Astra_Linuxとは? わかりやすく解説

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Astra Linux

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/20 02:22 UTC 版)

Astra Linux
開発者 RusBITech英語版
OSの系統 LinuxUnix系
開発状況 開発中
対象市場 ロシア連邦軍ロシアの情報機関英語版ロシアの警察ロシア鉄道ガスプロムロスアトム田湾原子力発電所、その他ロシアの国立機関、医療機関、教育機関など
使用できる言語 ロシア語、英語
アップデート方式 APT
パッケージ管理 dpkg
プラットフォーム x86-64, ARM, エルブルス英語版
カーネル種別 モノリシック
既定のUI Fly
ライセンス 複数[1]
ウェブサイト astralinux.ru
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Astra Linuxは、Microsoft Windowsの代替としてロシア連邦で広く導入されている、Linuxベースのロシア製オペレーティングシステム(OS)である[2][3]。当初はロシア軍、その他の軍隊および情報機関のニーズを満たすために作成・開発された[4]強制アクセス制御を備えることでロシアの国家機密区分において「極秘」レベルまでのデータ保護を提供する。ロシア国防省ロシア連邦技術・輸出管理局英語版[5]ロシア連邦保安庁によって公式に認証されている[6]

2010年代を通じて、ロシア当局や産業界が西側製品への依存を減らそうとする(輸入代替工業化)中で、軍や警察以外にも、教育、医療、その他の国家機関、さらにはロシア鉄道ガスプロムロスアトムといった産業大手にも導入されるようになった[2][3]。Astra Linuxのサーバ版はファーウェイ機器と連携するための認証を受けている。

仕様

このOSの開発者は、2010年10月17日付けロシア政府命令第2299-р号に従い、連邦当局および予算機関に対して自由ソフトウェアの導入を義務づける解決策を適用している科学製造企業RusBITech英語版である[7]

このOSには2つのエディションが存在する。メインとなるものは「Special Edition」と呼ばれ、もう一つは「Common Edition」と呼ばれる。両者の主な違いは、前者が有償であり後者が無償であること、前者はx86-64ARMエルブルス英語版アーキテクチャに対応しているのに対し、後者はx86-64アーキテクチャのみに対応していること、前者はセキュリティ認証を受けており3段階のOSセキュリティ(ロシアの都市名にちなんでおり、低い順に「Oryol」「Voronezh」「Smolensk」)を提供しているのに対し、後者はセキュリティ認証を受けておらず、最も低いレベルのOSセキュリティ(「Oryol」)のみを提供していることである。[8][9]

Rusbitechはまた、PCIバスに対応する「ソフトウェア/ハードウェア信頼起動制御モジュール」MAKSIM-M1(「М643М1」)も製造している。これは不正アクセスを防止し、その他いくつかの高度なセキュリティ機能を提供する。このモジュールはAstra Linuxのほか、Linuxカーネル 2.6.xから5.x.xまでに対応するOSや、いくつかのMicrosoft Windowsもサポートしている[10]

Astra Linuxのライセンスはロシアおよび国際法に準拠しており、「GNU General Public Licenseの精神および要求に矛盾しない」と宣言されている[11]。このシステムは.debパッケージを使用している[12]

Astra Linux Special Editionは国家防衛管理センターで使用されている

Astra LinuxはDebianの派生ディストリビューションとして認められている[13]。RusbitechはLinux Foundationと提携関係にある[14]。また、かつてThe Document Foundationの諮問委員会の一員であったが[15]ロシアのウクライナ侵攻のため2022年2月26日に活動を停止された[16]

利用

有償版であるSpecial Editionは、ロシアの国家関連組織で広く利用されている。特にロシア国家防衛管理センターで利用されている[17]

また、クリミア共和国の多くの国家機関でAstra Linuxを大量に導入する計画があり、ロシアのウクライナ侵攻における国際的な制裁のため、他の一般的なOSの正当な利用は疑問視されている[18]

さらに、Rusbitechとファーウェイの協力計画も存在した[19][20]

2018年1月には、ロシア軍の全コンピュータにAstra Linuxを導入し、Microsoft Windowsを廃止することが発表された[21]

2018年2月、RusbitechはAstra Linuxをロシア製Elbrusマイクロプロセッサ英語版に移植したと発表した[22]

2019年2月、Astra Linuxが中国の田湾原子力発電所で導入されることが発表された[23]

2019年以降、「超防護」仕様のタブレットコンピュータであるMIGブランド製品がAstra Linux搭載で提供されており[24]、スマートフォンも予定されている[25]

2019年にはガスプロムがAstra Linux導入を発表し、2020年には原子力企業のロスアトム[26]、2021年初頭にはロシア鉄道も導入を予定していると報じられた[27]

2020年、Astra Linuxは100万本以上のライセンスを販売し、売上は20億ルーブルに達した[28]

2021年には、複数のロシアの原子力発電所およびロスアトムの子会社が合計15000人のユーザー規模でAstra Linuxへ移行する計画である[29]

