ガソリン ガソリンの概要

ガソリン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 17:49 UTC 版)

ガソリン
金属製ガソリン携行缶20 L
自動車用レギュラーガソリン

ガソリンは代表的な液体燃料である。アメリカ合衆国では「ガス」と呼ばれることが多く、日本自動車の燃料切れを意味するガス欠はこれに由来する。また常温揮発性が高いため、日本の法令などでは揮発油(きはつゆ)と呼ばれる場合がある。

概要

ガソリンは常温において無色透明の液体である。ただし、安全の観点から自動車用ガソリンなどは着色されている。揮発性が高く、特有の臭気を放つ[1]。主成分は炭素水素が結びついた、炭素数4 - 10の炭化水素の混合物で、密度は一般に783 kg/m3である。硫黄窒化物などの不純物が含まれているが、製品にする際は脱硫などの工程により大部分が取り除かれる。

ガソリン(一般的な自動車ガソリン)の引火点は-40℃以下で、常温でも火を近づければ燃焼する[1]。沸点も40~220℃と低い[1]。液比重は1よりも小さいため水に浮き、水に溶けない(非水溶性)[1]。揮発したガソリンは空気より3 - 4倍重いため、床面または地面など低いところに沿って広がる。比重が1以下のため火災時に水を注入すると、飛び散ったり下に入り込んだ水で炎が拡散することから、B火災(油による火災)に対応した消火器が必要となる[2]

また前述のように室温であっても容易に揮発し、条件によっては爆発的に引火するため、静電気程度のわずかな火種であっても爆発してしまい、実際に事故も発生している(例:名古屋立てこもり放火事件)。また大量のガソリンによる火災は爆燃現象が発生し消火や避難が間に合わないこともある[3]

ガソリンは高度な石油化学工業製品であり、ガソリンの生産には高度な技術と大規模な石油化学工場が必要となる。このため、ほとんどの産油国では原油を輸出し、ガソリンを輸入している。

ガソリンの精製

ナフサ直留ガソリン粗製ガソリンと呼び、ナフサを接触改質して芳香族を高めたものを改質ガソリンと呼ぶ。重質の石油留分を、接触分解または熱分解で分解して製造したガソリンや、エチレンプラントでのナフサ熱分解によって得られる液体生成物は、分解ガソリンと呼ばれ、分離精製して芳香族炭化水素などの石油化学製品となる。

合成ガソリン

メタノール、気体の天然ガス(LNG)や低品位な石炭である褐炭などを原料として、触媒を使用した炭化水素合成反応によって得られる液状炭化水素(人造石油)のうち、沸点範囲がガソリンと同等な液状物質のこと。第二次世界大戦以前の日本やドイツでは石油資源が稀少であったため重要な戦略物質であった[4]

気体を原料とする方法はフランツ・フィッシャーハンス・トロプシュによって1922年に最初の合成が報告され[5]て以降多くの基礎的研究、応用研究、工業的生産のための研究が行われた[5][6]。軍部が主導し[7]1930年代後半から日本[8]やドイツで工業生産が行われた[5][6]。代表的な合成方法は最初の報告者にちなみフィッシャー・トロプシュ法と呼ばれている。

使用される触媒は、ゼオライト(Fe)、アルミニウム(Al)、ルテニウム(Ru)を主成分としてコバルト(Co)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)など様々な微量元素が添加される。

褐炭を原料とする方法(石炭直接液化)は、1921年のベルギウス法から発展した技術により生産される[9]。より安価なガソリンの生産方法として原油を分留する技術の発達により衰退したが、1970年代の石油危機により再び注目された[10]

フィッシャー・トロプシュ法ではメタン(CH4)からワックスに至る幅広い沸点を有する液状物質が得られるので、液状物質を分留や水素添加による重合反応により目的の沸点を有する液状物質へと変化させる。1940年代の技術により得られたガソリンは直鎖パラフィンを主成分とする比率が高いためオクタン価は低かったが、改質を行い高オクタン価のガソリンとした[6]

1980年代になると最適な触媒に対する知見が深まり、ZSM-5触媒が見出され[11]オクタン価90のガソリンが得られる様になった[6]。この技術を応用し1986年にはニュージーランドで商業規模のプラントが稼働し[12]、1989年時点ではニュージーランド国内のガソリン需要の約1/3を供給した[6]

ガソリンの用途

ガソリンの99%以上は燃料としてガソリン自動車用に消費されている[13]。ただし、一部は小型航空機などの燃料用、溶剤用、ドライクリーニング用、塗料用にも用いられている[13]しみ抜きなどに用いられるものは、日本ではベンジンと呼ばれる。

自動車燃料

自動車工学では、火花点火機関用燃料に位置づけられる[14]。どの国でも軽油灯油との区別・識別のために着色されており、日本ではオレンジ色に着色するよう定められている。完全に燃焼することで二酸化炭素 (CO2) と (H2O) になるが、不完全燃焼を起こすと一酸化炭素や炭素が多くなる。理論上、ガソリン1 gの燃焼には 14.7 gの空気が必要である。この比率は理論空燃比とも呼ばれ、今日の各種の排ガス規制をクリアするために内燃機関メーカーは様々な対策をエンジンに施し、この理論空燃比に近づけるようにしている。

