DNAのよじれの解消
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:03 UTC 版)
DNAへリカーゼが二重らせんをほどく際、dsDNAによじれ torsion が生じるという重大な問題が発生する。dsDNAは10 bp(10塩基対)ごとに1巻きのらせん(ターン)であるため、10 bp巻き戻すたびに他の領域までも縦軸を中心に1回転する。この回転は、両端の切れた不自然に短い直鎖状のDNAならば問題にならない。しかし、細菌や大多数のウイルスのdsDNAは環状である。そのまま巻き戻そうとすると必ずどこかが強くよじれてしまう。また、真核生物の染色体は直鎖状とはいえ巨大であり、しかも、各所で核マトリックス同士が結合してループ構造を形成している。このループ構造は環状同様に閉鎖的であるため、やはりよじれの発生は必至である。 この結果、自由に回転できないDNAは巻き戻しによるよじれのために、さらに大きならせん(DNA超らせん、あるいはDNAスーパーコイル)が生じる。ちょうど、電気コードの両端を持って数回ねじると大きな輪が生まれるのに似ている(360度回すごとにコードは1回交差する)。DNAらせんは右回りであるため、複製フォークの進行方向で形成される超らせんも右回り(正の超らせん)。正の超らせんが長くなると巻き戻しに対する抵抗となり、複製フォークの進行を止めてしまう。DNA複製がスムーズに行われるためには逆向きの超らせん(負の超らせん)を導入するようDNAを巻き、正の超らせんを中和させればよい。先ほどのねじれたコードで例えると、一方の手を放すと逆方向に回転してねじれのストレスは解消する。 このようなよじれ解消機構を、1963年に正の超らせん問題を発見したケーンズ Cairns はスイベル (swivel) と名付けた。当時は仮説の存在だったが、現在ではスイベルの担い手である一群の酵素(DNAトポイソメラーゼ)が明らかになっている。DNAトポイソメラーゼは、巻き戻された一方のDNAを切断し、もう一方のDNAをその間隙に通過させたあとで再結合するという一連の反応を触媒する。この活性の効果は、DNAの構造的ストレスの指標であるリンキング数(絡まり数: Lk)により数値化できる。リンキング数は、1つのdsDNAのターン数(ツイスト数、ねじれ数: Tw)と超らせんの数(ライジング数、巻数: Wr)の和 (Lk = Tw + Wr ) である(DNA超らせんの項参照)。例えば4,000 bpを持つ環状dsDNAの場合、1巻きが10 bpであるためツイスト数は400 (Lk = 400 + 0)。これを10 bpだけ巻き戻すと、ツイスト数が1減り、複製フォーク手前に正の超らせんが1巻き生じる (Lk = 399 + 1)。次の10 bpを巻き戻し、かつDNAトポイソメラーゼにより負の超らせんを1巻き生成すると、リンキング数はようやく減る (Lk = 398 + (1 – 1) = 398)。これは、正の超らせんと負の超らせんが互いに打ち消し合い、よじれから解放されたことを意味する。DNAの超らせんのない状態を弛緩型 と呼ぶ。
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