19世紀初頭から始まったいくつかの運河建設により、ハドソン川など複数の他河川とつながった。
その結果、大型種のウミヤツメが大量に流入。各湖の魚類に寄生したため、漁業資源として重要なサケ科をはじめ多くの魚類が激減する深刻な被害をもたらした。そのため、1991年から年間約26000匹のオスを捕らえ、不妊化処理を行い川に戻すという事業が行なわれている[19]。
- ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “魚類とは”. コトバンク. 2022年1月31日閲覧。 “硬骨魚類(狭義の魚類で魚の大部分を占める)”
- ^ DNAの大事件! 生命進化の謎
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- ^ 五訂増補日本食品標準成分表
- ^ ヤツメウナギ - 江別市ナビ
- ^ ユーコン川の生態系と環境を考えてみた 2017年10月31日閲覧
- ^ 『アングル人の歴史(Historia Anglorum)』,12世紀,ヘンリー・オブ・ハンティングドン著
- ^ a b 荒俣宏『世界大博物図鑑 2 魚類』平凡社 ISBN 4-582-51822-2 p179 "ウツボ"の項参照。
- ^ Research to Support Sterile-male-release and Genetic Alteration Techniques for Sea Lamprey Control
- ^ Nelson JS, Fishes of the world (4th edn), 2006
- ^ Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2011). "Lethenteron japonicum" in FishBase. 2 2011 version. "synonim"のページを参照
ヤツメウナギと同じ種類の言葉
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