電力中央研究所による放射線ホルミシス効果検証プロジェクト
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「放射線ホルミシス」の記事における「電力中央研究所による放射線ホルミシス効果検証プロジェクト」の解説
電力中央研究所の服部禎男は1984年、アメリカ合衆国の生化学者トーマス・ラッキーの唱えた放射線ホルミシス論を知った。これを受けて電力中央研究所は、1990年代から2000年代前半にかけて、放射線ホルミシス効果検証のための研究を行ったが、2014年に「ホルミシス効果を低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しい」とする見解を示した。 1993年、電力中央研究所は、東京大学、放射線医学総合研究所、京都大学、東北大学、大阪大学、広島大学、長崎大学、東邦大学など14の大学などの研究機関に研究費の提供を開始して研究を依頼し、放射線ホルミシス効果検証プロジェクトを立ちあげた。その後、電力中央研究所は、自らも2000年に理事長直轄の独立組織である低線量放射線研究センターを設立したが、2004年には電力中央研究所では頻繁に行われてきた全体及び各部門の組織名称変更により、それまでの狛江研究所が原子力技術研究所という名称に変更され、2006年にはその中に、低線量放射線研究センターが理事長直轄のセンターから原子力技術研究所内の附置センターに格下げされた形で、その目的も「原子力利用における放射線防護体系の構築を進めるため」と変更され、放射線安全研究センターと改名された。このプロジェクトでは、 老化抑制効果 がん抑制効果 生体防御機構の活性化 遺伝子損傷修復機構の活性化 原爆被災者の疾学調査 のカテゴリーで研究され、検討される仮説は以下の通りであった。 SOD(活性酸素を不均化する酵素群)の活性化によって余分な活性酸素が消去されるならば、それは「老化抑制」に寄与する リンパ球(T細胞)の活性化が生じるならば、それは生体の免疫力を高めて「がん抑制」に寄与する 1.の老化抑制効果の検証研究の結果、ラットを使った実験において、通常の老齢のラットでは、過酸化脂質量は大きくなり、膜流動性は低くなり、SOD量は縮減されることが確認されたが、約50センチグレイの低線量放射線を照射すると、上記の老化の特性は有意に改善され、若いラットの値に近づくことがわかった。また、活性酸素病の一つである[要出典]糖尿病に関して、低放射線量放射が、糖尿症状を抑制する結果を得た。 2.のがん抑制効果の検証研究の結果、ラットを使った実験において、15センチグレイの低線量照射を一回行うことで、がん転移率が約40%下がること、また、1回当たり4センチグレイの低線量照射を行うことで、腫瘍の増殖肥大が有意に抑制されることが確認された。 また、通常の放射線治療では、約6000センチグレイの高線量放射線を、30回に分けて患部に局所照射し、がん細胞を殺す方法が採用されている。これに対して、同プロジェクト東北大学グループは、これまでの局所照射方法に加えて、10センチグレイの低線量放射線を週3回の割合で全身に照射し、これを5週間にわたり継続して行う方法を併用したところ、高線量の局所照射を単独に行う場合に比べて、治癒率が有意に向上した。 また、同プロジェクトでは、分子レベル、細胞レベル、個体レベルの三つのレベルにおいての放射線ホルミシス効果が検証された。
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