JAK2V617F変異遺伝子と血球増加のメカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/24 00:01 UTC 版)
「真性多血症」の記事における「JAK2V617F変異遺伝子と血球増加のメカニズム」の解説
2005年にJAK2V617F変異遺伝子が発見されPV患者の97%で認められている。JAK2V617F変異遺伝子に類似したJAK2エクソン12遺伝子変異もその後発見され、真性多血症患者のほぼ100%にJAK2遺伝子に関する異常が存在することがわかり、2008年に発表されたWHO分類第4版では診断基準項目の大基準とされた。近年JAK2V617F変異遺伝子が血球増加に直接関わっていることが判明しており、またJAK2V617F変異遺伝子を標的にした分子標的薬も続々に開発のテーブルに乗るなど、JAK2V617F変異遺伝子の発見によってPVに関する知見は大きく動いている。 正常な造血細胞は、外部からの適切なコントロールによるG-CSFなどの造血に関わるサイトカイン・ホルモンが受容体に結びつくことによるシグナル伝達で細胞分裂・増殖を始めるが、それらの因子の中でも重要な因子であるエリスロポエチン(EPO)を感受する造血細胞上の受容体にエリスロポエチン受容体がある。エリスロポエチン受容体にはエリスロポエチンが結合した時に起きるシグナルを伝達する働きを持っている酵素にJAK2キナーゼ(チロシンキナーゼ)があるが、このJAK2キナーゼは4つの領域に分かれ、そのうちの一つJH2領域の617番目のアミノ酸は正常な状態ではバリンである。しかしJAK2遺伝子変異によりこのバリンがフェニルアラニンに置き換わってしまうのがJAK2V617F変異であり、JAK2V617F変異するとエリスロポエチンによるシグナルがない状態でもエリスロポエチンが受容体に結合したかのようにシグナル伝達をしてしまい、そのため造血途中の幼若な血液細胞は盛んに分裂・増殖するようになる。赤血球が必要以上に増えるとエリスロポエチンを産出している腎臓はエリスロポエチンの産出を減らして造血のコントロールを試みるが(そのため、PV患者では血中のエリスロポエチン濃度は低値である)もはやエリスロポエチンの存在と無関係にシグナル伝達を行ってしまうJAK2V617F変異キナーゼの基では造血のコントロールを受け付けない状態になってしまい、血液細胞の産出が亢進した状態が続くようになる(電化製品で例えるとスイッチを入れていないのに、スイッチの部品が壊れて勝手に電源が入ってしまい、スイッチを切ろうとしても切れない状態になったようなものである)。JAK2V617F変異は同時に赤芽球のアポトーシスを止めるシグナルも発信するので、両面で赤血球数の増加をもたらす。 試験管の中で造血細胞を培養すると、健康人の正常な造血前駆細胞はエリスロポエチンを加えないと増殖することができないが、PV患者の前駆細胞特にCFU-Eはエリスロポエチンを加えなくとも盛んに分裂・増殖してコロニーを形成する。このことから、2008年WHO診断基準では「内因性の赤芽球コロニー形成がある。」という小基準が加えられた。
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