2022年7月、マイクロソフトがロシア市場から撤退する決定を下した後[30]、Astra Linuxはモスクワ証券取引所への株式公開を計画していると発表したが、当時は上場予定日を示していなかった[31]

リポジトリ

x.7アップデート以降、Astra Linux Special Editionは入れ子構造のパッケージリポジトリ構造を採用しており、メインリポジトリ、ベースリポジトリ、拡張リポジトリで構成されている[32][33]。x.7メインリポジトリは一般的にバージョン1.6と同一であり、ベースリポジトリはすべてのコアパッケージおよび開発ツール関連パッケージを含んでいる[33]

拡張リポジトリには、メインおよびベースリポジトリには存在しないソフトウェアパッケージのバージョンが収められている。このようなソフトウェアはAstra Linux環境内で動作し、CSSによるセキュリティ機能を組み込むために改変されておらず、ベースおよびメインリポジトリのパッケージと互換性がない場合があり、認証テストも受けていない[33]

拡張リポジトリメインおよびベースリポジトリよりも多くの機能を提供し、拡張リポジトリのパッケージは基本パッケージを変更することはできるが、コアパッケージを変更することはできない[33]

さらに、拡張リポジトリには、メインおよびベースリポジトリのパッケージと互換性がない可能性のある最新バージョンのパッケージを提供するバックポートコンポーネントと、サードパーティソフトウェアとの最大限の互換性を確保するためのパッケージを提供する「Astra-ceコンポーネント」が含まれている[33]

拡張リポジトリを使用することで、他のLinuxシステム向けに元々設計されたソフトウェアのインストールと実行、ソフトウェアの開発、Astra Linuxのさまざまなハードウェアプラットフォームへの適応が可能になる[33]

拡張リポジトリのソフトウェアパッケージの主な分類は、ベースリポジトリに含まれていないパッケージ、ベースリポジトリを更新するパッケージ(ベースリポジトリのパッケージの新しいバージョンであり、互換性がない場合はバックポートコンポーネントに統合される)、およびメインリポジトリのパッケージを置き換えるパッケージである[33]。後者は「Astra-ce」コンポーネントにまとめられており、PostgreSQLExim (Exim4)、MariaDBJava OpenJDKLibreOfficeが含まれている[33]

バージョン履歴

Astra Linux Special Edition のバージョン
バージョン リリース日 Linuxカーネル
1.2 2011年10月28日 2.6.34
1.3 2013年4月26日 3.2.0[34]
1.4[35] 2014年12月19日 3.16.0
1.5[36] 2016年4月8日 4.2.0
1.6 2018年10月12日 4.15.0
1.7 2021年10月22日 5.4
1.7.3 2022年11月29日 5.15
1.7.5 2023年10月16日 6.1
1.8 2024年8月1日 6.6 または 6.1 LTS
1.8.2 2025年6月30日 6.12 LTS
Astra Linux Common Edition のバージョン
バージョン リリース日 Linuxカーネル
1.5 2009年末 2.6.31
1.6 2010年11月23日 N/A
1.7[37] 2012年2月3日 2.6.34
1.9 2013年2月12日 3.2.0
1.10[38] 2014年11月14日 3.16.0
1.11[39] 2016年3月17日 4.2.0
2.12 2018年8月21日 4.15
2.12.29 2020年5月14日 4.15.3-2
2.12.40 2020年12月29日 5.4
2.12.43 2021年9月8日 5.10
2.12.45 2022年8月4日 5.15
2.12.46 2023年4月18日 5.15

関連項目

  • Unity Operating System - 中国政府のコンピュータで使用されているLinuxディストリビューション
  • Debian
  • Ubuntu Kylin
  • Linuxの採用
  • Red Flag Linux英語版
  • Canaima英語版ベネズエラのコンピュータメーカーVIT, C.A.と中国の情報技術会社Inspur英語版による同様のプロジェクト
  • GendBuntu英語版 – フランス憲兵隊が実施した同様のプロジェクト
  • LiMux英語版 – ミュンヘン市議会の同様のプロジェクト
  • Nova (オペレーティングシステム)英語版 – キューバ政府による同様のプロジェクト
  • Red Star OS – 北朝鮮政府による同様のプロジェクト

