ウニ 加工・流通

ウニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/19 17:05 UTC 版)

加工・流通

古来より日本においてウニは、保存用に塩を用いて加工したものが、日本の三大珍味に数えられている。これは生食のウニではなく、あくまで「塩雲丹」と呼ばれる加工されたウニである。とくに知られていたのは「越前の雲丹」であり、「越前国(現在の福井県東部)で生産加工された塩雲丹」のことである[32]

現在の日本では、刺身寿司ネタ、海鮮丼など生食することが多く、鮮度が重要視される。なお、ウニの臓器は、口に入れたときに雑味や臭みを感じさせる[33]ため、中に入っているであろう海藻と共に取り除かれる[33]。また、ウニを使ったアイスクリームである、ウニアイスも存在する。

ウニの殻は、専用のウニ割り器を使うと比較的容易に開くことができるが、包丁でも割ること自体は簡単にできる。市販されるものは、殻を割ってあり、死んでから時間が経っているため、生臭さがあったり、保存や型くずれ防止のためにミョウバンアルコールが添加され、食味・風味が劣ったりすることが多い。一方で殻ウニは割ってみるまで品質の善し悪しがわからないため、寿司屋を始めとする飲食店では品質の一定しているミョウバン処理された箱ウニを使う場合がほとんどである。他にも、近年は食味の劣化を防ぐために塩水でパックされたウニも出まわっている。旬は春から秋であるが、特に初夏のものは最も品質が良いとされ、それ以外の時期は冷凍品が出回る。

一般に生ウニとして板に載せ販売されているものは、精巣卵巣が混ざったものである。卵巣は切るとゾル様に流れる特徴がある。精巣は白く半透明の精子が絡み付いていることがある。精巣の方が味が濃く美味とされており、精巣のみを集めたものは高価で、高級寿司店などに卸されている。

ウニの食味は、餌として食べる海藻などにより異なり、北海道の利尻島周辺海域のように高級昆布産地はウニの名産地でもある[34]。個体による食味・品質差やそれを反映した価格差も大きい。一箱で500円の場合もあれば、10万円以上の値が付くこともある。築地市場時代を含む豊洲市場での卸売買では、少しずつ価格を上げていく競り合いでなく、一発勝負で高値をつけた業者が落札する商習慣であるため、目利きが求められる[35]

生物学者によれば、生殖巣(雲丹)のツブツブとした構造は卵ではなく生殖小のうとよばれ、精細胞か卵細胞と栄養細胞を保持している。毎年生殖小のうでは栄養細胞が先に成長し繁殖期に生殖細胞(精細胞・卵細胞)が作られ放出して縮小しまた栄養細胞の成長に戻るサイクルを、数年繰り返している。このうち食味に関しては栄養細胞が重要で、成長し(実入りが良く)生殖細胞がまだ現れていない時期、雌雄の違いがまだない時期が最も美味である。これが食品として雌雄の区別をしない理由である。またこの時期は取り出しても形を保っているが、この後に生殖細胞がつくられるにつれて生殖巣が溶け出すようになる。またアカウニ、バフンウニの雌の卵巣は苦味成分である含硫アミノ酸[36]が出て味が落ちてくる。一方で雄は味が変わらないのだが、外見では選別できないためメスに合わせて漁期が決まることになる[37]

日本全国の沿岸や、中華人民共和国渤海湾などで漁の対象となっており、浅い海の砂地や岩場に生息しているものが身が充実し美味とされる。水深数百メートルの深海からもタコなどの漁に際して一緒に捕れることも時折見られるが、深海はウニにとっては栄養豊富な餌が少ない環境であるため、食用となる部分も少なく、商品価値が低い。また、主な産地としては北海道積丹利尻島礼文島が特に有名である。

生ウニとして食べるほかには、殻に載せて炭火などで焼いた(あるいはガスバーナーで表面に焦げ目を付けた)焼きウニ、パスタソースなどに利用される。青森県八戸市周辺の郷土料理いちご煮は、ウニとアワビ潮汁である。広島市周辺にはバターで炒めたホウレンソウまたはクレソンに生ウニを載せ、熱でとろける食感を味わう「ウニホーレン」(ウニクレソン)という料理があるとテレビで紹介されたが、実際に広島で提供している店は少数である。また、北海道東北地方では、生ウニを1-2くらいの瓶に詰めたものがスーパーマーケットなどで売られており、牛乳瓶に詰められたものも多い。

