説明できない実験結果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/08 14:31 UTC 版)
「標準模型を超える物理」の記事における「説明できない実験結果」の解説
素粒子物理学における発見の閾値と広く考えられている5シグマレベルで標準模型と明確に矛盾するとの実験結果は認められていない。しかし、全ての実験がある程度の統計的・系統的不確実性を含み理論的予測自体も正確に計算されることはほとんどなく標準模型の基本定数の測定における不確実性の影響を受けるため(影響が小さいものもあれば、相当大きいものもある)、たとえ発見すべき新たな物理学が存在しないとしても、何百もの実験的検証結果のうちいくつかは標準模型からある程度逸することが予想される。 ある瞬間には標準模型の期待値とは大きく異なるいくつかの実験結果が存在するが、より多くのデータが収集されているにつれて、統計的ゆらぎもしくは実験的誤差であることが明らかになってくる。一方では、標準模型を超えた物理は実験的予測と理論的予測の間の統計的に有意な違いとして必ず最初に実験上出現するであろう。 いずれの場合でも物理学者たちは結果が単なる統計上ゆらぎや実験的誤差であるのかはたまた新たな物理学の兆候であるのかを判断しようとする。統計的により有意な結果は単なる統計的な誤りということはありえないが、実験誤差もしくは実験精度の不正確な推定から生じることはある。多くの場合、実験は標準模型と代替の理論を区別できるであろう実験結果に対して敏感であるように調整されている。 注目すべき例には次のようなものがある。 陽子半径問題 – 標準模型は普通の水素の原子半径の大きさ(陽子-電子系)とミューオニック水素の原子半径の大きさ(ミュー粒子が電子の重い変種として振舞う陽子-ミュー粒子系)に関して正確な理論的予測をする。しかし、測定されたミューオニック水素の原子半径は、既存の物理定数測定値を用いて標準模型により予測されたものとは標準偏差の7倍に相当する違いがある。初期の実験における誤差推定値の正確さ(本当に小さな距離を測定する場合は、互いに4%以内におさまる)と矛盾を説明できる十分に動機づけられた理論の欠如に対する疑念があったため、物理学者たちは、結果が明らかに統計的有意性をもっており結果の実験的エラーの原因がはっきりと特定されていないにも関わらず、これらの結果を標準模型と矛盾するものと説明するのをためらった。 ミュー粒子の異常磁気双極子モーメント – ミュー粒子の異常磁気双極子モーメントの実験的測定値(ミュー粒子 "g − 2")は、標準模型の予測とは大きく異なる。 B中間子崩壊など – BaBar実験の結果はある種の粒子崩壊 (B → D(*) τ− ντ) が標準模型の予測よりも過剰に起きていることを示唆している可能性がある。この実験では電子と陽電子を衝突させて、B中間子と反物質B中間子が生じ、これが次にD中間子、タウレプトン、タウ反ニュートリノに崩壊する。過剰の確実性のレベル(統計的にいえば3.4シグマ)は標準模型からの逸脱を主張するのに十分ではないが、この結果は何かおかしいことの潜在的な兆候であり、ヒッグス粒子の特性を推測しようとするなど既存の理論に影響を与える可能性がある。2015年、LHCbは分岐率の同じ比率で2.1シグマの過剰を観測したと報告した。ベル実験も過剰を報告した。2017年、SMから5シグマの偏差が報告された。
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