IQの上昇
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/29 21:56 UTC 版)
IQテストは定期的に更新される。たとえば、元々1949年に開発された児童向けウェクスラー式知能検査(WISC)は、1974年、1991年、2003年、2014年に更新された。改訂版は、標準化サンプルにおける試験受験者の成績に基づく。IQ 100の標準スコアは、標準化サンプルの成績の中央値と定義される。したがって、時間の経過に伴う基準の変化を確認する1つの方法として、同じ受験者に同じテストの新旧両方のバージョンを受験させる調査を実施することが挙げられる。そうすることで、時間の経過とともにIQが向上することが確認される。ヨーロッパのNATO諸国の徴集兵に使用されるテストなどの一部のIQテストでは、未加工のスコアを報告しており、それらにおいても時間の経過とともにスコアが上昇する傾向が確認される。WISCやウェクスラー成人知能検査(WAIS)のテストで評価すると、米国のIQが10年あたり大凡3ポイント程度上昇している。テストの成績が時間の経過とともに上昇することは、すべての主要なテスト、すべての年齢層、すべての能力レベル、およびすべての新興工業国で見られるが、必ずしも米国と同じ速度であるとは限らない。増加は、テストの初期から1990年代半ばまで、継続的でほぼ直線的であった。この効果はIQの増加に最も関連が深いが、注意力並びに意味記憶およびエピソード記憶の増加においても同様の効果が見られる。 アーリック・ナイサーは、スタンフォード・ビネー式知能検査のデータを分析し、1932年の米国児童の平均IQは1997年の基準でいうところの僅か80に過ぎないとした。ナイサーは、「ほとんど誰も『最優秀(very superior)』と評価されるような点数を取ることはできず、4分の1近くが『障害(deficit)』であるように見えただろう」と述べている。また、「テストの点数は確かに世界中で上昇しているが、知性自体が上昇したかどうかは議論の余地がある」としている。 Trahanらによる2014の論文では、スタンフォード・ビネー式とウェクスラー式の両方のテストを基に、フリン効果は10年あたり約2.93ポイントであり、効果が減少しているという兆候は見受けられなかったと報告された。対照的に、PietschnigとVoracekによる2015年の論文では、約400万人が参加した研究のメタアナリシスで、フリン効果がここ数十年で減少したと報告されている。また論文の中では、フリン効果の大きさは知能の種類によって異なることが報告された(「流動性、視空間、全検査、結晶性のIQテストパフォーマンスで、それぞれ年間0.41、0.30、0.28、0.21 IQポイント」)。またフリン効果は子供よりも大人の方が強いとされた。 Ravenの2000年論文では、年齢が上がるにつれて多くの能力が低下していると解釈されるデータを、生年月日に応じてこれらの能力が劇的に上昇したことを示すとしてフリンの見解と同様に解釈し直さなければならないことが見出された。多くのテストで、この現象はすべての能力の水準で発生している。 いくつかの研究では、フリン効果を受けるのは分布の下端に特に集中していることが判明している。たとえば、TeasdaleとOwenによる1989の論文では、フリン効果は主に低得点の数を減らす方に作用し、その結果、超高得点は増加せずに、中得点の数が増加することを確認している。別の研究では、スペインの児童の2つの大きなサンプルが、30年の間隔をおいて評価された。 IQ分布を比較すると、テストの平均IQスコアが9.7ポイント増加し(フリン効果)、上昇は分布の下半分に集中し上半分では無視できるほどの変化しかなく、個人のIQが高くなるにつれ上昇幅が減少していくことが示された。いくつかの研究では、IQが高い人のスコアが低下する逆フリン効果が見られた。 1987年、フリンは、非常に大きな増加は、IQテストが知能を測定せず、実用的な意味がほとんどなくマイナーな「抽象的な問題解決能力」を測定することをのみを示しているという立場を取った。そしてIもし仮にIQの向上が知能の向上を反映しているのであるとすれば、その結果としての社会の変化があったはずだが、これまでそれは観察されていないと主張した(「文化的ルネッサンス」の発生はなかったとの推定)。
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