韓国や、中国でも渤海湾周辺を中心に食用とされる。特に海女漁が盛んな韓国の済州島では、ウニとワカメスープ「ソンゲミヨククッ(성게미역국)」が郷土料理となっており、中国遼寧省大連市広東省汕頭市汕尾市では生食のほか、鶏卵を加えた蒸し物などの料理も高級料理として出される。台湾でも炒め物にされることがある。ニュージーランドでは Evechinus chloroticus(New Zealand sea urchin)がキナ(kina)と呼ばれ、生食やパイなどの形で食用にされている。欧米ではローマ帝国以来の伝統の食材であり、それを受け継ぐフランスの食通にもウニは珍重され、オムレツなどに入れられて食卓に並ぶ[38]ギリシャほか地中海沿岸国の一部地域や南米チリでも食用とされている。

ウニを使用した加工食品のなかに、ウニアイスがある。2005年に、ササニシキフカヒレといった変わり種のアイスクリームの製造販売で知られる宮城県石巻市の和洋菓子店・風月堂が発売した[39]。そのほか、岩手県宮古市の重茂漁協が2018年に「重茂黄金焼うにプレミアムアイス」を、東日本大震災7年の復興企画として限定販売した[40]

アルコールウニの瓶詰

アルコールうにの瓶詰め(六連島産)

アルコール漬けウニの瓶詰は下関六連島が発祥とされている。山口県は、塩ウニを含めた瓶詰めウニの生産量が日本全国の約4割を占める[41]

誕生

1871年(明治4年)、六連島灯台が建てられ、多くの外航船が寄港するようになった。特に六連島は捕鯨船の停泊地であったことから多くの外国人がいたようである。島の寺院、西教寺の住職であった蓬山和尚が宴会の席で、同席していた外国人水先案内人にお酒(ジン)を注ごうとしたところ、誤って酒肴として出されていた塩ウニ(生ウニとも言われている)にこぼしてしまった。あわてて取り替えようとしたが、外国人水先案内人はそのまま口にし、とても喜んで食べた。それを見た蓬山和尚もひと口食べたところ、お酒が加わった事でウニの香りと口当たりがとても良く、美味しくなっている事に驚き、これを改良して今の瓶詰の原型となるものが誕生した。

当初は木樽や陶器に入れられていたが、衛生面の問題や外見を考慮し、のちにガラス瓶に詰められるようになった。また、加工方法も「焼酎漬け」であったため、当初焼酎を用いて作られていたが、中には時間が経つにつれて焼酎に含まれる酵母の発酵が進み、瓶が割れるなどの問題も発生していた。和尚より製造方法を受け継いだとされる城戸久七はこれをさらに改良し、高純度のエチルアルコールを用いることで今のような安定した瓶詰めが生産できるに至った。

伝承

城戸久七は独自の製造方法からウニの瓶詰の元祖となり、「雲丹久」という商号で有名になった。当時16歳であった上田甚五郎は城戸久七に弟子入りし、アルコールウニの瓶詰め製造方法を学ぶこととなる。甚五郎31歳の時、高齢となった城戸久七は永年の研究で培ってきた製造方法を後世に残すべく、甚五郎にその全てを伝授した。甚五郎はこの後も研究を重ね、今の「うに甚」となった。[42]

加工品の瓶詰

前述のウニのアルコール漬けにイカなどを加えて珍味として加工した瓶詰も多数流通している。しかしこれらの中には、ウニの含有量が不明である場合が多く、1973年には公正取引委員会が調査を行った結果、ウニが数%しか入っていないなどとして3社が景品表示法違反で摘発されている[43]


  1. ^ a b Kroh, A.; Mooi, R. (2023). World Echinoidea Database. Accessed at https://www.marinespecies.org/echinoidea on 2023-04-13. doi:10.14284/355.
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  17. ^ バフンウニの後期発生 - 広島大学大学院理学研究科分子遺伝学研究室
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  35. ^ 一発勝負のセリ「真剣が面白い」『朝日新聞』朝刊2019年2月8日(第2東京面)。
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  38. ^ 21世紀研究会編『食の世界地図』文藝春秋・P272
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