語順・声調による格標示
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/18 00:30 UTC 版)
「ナンディ語」の記事における「語順・声調による格標示」の解説
Dryer (2013c) が Hollis (1909) の随所や Creider & Creider (1989:123-4) を根拠として示しているように、優勢な語順はVSO(述語-主語-目的語)である。しかし実際には格標示は声調のパターンの違いによって区別され、主語と目的語の順番は入れ替えることが可能である。以下に例文を挙げるが a. ではVSOとなりキベートが主語となっているのに対し、b. では同じキベートという語の声調パターンが異なって目的語となり、VOSとなっている。なお、例文中のキベートとキプロノはいずれも男性名である。 a. /ke̘ːr˨˩-e̘j˦ ki̘˦pe̘ːt˨ la̙ːk˨we̙ːt˦/ 見る-.mw-parser-output span.smallcaps{font-variant:small-caps}.mw-parser-output span.smallcaps-smaller{font-size:85%}ipfv キベート.nom 子供.obl (慣用綴り: Ke(e)rei Kibet lakwet.)キベートは子供を見ている。 b. /ke̘ːr˨˩-e̘j˦ ki̘˨pe̘ːt˨ ki̘p˦ro̘ː˨no̘˨/ 見る-ipfv キベート.obl キプロノ.nom (慣用綴り: Ke(e)rei Kibet Kiprono.)キプロノはキベートを見ている。 どのような名詞であっても動詞の後で主語を表す声調パターン(Creider & Creider (2001) のいう「主格」)とそれ以外のあらゆる場合に用いられる声調パターン(Creider & Creider (2001) のいう「対格」)の2種類の声調パターンを持つが、「主格」の方が予測可能であるのに対し、「対格」の方は予測不可能である。「主格」の声調パターンは主に以下のような法則により導き出すことが可能である。 2音節語の第2形式は低声調化する。例: lakwet〈子供〉/la̙ːk˨-we̙ːt˦/〔「対格」〕→ /la̙ːk˨-we̙ːt˨/〔「主格」〕〈子が〉 3音節以上の語の第2形式は最初と最後が低声調、残りは全て高声調化する。例: arawet〈月〉/a̙˦ra̙w˦˨-e̙ːt˦/〔「対格」〕→ /a̙˨ra̙w˦-e̙ːt˨/〔「主格」〕〈月が〉 ただし例外的に kip- や chep- といった接頭辞を持つ語の場合は、その接頭辞が高声調化するだけとなる。例: Kiplagat〈キプラガト; 男性名〉/ki̙p˨-la̙˨ka̙t˨/〔「対格」〕→ /ki̙p˦-la̙˨ka̙t˨/〔「主格」〕〈キプラガトが〉 Dryer (2013b) によれば格の違いを接尾辞で表す言語が452(朝鮮語、フィンランド語、ロシア語などが該当、ただしアルメニア語などのように同一言語の方言も含む)、何の接辞や接語も用いない言語が379(英語やスペイン語などが該当)、後置接語で表す言語が123(日本語や中国語などが該当)、接頭辞で表す言語が38(ウガンダのナイル諸語の一つテソ語 Teso やモロッコのシルハ語、南アフリカ共和国のズールー語、カナダのシュスワプ語などが該当)、前置接語を用いる言語が17(例: フランス語、アラビア語イラク方言および同シリア方言(英語版)、ルワンダ語)などであるのに対し、声調の違いが格の違いとなる言語はナンディ語を含めてもたったの5つで、ナンディ語以外の内訳はマサイ語(ケニアおよびタンザニア)やシルク語(Shilluk; 南スーダン)(以上、ナンディ語と同じナイル諸語)、チャドのマバ語、マリのドゴン語(英語版)ジャマサイ方言(Jamsay Dogon)である。また Dryer の調査の対象外ではあるが、ナンディ語と同じカレンジン言語群のキプシギス語やポコット語(Pökoot; Pokot とも)にも基本語順VSOかつ声調による格標示という特徴が見られる。
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