転写における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/10 07:53 UTC 版)
Z-DNAは一般的に転写中のねじれひずみ(torsional strain)の解消をもたらすと考えられており、負の超らせんの形成と関係している。超らせんはDNAの転写と複製の双方と関係しているが、Z-DNAの形成は主に転写率と関係している。 ヒトの22番染色体の研究からは、Z-DNA形成領域とNFI(英語版)転写因子が結合するプロモーター領域には相関があることが示された。このことは、ヒトの一部の遺伝子の転写はZ-DNAの形成とNFIの活性化によって調節されている可能性を示唆している。 プロモーター領域の下流に存在するZ-DNA配列は、転写を促進することが示されている。転写活性の増加が最大となるのは、Z-DNA配列がプロモーター配列から3ターン分だけ下流に位置しているときである。さらに、Z-DNAはヌクレオソームを形成しにくいため、多くの場合ヌクレオソームはZ-DNA形成配列の後から配置される。この性質のため、Z-DNAはヌクレオソームの配置をコードしているという仮説が立てられている。ヌクレオソームの配置は転写因子の結合に影響を与えるため、Z-DNAは転写率を調節すると考えられている。 Z-DNAはRNAポリメラーゼの後方で一過的に形成されるため、活発な転写によって形成されたZ-DNAは遺伝的不安定性を増大させ、プロモーター近傍での変異傾向を生み出す。大腸菌Escherichia coliの研究では、プラスミド中のZ-DNA形成配列を含む領域では遺伝子の欠失が自発的に生じることが判明しており、また哺乳類細胞では、このような配列は染色体の二本鎖切断による巨大なゲノム断片の欠失を生じさせることが判明している。これらの遺伝的変化は白血病やリンパ腫といったがんでみられる染色体転座と関係しており、腫瘍細胞でみられる切断領域はZ-DNA形成配列の周辺にプロットされる。細菌のプラスミドでみられるような小さな欠失は複製の際のすべり(replication slippage)と関係している一方、哺乳類細胞でみられるようなより大きな欠失は、エラーが起こりやすい非相同末端結合過程によって引き起こされる。 臭化エチジウムのトリパノソーマに対する毒性は、キネトプラストDNAがZ型へシフトすることによって引き起こされる。このシフトは臭化エチジウムのインターカレーションと、その後のDNA構造のゆるみによって引き起こされ、DNAの巻き戻し、Z型へのシフト、DNA複製の阻害が引き起こされる。
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