混合燃料・代替エネルギーへの転換

環境特性の強化から、エタノールを混合したガソリンのことをガスホール(ガソリン+アルコールの造語)と呼ぶ。また、二酸化炭素の排出量削減のため、植物由来のバイオエタノールイソブテンを反応させたエチルターシャリーブチルエーテルを一般のガソリンに対して1から3%混合させたバイオガソリンも、2007年4月27日より東京圏ガソリンスタンドで販売されている。

植物は大気中の二酸化炭素を吸収しており、その植物原料からの燃料ならば、燃焼させて二酸化炭素に変わっても二酸化炭素の絶対量は増えないと考えられている(カーボンニュートラルも参照)が、エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)は毒性が高いというデータがある。ゴムやプラスチックなどの部品を腐食する可能性があり、窒素酸化物をより多く排出するともされ、根本的な解決には至っていない。近年は、電気自動車燃料電池車を環境負担の解決と考え、自動車メーカーは開発にしのぎを削っている。また、プラグインハイブリッドカーも一定の効果はあるとされている。


  1. ^ a b c d e f g h i 危険物ガソリンについて! (PDF) 小林物産
  2. ^ 身近な危険物の火災、その消火方法 (PDF) - 消防庁
  3. ^ 元科学捜査官「ガソリンで短時間に高温か 逃げるのは困難」 - NHK
  4. ^ 工藤章, 「三国同盟と人造石油 : 日独経済・技術協力をめぐって」『社会経済史学』 55巻 5号 1989年 p.555-580,712, doi:10.20624/sehs.55.5_555
  5. ^ a b c 藤元薫, 「合成ガスから液状炭化水素の合成」『有機合成化学協会誌』 41巻 6号 1983年 p.532-544, doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.41.532
  6. ^ a b c d e 乾智行, 「秘話人造石油 : 鉄からゼオライトへ(化学への招待)」『化学と教育』 37巻 3号 1989年 p.282-285, doi:10.20665/kakyoshi.37.3_282
  7. ^ 三輪宗弘, 「海軍の技術選択の失敗 : 航空機用ガソリンと石炭液化」『第5回シンポジウム「日本の技術革新―経験蓄積と知識基盤化―」研究論文発表会論文集』 特定領域研究「日本の技術革新―経験蓄積と知識基盤化―」総括班 2010年 p.27-30, NAID 120006654598
  8. ^ 大塚博, 富田宣, 「(233)フィッシャー法合成ガソリンの成分分析に就て」『工業化学雑誌』 44巻 9号 1941-1942年 p.746-747, doi:10.1246/nikkashi1898.44.9_746
  9. ^ 三井啓策, 「旧海軍燃料廠におけるベルギウス法の研究と結果」『燃料協会誌』 54巻 10号 1975年 p. 846-856, doi:10.3775/jie.54.10_846,
  10. ^ 石川勇, 「石炭液化反応器へのRI技術の応用」『RADIOISOTOPES』 45巻 5号 1996年 p.349-350, doi:10.3769/radioisotopes.45.349
  11. ^ 乾智行, 萩原隆, 武上善信, 「修飾したメタノール合成触媒とZSM-5ゼオライトからなる複合触媒による合成ガスからの選択的炭化水素合成」『石油学会誌』 27巻 3号 1984年 p.228-235, doi:10.1627/jpi1958.27.22
  12. ^ 藤元薫, 「稼動を始めたニュージーランド合成ガソリンプラント」『燃料協会誌』 66巻 1号 1987年 p.2-12, doi:10.3775/jie.66.2
  13. ^ a b 石油の種類について (PDF) 沖縄県
  14. ^ a b c ロバート・ボッシュ著、小口泰平監修『ボッシュ自動車ハンドブック第2版』シュタールジャパン、2003年、235頁
  15. ^ 猛暑、燃料商社に恩恵/ガソリンの体積が膨張/入荷時よりかさ増え利益 『日本経済新聞』朝刊、2018年8月16日(マーケット商品面) 2018年8月16日閲覧。
  16. ^ a b c d e 米国におけるガソリンの需給動向 (PDF) 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 2004年10月
  17. ^ a b c ロバート・ボッシュ著、小口泰平監修『ボッシュ自動車ハンドブック第2版』シュタールジャパン、2003年、236頁
  18. ^ a b 燃料油の品質規制と対応の経緯 (PDF) コスモ石油
  19. ^ セスナ172P | Alpha Aviation
  20. ^ セスナ172型ディーゼル・エンジン搭載機耐空検査に合格 | Alpha Aviation
  21. ^ a b 国際先端テスト関連資料 (PDF) 総務省消防庁 2013年6月
  22. ^ 特許庁ホームページ - 鉛-錫合金めっき代替の鉛フリーめっき
  23. ^ 不正ガソリン製造・販売で罰金 三重の業者、灯油混ぜる」『日本経済新聞日本経済新聞社、2016年2月15日。
  24. ^ 多用途での活躍が期待される新型双発機 - JGAS AVIATION BLOG






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