脚注

  1. ^ Лицензионные соглашения”. astralinux.ru. 2021年6月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月2日閲覧。
  2. ^ a b Госорганы России массово меняют Windows на Astra Linux – CNews” (ロシア語). CNews.ru. 2022年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  3. ^ a b Какие российские альтернативы есть у зарубежного программного обеспечения” (ロシア語). Российская газета (2022年3月23日). 2022年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  4. ^ Звезда по имени Linux: почему "военные" ОС прочнее” (ロシア語). old.computerra.ru. 2017年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  5. ^ (ロシア語) http://fstec.ru/en/ Archived 6 May 2022 at the Wayback Machine.
  6. ^ (ロシア語) http://www.astra-linux.com/sertifikat.html Archived 4 March 2018 at the Wayback Machine.
  7. ^ (ロシア語) http://www.computerra.ru/vision/609608/ Archived 28 November 2012 at the Wayback Machine.
  8. ^ (ロシア語) https://astralinux.ru/products/ Archived 31 March 2023 at the Wayback Machine.
  9. ^ (ロシア語) https://astralinux.ru/products/astra-linux-special-edition/ Archived 2 June 2021 at the Wayback Machine.
  10. ^ АПМДЗ "Максим-М1"” (ロシア語). 2014年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月6日閲覧。
  11. ^ Часто задаваемые вопросы” (ロシア語). 2014年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月6日閲覧。
  12. ^ Настройка apt” (ロシア語). 2014年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月6日閲覧。
  13. ^ Derivatives/Census/AstraLinux – Debian Wiki”. 2019年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月12日閲覧。
  14. ^ (ロシア語) http://www.cnews.ru/news/line/2019-02-19_gk_astra_linux_rasshiryaet_sotrudnichestvo_s_the Archived 28 July 2020 at the Wayback Machine.
  15. ^ The Document Foundation welcomes RusBITech in the project Advisory Board” (2015年10月6日). 2020年11月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月8日閲覧。
  16. ^ The Document Foundation suspends RusBITech from its Advisory Board” (2022年2月28日). 2023年2月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月23日閲覧。
  17. ^ (ロシア語) http://spbit.ru/news/n119990/ Archived 2 September 2017 at the Wayback Machine.
  18. ^ (ロシア語) n:ru:Власти Крыма планируют переход на Linux из-за санкций – Russian Wikinews, 22 July 2015
  19. ^ Huawei, RusBITex to design information protection systems”. 2022年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年11月21日閲覧。
  20. ^ Huawei Enterprise: New Value Together” (英語). Huawei Enterprise. 2023年12月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  21. ^ Russian military moves closer to replacing Windows with Astra Linux”. ZDNet. 2019年5月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月11日閲覧。
  22. ^ (ロシア語) http://www.astralinux.com/home/novosti/469-rbt-elbrus.html Archived 27 February 2018 at the Wayback Machine.
  23. ^ (ロシア語) http://corp.cnews.ru/news/line/2019-02-05_rossijskaya_os_astra_linux_vnedrena_na_tyanvanskoj Archived 28 July 2020 at the Wayback Machine.
  24. ^ Начались продажи российского суперзащищенного планшета на отечественной ОС – CNews” (ロシア語). CNews.ru. 2021年4月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  25. ^ (ロシア語) https://www.kommersant.ru/doc/3999021 Archived 27 October 2020 at the Wayback Machine.
  26. ^ «Росатом» потратит до 800 млн рублей на российскую ОС Astra Linux” (ロシア語). iXBT.com. 2021年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月14日閲覧。
  27. ^ (ロシア語) [1]
  28. ^ The Russian distribution of Astra Linux has passed the milestone of 1 million licenses”. 2022年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月25日閲覧。
  29. ^ (ロシア語) https://bankstoday.net/last-news/pervye-9-rossijskih-aes-pereveli-na-sistemu-astra-linux-a-skoro-pomenyayut-i-sami-kompyutery-na-baikal-ili-elbrus Archived 16 July 2021 at the Wayback Machine.
  30. ^ Warren, Tom (2022年6月8日). “Microsoft winds down its business in Russia, lays off more than 400 people” (英語). The Verge. 2022年10月7日閲覧。
  31. ^ “Russian OS producer Astra Linux plans Moscow IPO, Vedomosti reports” (英語). Reuters. (2022年7月8日). オリジナルの2022年10月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221007172557/https://www.reuters.com/technology/russian-os-producer-astra-linux-plans-moscow-ipo-vedomosti-2022-07-08/ 2022年10月7日閲覧。 
  32. ^ Derivatives/Census/AstraLinux – Debian Wiki”. wiki.debian.org. 2019年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月26日閲覧。
  33. ^ a b c d e f g h Репозитории Astra Linux Special Edition x.7: структура, особенности подключения и использования – Справочный центр – Справочный центр Astra Linux”. wiki.astralinux.ru. 2024年2月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月26日閲覧。
  34. ^ Основные компоненты Archived 27 January 2015 at the Wayback Machine. (ロシア語)
  35. ^ Операционная система "Astra Linux Special Edition" релиз "Смоленск" (версия 1.4) Archived 22 May 2018 at the Wayback Machine. (ロシア語)
  36. ^ Завершен инспекционный контроль версии 1.5 релиза "Смоленск" операционной системы специального назначения "Astra Linux Special Edition" Archived 8 May 2016 at the Wayback Machine. (ロシア語)
  37. ^ Вышла версия 1.7 релиза Astra Linux Common Edition (Orel) Archived 19 April 2018 at the Wayback Machine. (ロシア語)
  38. ^ Вышла новая версия "Astra Linux Common Edition" 1.10 – релиз "Орёл" Archived 11 August 2015 at the Wayback Machine. (ロシア語)
  39. ^ Вышла фиксированная версия 1.11 релиза "Орёл"”. 2016年4月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年4月19日閲覧。



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